ソニーが誇るイヤフォン/ヘッドフォンの最上位

無線で音楽を楽しめるワイヤレスイヤフォンにはいくつかタイプがありますが、最近は左右の本体を結ぶケーブルがない左右独立型の「完全ワイヤレスイヤフォン」が主流です。また近年では、電気的な音声信号処理により、リスニングに不要なノイズを消すアクティブノイズキャンセリング(以下、ANC)機能を搭載する製品を手にするユーザーが増えています。
ソニーの「1000X」シリーズは、2016年の秋にワイヤレスヘッドフォン「MDR-1000X」が最初のモデルとして発売されました。それ以来、ソニー独自開発のANC機能と高音質なサウンドを兼ね備えるフラグシップとして、ヘッドフォンとイヤフォンが誕生。それぞれに進化を重ねてきました。

9月1日に発売される「WF-1000XM5」は、シリーズ4番目となる完全ワイヤレスイヤフォンの新モデル。製品名にある「M5」は、“マーク・ファイブ”に由来しています。ちなみに、1世代前の「M4(マーク・フォー)」は、2021年に発売されて大ヒットとなったモデルです。
新旧モデルで何が変わった?
新製品のWF-1000XM5(以下、マーク5)は、WF-1000XM4(以下、マーク4)に比べるとイヤフォン本体の質量は約20%、体積が約25%も小型軽量化しました。曲面を活かすデザインを採用しているので、耳にフィットする感覚もさらに向上しています。
本体はサイズダウンしながらも、描き出すサウンドはスケールがさらに大きく、堂々とした鳴りっぷりが印象的。ディティールの再現力が高く、「LDAC」というBluetoothオーディオの通信方式に対応するAndroid系スマートフォンやポータブルオーディオプレーヤーと一緒に使うと、CDを超えるハイレゾ音質で収録された音楽コンテンツをより高品位に聴ける“ハイレゾワイヤレス再生”を楽しめます。


ANC機能は、マーク4の時点ですでに高いレベルに到達していました。それにも関わらず、マーク5のANC機能はいっそうのレベルアップを感じる完成度。すべての音域に渡ってノイズがより自然に消去されます。
筆者もさっそく新幹線の車内で試してみましたが、持続的に響く高音・低音の走行ノイズから、乗客の会話の声までが、ピタッと静かになります。ひと昔前であれば、これほどの消音効果はイヤーカップで耳を覆うANC機能付きヘッドフォンでなければ得られませんでした。ソニーのマーク5は、現在流通しているワイヤレスイヤフォンの中でもトップクラスのANC性能を備えていると感じます。
ANC付きワイヤレスイヤフォン/ヘッドフォンの中には、消音効果が強すぎて長い時間使っていると疲れてくる製品もあります。その点、M5では負担が少なく、自然な静穏環境を作り出したうえで、コンサート会場で聴く音楽、映画館で鑑賞する音声のような、豊かで広がりのあるサウンドが聞こえてくる体験が得られました。

ワイヤレスヘッドフォン「WH-1000XM5」にはない強みは?
1000Xシリーズの現行ラインナップには、ソニーの最先端技術を搭載するワイヤレスヘッドフォン「WH-1000XM5」(ソニーストア価格:5万9400円)も用意されています。マーク5と多少価格差はありますが、新しいイヤフォン/ヘッドフォンの購入を検討している方のなかには、どちらを買おうか悩んでいる人も多いかもしれません。
WH-1000XM5は非常に完成度の高いヘッドフォンですが、一方のマーク5もまた、サウンドのスケール感やANCの効果において引けを取っていません。むしろ充電ケースのサイズも含めてコンパクトに持ち歩けることや、耳に装着したときにも目立ちにくいことから、仕事用のコミュニケーションツールとしてはイヤフォンタイプのマーク5のほうが適しているといえます。
また、たとえば飛行機を使った出張時などには、手荷物を格段にコンパクトにできるマーク5はとても重宝します。ただし、完全ワイヤレスイヤフォンは機内エンターテインメントシステムとの有線接続ができません。一方のWH-1000XM5にはヘッドフォンケーブル入力端子が用意されているので、ケーブルさえ用意すれば機内でもサッと取り出して利用することができます。
もしマーク5を機内エンターテインメントにも活用したい場合は、エレコムのBluetoothトランスミッター「LBT-ATR01BK」のように、機内エンターテインメントのオーディオ出力に装着してオーディオ信号をワイヤレスで飛ばせるデバイスを組み合わせるとよいでしょう。

「ワイヤレスヘッドフォンに比べて、ワイヤレスイヤフォンは連続駆動時間が少ないことが心配」という声もよく聞きますが、ソニーのマーク5は、ANC機能をオンにした状態で、最大8時間の連続オーディオ再生に対応。加えて充電ケースで2回チャージができるので、トータルで24時間のバッテリー持続時間を実現しています。普段のリスニング用途であればバッテリーが尽きる心配もなさそうです。
WH-1000XM5に対するマーク5の弱点を強いて挙げるとすれば、本体が小さいために、紛失する恐れがあること。しかしその点においても、マーク5はワイヤレスイヤフォンとAndroidスマートフォンを簡単にペアリングできる「Google Fast Pair」内の「探す」機能に対応しているので、いざというときにも着信音を鳴らして探すことができます(iPhoneは非対応)。

イヤフォンとヘッドフォン、どちらを選ぶかは個人の好みによるところがありますが、筆者としては、イヤフォンには耳に装着したときの負担感が少なく、蒸し暑い夏も含めてオールシーズンで使いやすいなどのアドバンテージがあると感じています。
特にマーク5はイヤフォン本体がIPX4相当の防滴対応なので、フィットネスジムなどで身体を動かしながら、またはキッチンで料理をしながら音楽を楽しむ使い方に適しています。
音のキャラクターが異なる2機種
マーク5のライバル機種として真っ先に挙げられるのは、同価格帯かつANC機能を搭載するApple純正の「AirPods Pro」(3万9800円)です。実際、筆者も「AirPods Proとソニーのワイヤレスイヤフォン、どっちを買ったほうがいい?」と聞かれることがよくあります。

スペック表ではわからない両製品の大きな違いをひとつ挙げるとすれば、それは「音のキャラクター」です。
音質そのものはどちらのイヤフォンも完成度が高く、たとえばボーカルの声や楽器の音色のリアリティ、低音のパワフルさなどは、それぞれ非常にハイレベル。音のキャラクターはマーク5が「ウォームな濃厚系」で、オーディオ的なきめ細かさが特徴です。対するAirPods Proは、ハンズフリー通話の快適さも徹底的に追求された「クールなクリア系」のサウンドだといえます。
形状同様に、音質も個人の好みが分かれるところなので、できればショップなどで実機を体験しながら、どちらが自分の好みに合うサウンドなのかを聴き比べてみるべきです。ANC機能の消音効果もまた、イヤフォン本体のデザインや付属するイヤーチップの違いなどによって、自分の耳に合う/合わないが若干出てくるので、やはり実機を試すことが購入前の大事なポイントになります。
プレミアムなワイヤレスイヤフォンは結局「お買い得」
海外に比べて、日本ではAndroidよりもiPhoneを使っているスマホユーザーが多いとされています。その点ソニーのマーク5は、AndroidとiPhone、どちらと組み合わせて使った場合でも、オーディオ性能やANCといった機能面には大きな違いはありません。

しかしながら、iPhoneユーザーはAirPods Proを選んだほうが「Bluetoothペアリングの初期設定が簡単」やAppleの「空間オーディオ」で立体音楽体験を満喫できるといったメリットが得られます(もっとも、マーク5でも初期設定さえ済ませてしまえば、iPhoneとの2回目以降のペアリングは自動で行われますが)。
Appleが生み出すエコシステムの中で、提供されている機能を最大限活かしたいなら、やはりiPhoneユーザーはAirPods Proを選んだほうがよいかもしれません。
今回レビューしたマーク5やAirPods Proのほかにも、今はANC機能に対応したプレミアムな完全ワイヤレスイヤフォンには魅力的な製品が続々と登場しています。イヤフォンの価格として「3万円以上」は高額に感じられるかもしれませんが、最近の製品は多機能であるうえ、長年に渡って使える安心感もあります。
安価なイヤフォンで済ませるよりも、ソニーのマーク5のように高品位な音質とさまざまな機能が充実する製品を選ぶほうが、結局は「お得な買い物」になると筆者は思います。
文・写真/山本敦