3000円のパンケーキは高いけど、3000円の予算で飲みに行ったとしたら、一体どれだけ飲めるだろうだ。からっきしの下戸だった菅元首相が2日に一回訪れていたレストランとは。首相の動静からうかがえる、歴代首相たちの食の好みを考察する。

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菅義偉――欲しがりません、飽きません


新元号「令和」を菅義偉官房長官(当時)が発表した際の人気バンド「RADWIMPS」の野田洋次郎氏のTwitterが話題を呼んだのを覚えている人も少なくないだろう。



菅さんは俺の中学、高校時代の友達のお父さん。菅の家に泊まりに行くとお父さんが帰ってきてあれこれ酔っぱらいながら話をしてくれた。少し目が怖いけど優しい人だった

おお、野田洋次郎と時の官房長官が知り合いだったのかと驚いたが、菅氏を知る人は首をかしげたはずだ。

菅はからっきしの下戸で名刺の裏にかつて「アルコール:全然ダメ」、「好きな食べ物:甘いもの・めん類」と記したこともある。のちに菅氏自身が文春オンラインのインタビューで「私、子どもたちが集まっていると、「おいっ! ちゃんと勉強してるか」とか言いながら肩を組んで、必ず会話の中に入っていくわけです。

うちの子が「だめだ、だめだ」と言うんですけど。真面目な話は全然していない(笑)。だから酔っぱらって見えたのかもしれないな」と振り返っている。


食事にあまりこだわりはない


下戸が甘党であることはよくある。菅氏も首相就任当初、「3000円のパンケーキ」を食べている姿が批判されたが、3000円を握りしめて酒を飲みにいってどれくらい飲めるかと考えれば、一国の宰相にそれくらいの自由を許してもいいだろう。

めん類が好きというのは、素早く食べられるからという理由だ。食事にあまりこだわりがないのは、毎日の「首相動静」からもうかがえる。

首相動静は首相がその日にいつどこで誰に会ったかが記されている。菅首相が2020年9月16日に就任して以降1ヵ月(正確には10月13日まで)の動静を調べると、食事や会食が決められた場所で行われているケースが多い。



菅義偉に高確率で会える…大好きなレストラン「ORIGAMI」


最も多いのが、赤坂のザ・キャピトル東急のダイニング「ORIGAMI」。終日利用できることもあり、朝食がてらの会食や昼食、夕食を問わずに利用している。

その回数は14回。1日に1回の利用として単純計算すると2日に1度は訪れている計算になる。赤坂の議員宿舎から近いとはいえ、同日の昼夜に行くこともあれば、朝に食事して夜の会食の後に秘書官と再度訪れることもある。ちなみに食べログの☆は3・55だ(2022年10月5日時点)。

その次によく利用しているのが、ホテルオークラのダイニング「オーキッド」で9回。3日に1度は行っている。そして、「オーキッド」に続くのが中華料理の「星ヶ岡」。こちらもザ・キャピトル東急ホテルにある。ちなみに菅氏はフィットネスクラブも同ホテルで、散髪も同ホテル内の「カージュラジャ ティアド」が行きつけだった。

「一国の首相は忙しいんだから、効率的に食事を済ませたいんでしょ」とも思ったが、近年の歴代総理を調べてみるとそうは言い切れない。


菅義偉の飯の食い方


例えば第2次安倍政権時に、安倍晋三首相はORIGAMIをよく使っていたが、就任4年の段階で40回の利用だ。菅氏の1ヵ月に14回がいかに多いかがわかるだろう。第2次安倍政権が発足した2012年12月27日からの1ヵ月では1回しか利用していない。

安倍氏の場合、就任1ヵ月の期間が年末年始をはさんでいたことや数日の外遊もあったとはいえ、会食に同じ店を使うことはなかった。コロナ禍の2020年と2012年を単純比較できないが、菅氏の嗜好がうかがえるだろう。

ちなみに「首相経験者の菅氏」と言えば、呼び名が違うが同じ漢字の菅直人氏がいる。2010年6月8日に発足した菅直人内閣の動静を見ると、就任直後はほとんど会食がセットされていない。



地方回りの際に関係者や後援者と地元の店に行くことはあったが、首都圏近郊の名が登場するのは6月19日、ホテルニューオータニの中国料理店「大観苑」、30日の赤坂のすし店「石」、7月4日の赤坂の焼肉店「叙々苑 游玄亭赤坂」といったところか。いずれも伸子夫人が同席している。どんだけ仲良しなんだと突っ込みたくなるのは私だけだろうか。

伸子夫人の著書『あなたが総理になって、いったい日本の何が変わるの』(幻冬舎新書)では夫の首相適性を疑いながらも、私もともに行くしかないと述べているが、こういうことだったのか。

最近の政治家は個性がないとか言われがちだが、政治家も人だ。政治家も会食ひとつでどこで食べるのかに色が出る。


伊藤博文の女癖
若者に響かない岸田首相の酒豪伝説


文/栗下直也
写真/shutterstock


『政治家の酒癖』(平凡社刊)

栗下 直也

2023/3/17

968円

198ページ

ISBN: 978-4582860252

宴席をめぐって人心を掌握する田中角栄や酒を飲ませて部下の本心をさぐるピョートル大帝など、古くから、「酒」は人間関係を紡ぐ潤滑油とされ、時の為政者は、酒を勧める会食・宴席を重視した。
その一方で、飲み過ぎて周囲の信頼を損ねたエリツィンや酒をやめられずに命を落としたムスタファ・ケマルなど、酒によってその地位を危うくしたり失う者もいた。
歴史を動かしてきた政治家たちはいかに酒を飲んだのか。
古今東西の政治家と酒にまつわる、奇想天外なエピソードをユーモラスにつづる。