日本の「なでしこジャパン」と北朝鮮の、パリ五輪出場をかけたサッカー女子のアジア最終予選第2戦が28日、国立競技場で行われる。日本は昨年秋の中国・杭州アジア大会決勝で北朝鮮に4-1で快勝しているが、24日にサウジアラビア・ジッダで行われた第1戦では、北朝鮮は日本の攻撃をしのいで0-0のドローに持ち込んだ。国立での第2戦は在日朝鮮人の大応援団が声援を送る準備をしており、強力な助っ人になりそうだ。勝ったほうがパリ行きを決める大一番。果たして勝者は−。

「本国から来るチームを目の前で応援できることは本当にうれしいことなんです」


大一番を前にした2月26日夜、日本サッカー協会(JFA)がX(旧ツイッター)で衝撃的な数字を発表した。同日午後5時時点でのチケット販売済み枚数が、いずれもゴール裏で、ホームが1526枚、アウェーが3000枚(完売)だという。アウェー、つまり北朝鮮の応援団の規模が、なでしこ応援団の2倍近くに上っているのだ。在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)のある活動家は興奮気味にこう語った。


日本入りした北朝鮮代表(写真/共同通信社)


「北朝鮮の応援団は3500人を超える勢いです。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年1月末からウリナラ(わが国=北朝鮮本国の意味)には感染対策で在日朝鮮人は入れなくなり、今もその状態が続いています。ウリナラとの往来ができなくなって寂しい想いをしていた同胞たちにとって、本国から来るチームを目の前で応援できることは本当にうれしいことなんです」

第1戦は当初、平壌の金日成競技場で開催予定だった。しかし試合運営などで不透明な点が多かったため直前の21日になって中立地・ジッダでの開催が決まり、無観客で行われた。北朝鮮はホームのアドバンテージを失った上、チームは北京を経由した長距離フライトで日本チームより一日遅い22日にジッダ入り。それでも24日の試合はなでしこを「薄氷のドロー」に追い込み、昨秋の杭州での大会からの成長ぶりを印象付けた。



スポーツ報道では異例の「重要ニュース」


北朝鮮ではサッカーは超人気スポーツで、欧州プロリーグの試合が国営朝鮮中央テレビでよく放映されている。西側のプロチームに近い「体育団」同士が競い合い、その中から優秀な選手が国家代表に選ばれる。

「北朝鮮は子どもを得意分野に特化させる教育を進めていて、スポーツの分野も例外ではない。将来有望だとみなされた子が体育団に入るため、庶民の家庭から出てきた選手も多い」(北朝鮮関係者)


国立競技場に貼られたポスター(撮影/集英社オンライン)


朝鮮総連機関紙、朝鮮新報が「エース」「チームのまとめ役」と紹介するFWのスン・ヒャンシム選手(24)=平壌体育団所属=はコロナ禍前の2017年のアジアサッカー連盟(AFC)のU19選手権で最優秀選手賞と得点王の2冠に輝いている。金正恩朝鮮労働党総書記はスポーツ振興に力を入れると再三強調しており、アジアの強豪の一角を占めるサッカーには国全体が大きな期待をかけている。

26日には国営朝鮮中央通信が、第1戦がドローに終わり、28日に日本で第2戦が行われることを伝えたが、スポーツ報道では異例の「重要ニュース」として扱った。


国立競技場(撮影/集英社オンライン)

サウジアラビアから移動してきた北朝鮮チームが25日深夜、羽田空港に到着すると、集まった在日朝鮮人約200人が熱烈に歓迎し、朝鮮総連トップの許宗萬議長が直々に出迎えた。もし五輪出場を決めれば、コロナ禍を脱した後の北朝鮮スポーツ界では最大級の慶事で、本国と在日朝鮮人コミュニティがお祭り騒ぎになることは必至だ。

「コロナで国際大会出場を見送っていた北朝鮮が約5年ぶりに選手を派遣した杭州アジア大会では、メダルを獲得した体操や重量挙げの選手らに帰国後、盛大な祝賀会が開かれました。国内メディアでも大きく報じられ、国家の英雄的な扱いを受けています。女子サッカーが五輪出場を決め、さらに好成績を残せばそれ以上の待遇になるでしょう」(北朝鮮ウォッチャー)


負けたら懲罰? 「都市伝説です」


反対に、これだけの期待を集めながら敗れればどうなるのか。

「スポーツで負ければ監督や選手が“懲罰”を受けるとまことしやかに言われていますが、これは都市伝説ですね。昨秋、杭州でチームの指揮を執り日本に敗れた、リ・ユイル監督は今回も来日。朝鮮新報のインタビューに『(杭州でのチームは)ほとんどが若手選手で構成され国際試合の経験が不足していた。当時の試合を通じて得た経験と教訓をもとに、今回の試合のために技術と戦術の両面でしっかり準備してきた』と話しています」(前出・北朝鮮関係者)

金正恩氏と腕を組む妹の金与正氏(写真/共同通信)

杭州アジア大会で北朝鮮サッカーチームは日本戦においてラフプレーを連発し、女子が1枚、男子は6枚ものイエローカードを受けていたが、ジッダでの第1戦はクリーンな戦いぶりが目につき、カードはゼロだった。これには政治的な背景も囁かれている

「金正恩氏の妹の金与正党副部長が15日の談話で岸田首相の平壌訪問に言及し、日本との緊張緩和を模索する動きを見せています。これが北朝鮮のプレーに影響を与えているのではとの声がある。一方で北朝鮮チームの調子が昨秋より上がっており、ラフプレーをするほど追い込まれていないとの見方もあります(笑)」

世界ランキングは日本が8位、北朝鮮は9位。2001年以降の対戦成績は20戦で日本が7勝、北朝鮮が9勝し、引き分けが4。実力が拮抗した両チームの大一番での激突には見ごたえがありそうだ。


取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班