また、現実では大規模な建設プロジェクトには工期の遅れや計画変更などのトラブルが付きものだが、物語の中でも様々な困難が藤九郎に降りかかる。前述の西生浦城では、4カ月で7000人以上が駐屯できる石垣の城を造るよう命じられ、クライマックスの熊本城でも当初3年計画だった工期を8カ月に短縮されるなど不可能に近い要求を突きつけられている。しかも、築城が失敗すれば藤九郎はすべての責任を取って切腹しなければならないのだ。普通なら、逃げ出したくなる過酷な状況だが、藤九郎は「命の一つくらいくれてやる!」という覚悟で築城に挑んで行く。そして、弟の藤十郎や弟子の又四郎といった仲間たちと助け合いながら試練を乗り越え、やがて家中の誰もが認める城取りへと成長していくのだ。その姿は、現代のビジネスマンにも通じるところがあり、社会の荒波に揉まれる私たちを勇気づけてくれる。

最後に、物語の舞台である熊本城は、2016年4月の熊本地震で大きな被害を受けた。城では現在も懸命な復興工事が進められており、2020年6月には天守や石垣を間近で見られる「特別見学通路」が公開された。2021年春には大天守が復活する予定とのことなので、本書の読了後はぜひ熊本を訪れて名もなき城取りたちの物語に思いを馳せてみてほしい。

[著 者]伊東潤
[書 名]もっこすの城 熊本築城始末
[版 元]株式会社KADOKAWA
[刊行日]2020年9月30日

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2020年9月初出の記事を再編・再掲載