10月の導入開始を目前に控えるインボイス制度だが、経理担当者の事務負担増に繋がることは確実だ。「インボイス制度を考えるフリーランスの会」が企業の経理業務担当者に行ったアンケートでは、33%がインボイスによる業務の変化・増加を理由に「異動・退職・転職」を検討するという衝撃的な結果が発表された。このアンケートから、事務負担増の深刻さは企業活動にも影響必至だ。

36万筆の反対署名を提出


10月1日の導入開始を目前に控えるインボイス制度。実質的な消費増税であり、フリーランスだけでなく会社員も事務負担増など多くの不利益を被るため、多くの国民が反対の声をあげている。

インボイス制度の中止・延期を求める団体「STOP!インボイス」が9月4日に議員会館で開催した緊急提言記者会見では、約36万筆の反対署名を関係省庁(財務省、国税庁、公取委)に提出。提出前の1ヶ月間で15万筆以上を積み上げるという驚異的な伸びを見せ、オンライン署名の国内最多記録(東京五輪開催中止 約46万筆)更新も時間の問題となっている。


2023年9月4日 緊急提言記者会見 約36万筆の署名提出時(STOP!インボイス提供)


同会見ではさまざまな業界(声優、軽貨物、農業、建設、司法書士、競馬等)の当事者が登壇し、インボイス増税による悪影響を具体的に訴えた。また、経理担当者向けのアンケート結果も発表され、そこには経理担当者の実に3人に1人がインボイスによる業務の変化・増加で「異動・退職・転職」を考えているという衝撃的データも含まれていた(アンケートには経理専任、経理兼任、経営者兼経理などを含めて経理実務に携わっている計709名が2022年12月26日〜2023年8月2日にWebフォームで回答)


当然ながら経理担当者はあらゆる企業のバックオフィス業務を支える存在のため、インボイス制度の悪影響は全ての業界の会社員にも及ぶ。そこで本記事では同アンケートの内容を抜粋して事務負担増の深刻さを紹介していく。



*上記は当日の会見映像。外部サイト等で動画を再生できない場合、筆者のYouTubeチャンネル「犬飼淳 / Jun Inukai」で視聴可能。動画タイトルは「インボイス制度の中止・延期を求める緊急提言記者会見」。経理アンケートの説明は14分30秒〜、各業界の当事者報告は24分0秒〜


経理担当の83%超がインボイスに反対


まず、「インボイス制度の導入について、あなたはどのようにお考えですか?」との問いに対する回答は以下のとおりだった。


将来的にも導入するべきではない 83.1%
予定通り2023年10月から実施すべき 8.0%
導入時期は延期すべき 5.1%
その他 2.8%
インボイス制度についてよく知らないのでわからない 1.0%


STOP!インボイス 「経理担当者向け「インボイス制度」に関する意識調査」


ここでは経理担当者の圧倒的多数である88.2%がインボイス制度の中止・延期を望むという反対の姿勢がハッキリと現れた。特に、延期ではなく中止を求める声が83%超という圧倒的な結果となった。

なぜ、ここまで声を揃えて経理担当者が反対するのか。その理由は、次の質問で明らかになった。


質問:
前問で「将来的にも導入するべきではない」「導入時期は延期すべき」「その他」と答えた方にお聞きします。その理由としてあてはまるものをすべてお選びください。

回答:
インボイス制度の事務負担が大きいから 83.9%
免税事業者の経済的負担が大きくなるから 74.6%
そもそも消費税を減税・廃止すべきだから 60.0%
社会全体で、インボイス制度の周知が足りないから 55.3%
コロナ禍や物価高騰の影響でダメージを受けている状況だから 44.3%
個人情報の取扱に不安が残るから 41.6%
インボイス制度の内容についてよく理解できていないから 16.0%
その他 6.2%
無回答 2.9%


STOP!インボイス 「経理担当者向け「インボイス制度」に関する意識調査


1位は「事務負担が大きいから」で、もともと煩雑な業務を押し付けられがちな経理担当者としては、インボイス制度導入で状況がさらに悪化することを懸念していると見られる。


複雑怪奇な制度によるシステム改修の負担


経理担当者の事務負担が大きくなる背景として、取引先のインボイス登録状況ごとに対応を変えなければならないことが関係する。経理担当者としてはイレギュラーな作業は効率を落とすため、できるだけ単一税率で処理したいが、以下の質問から、フリーランス/小規模事業者が2割以上という答えは62%超だった。


質問:
あなたの会社の取引先に占めるフリーランス/小規模事業者の割合はどの程度ですか?

回答:
ほとんどいない(1割未満) 31.5%
少しいる(2割〜4割程度) 27.5%
そこそこいる(4割〜6割程度) 14.7%
多い(6割〜8割程度) 11.0%
ほとんど(9割以上) 8.9%
わからない 5.5%
その他 1.0%


STOP!インボイス 「経理担当者向け「インボイス制度」に関する意識調査」


複数税率の処理は、税率を間違えると納税額も変わり損益実績も変わるので更なる正確さを求められる。
さらに、政府が負担軽減という建前で導入した激変緩和措置は、ただでさえ複雑なインボイスをさらに複雑怪奇にさせ、税の三原則「公平・中立・簡素」から大きくかけ離れる。
*激変緩和措置の実態は、筆者のtheLetter「インボイス 負担軽減策の実態」(2022年12月5日)参照

3年間もしくは6年間限定で対応を変化させなければならない激変緩和措置にシステム対応できない場合、免税事業者との取引は手計算になる場合もあり、複雑な事務処理に対応しきれないため免税事業者との取引を諦める会社が出る可能性も懸念される。 では、システムの導入状況はどうなっているのだろうか。


STOP!インボイス 「経理担当者向け「インボイス制度」に関する意識調査」


質問:
設備投資のための補助金がありますが、 あなたの会社は新システムの導入などを検討していますか

回答:
していない 39.1%
まだ決まっていない 18.6%
補助金があるのを知らなかった 18.3%
している 15.2%
わからない 8.7%


「検討している」という回答はわずか15.2%。国会で閣僚は「IT導入補助金が使える」と繰り返しアピールしていたが、 ほとんど認知されていないという結果に。そもそも1人から4人程度しか経理に人数を割けない中小企業は、補助金があっても高額ソフトの導入やシステム改修費を工面する余裕は無い。1人で全て対応する個人事業主は尚更である。

仮にシステムを改修できたとしても、結局は請求書や領収書のインボイス番号確認や、免税事業者に対する激変緩和措置などの仕訳入力がとても煩雑になるため、業務工数が確実に増えるという不安の声は多数あがっている。


インボイスが経理担当者のモチベーションを下げている


このような状況では経理担当者のモチベーションが下がるのも必然であり、冒頭で紹介したとおり、経理担当者の33%がインボイスによる業務の変化・増加を理由に「異動・退職・転職」を検討するという異常事態となっている。


STOP!インボイス 「経理担当者向け「インボイス制度」に関する意識調査」


質問:
2023年10月にインボイス制度が導入された場合、 経理としての業務は変化・増加することが予想されます。 インボイス制度が原因で経理の仕事を離れたいと思ったことはありますか。

回答:
業務が増えてもこのまま経理を続けるつもり 51.6 %
業務が増えたら退職/転職したい 24.0%
業務が増えたら異動したい 9.3%
その他 9.4%
業務が増えることはないと思う 3.7%
むしろ業務は減ると思う 2.0%


インボイス制度が導入された場合、業務が増えると覚悟している経理担当者は実に約85%。しかし、間接部門(経理・人事・総務等)を軽視する傾向にある日本企業において、人員増や給与・手当増などのフォローがあるとは考えにくい。 そうした背景もあり、インボイス導入後の業務増加を理由に「異動 」もしくは「 退職 / 転職 」したいと考える経理担当者は実に33%にのぼる。

さらに、10月から始まる地獄を見越して、アンケートの自由回答には悲鳴のような経理担当者の声が並ぶ。


過去も含めた取引先全てに対して登録状況や番号を調査することが現実的ではなく、親会社の方針とかみあわず動き出せないが、社内では急かされるため困っている。
(従業員規模500人未満の企業)

システム改修が追いつかない。大企業の関係会社というだけで一切支援などはない(ましてやロイヤリティを支払う側)のに、補助金対象から外される中規模事業者であるため、費用負担もなくコスト負荷が高い。
(従業員規模500人未満の企業)

少数精鋭で分業している経理社員の退職がすでに起き、制度導入後、ドミノ倒しで退職が続く恐れ。財務省は社員採用コストを負担してくれないでしょ?
(従業員規模500人未満の企業)

インボイス導入と同時に廃業する業者が複数あり、その後の人材確保が困難になるため事業の縮小及び利益(納税額)の低下が確実視できる。
(従業員規模50人未満の企業)

仕入税額控除の対象になるか否かの情報が現場から経理部門に適切に集約できるかが疑問。経理担当者以外への周知が致命的に欠けており、法に基づく運用自体が現実的でない。
(従業員規模10人未満の企業)

出典:STOP!インボイス 「経理担当者向け「インボイス制度」に関する意識調査」


当然ながら経理担当者はあらゆる企業のバックオフィス業務を支える存在である。3人に1人が退職したり、残ったとしても著しくモチベーションが下がった状態では、企業活動に支障が出ることは必至。人員不足やモチベーション低下によって経理部門だけではインボイス制度開始後に発生する新たな事務処理をこなせない状況に陥れば、その皺寄せはライン部門(直接売上に関わる部門)に及ぶだろう。つまり、インボイス制度の悪影響は全ての業界のあらゆる部署の会社員にも及ぶといえるのではないか。

*悪影響の全体像は筆者のtheLetter「国民全員に悪影響が連鎖するインボイス。問題と被害の全体像」(2022年9月29日)参照


文/犬飼淳