2021年下半期の直木賞に『塞王の楯』(集英社)が受賞しました。穴太衆の石積み職人を主人公に、関ヶ原の戦いの前哨戦となった大津城攻防戦を描いた500ページを超す大作です。受賞発表の際には涙も見せた作者の今村翔吾さんの特別インタビューを前後編でお届けします。前編では、作品にかける思いや『塞王の楯』制作の舞台裏をお伺いしました。

穴太衆は戦国時代の「守る」の象徴
『塞王の楯』は、石工職人と鉄砲職人の視点から戦国時代の攻城戦を描いた歴史エンタメ小説である。主人公は自らも戦災によって家族を失った、穴太衆(あのうしゅう)の若き頭領となる飛田匡介。そのライバル役として、国友衆(くにともしゅう)を率いる国友彦九郎が登場する。穴太衆とは、寺院や城郭の石垣づくりを専門とした石工集団、国友衆は戦国時代に広まった鉄砲製造を生業とした鍛冶集団で、どちらも近江国(現・滋賀県)を本拠にしていた。

戦国時代を題材にした小説は無数にあるが、作品の中心に職人を据えるというのはめずらしい。今回、穴太衆に注目したのはどんな理由だったのか?

(今村)
僕が小説を書き始める場合は、まず大きなテーマを決めてから、逆算的にどの時代を扱うか、どの視点で作品をつくれば一番このテーマを伝えられるかということを考えます。はじめに「織田信長」を書きたいとか、「本能寺の変」を書きたいというのはあまりありません。

今回の小説では、「人間同士の争い」というのがテーマにありました。「戦争はなぜ起こるのか」、「人は望んでいないのになぜ争うのか」ということを書きたかったんです。そのテーマから本書の「守る対攻める」という設定を考えたとき、攻める側は雑賀衆でも甲賀衆でも何でもいけるなと思ったのですが、守る側ははじめから穴太衆一択でした。石垣や穴太衆の存在というのは、戦国時代の「守る」の象徴みたいなものですよね。