お城のガイドや解説本はもちろん、小説から写真集まで、お城に関連する書籍を幅広くピックアップする「お城ライブラリー」。今回取り上げるのは山本兼一著『火天の城』。「達人・職人の名手」と呼ばれる山本が、織田信長に仕えた大工・岡部又右衛門を主人公に安土城築城を描いた異色の戦国小説だ。前代未聞の七重天守は、果たして無事に完成するのか!?

安土山に天下に類なき天主を建てよ
『火天の城』は、戦国時代や幕末を舞台とした作品を多く手がける、山本兼一の小説。山本は職人や文化人を主人公にし、その活動を巧みな文章力でリアルに書き上げることから「達人・職人の名手」と評価されている。本作は、日本初の近世城郭として有名な安土城(滋賀県)の築城プロジェクトを、天守作事を手がけた大工頭・岡部又右衛門(おかべまたえもん)の視点から描き、2004年に松本清張賞を受賞した山本の代表作だ。

築城を主題とした本作には、普通の歴史小説のような合戦の描写は一切出てこない。「戦いが出てこない歴史小説なんて面白いの?」という声が聞こえてきそうだが、そこは心配ご無用。築城に用いられる巨大な木材や石材を運ぶシーンは、まさに命がけでその緊張感は合戦シーンに勝るとも劣らない。

特に緊迫感があるのが、史実で150人以上の死者を出した蛇石と呼ばれる巨石を運ぶ場面だ。石垣の普請中に観音寺山の石切場で発見された3万貫(約112.5t)の巨石を気に入った信長は「なんとしても、本丸に据えよ」と命じる。「あの蛇石は御神火の化生。無理に山を登らせますると、災厄をもたらします」という石工頭の反対を押し切り、2万人以上の人足を駆り出して運ぶことになった。信長や重臣たちが音頭を取る中、蛇石は途中まで順調に進むが、最後の上り坂で引綱が切れ石工頭が言ったとおり数百人の犠牲を出してしまった。祭りのように賑やかだった石曳きが一瞬にして地獄と化す様は、城とは人の犠牲の上に建てられていることを冷徹に読者に突きつけてくる。