11月20日に開催したFIFAワールドカップカタール大会。サッカー日本代表が身にまとう新ユニフォームは、オフィシャルサプライヤーを務めるアディダスによって開発された。この新ユニフォームはどのようなプロセスで、どのような想いのもと製作されたのだろうか。開発を手掛けた高木将氏に話を伺った。 トップ画像/サッカー日本代表 2022ホーム オーセンティックユニフォーム(adidas is the official supplier ofthe Japan National Team)

2002年日韓W杯・決勝に舞った折り鶴


――新しいユニフォームについてご説明していただけますか?

高木将(以下同)「W杯の開催地・カタールを、日本代表にとって歓喜の地にしたい」という想いを、今回のデザインに込めています。そのインスピレーションの元となったのは、2002年日本・韓国共催W杯の決勝戦の後、横浜国際総合競技場の空に舞った“270万羽の折り鶴”です。
日韓W杯の優勝者への歓喜の象徴となった「ORIGAMI」をコンセプトとして、このユニフォームを開発しました。

――2002年日韓W杯に対しての、高木さんの個人的な想い出はありますか?

私自身ずっとサッカー少年で、当時は中学生でしたが、テレビで観戦し、熱中していました。日本代表が初めてW杯に出場した1998年フランス大会も印象深いのですが、2002年の日韓W杯は「日本全体がサッカーに最も熱狂した瞬間」なのではないか、と記憶しています。

今回のコンセプトの“フック”となる部分を探していた時に、JFA(公益財団法人日本サッカー協会)さんが運営する日本サッカーミュージアム(文京区)で、「2002年日韓W杯の決勝の地に折り鶴が舞った」という展示を見つけたのです。
その瞬間「イケる」という直感を得て、最終的にコンセプトとして決定するに至りました。


高木将氏(アディダス ジャパン マーケティング事業部マネージャー)


――今回のデザインで、特にこだわった部分はどこでしょうか?

コンセプトの「ORIGAMI」をどうデザインとして表現するか、という部分にこだわりました。ホームユニフォームのデザインは、折り紙の展開図や折線をベースに、アウェイユニフォームは折り紙を折っていく過程の形をベースにしているのですが、どちらにも共通するのが「折り紙の完成形のデザインは全く使っていない」ということです。

日本人やその他の国々の方がこのユニフォームを見て、「ORIGAMI」がコンセプトと聞いたらすぐに納得できる、という見た目の分かりやすさも大切ではあります。ただ、折り紙の最終形態をデザインとして見せるのではなく、「選手達が実際にピッチ上で躍動する時に、ユニフォームとしての完成形を表現できれば」という想いがありました。

そこで、あえて抽象的で幾何学的な模様を重ねることで、「このユニフォームだけに留まらないストーリー性」という部分を表現しようと努めました。


ホームユニフォームには、折り紙の展開図や折り線をベースにした模様があしらわれている(adidas is the official supplier of the Japan National Team)


日本という国“らしさ”を表現


――通常、コンセプトとデザインはどちらが先に決まるのでしょうか?

コンセプトを先に作る方が多いですね。今回は、最終的なデザインのイメージを持ちながら、まずコンセプトを決めていきました。

コンセプトを決める上で、「“日本を象徴・代表するもの”で、なおかつそれが“日本サッカーに繋がる”」というところを意識しました。その他にも様々な候補があった中で、最終的に「ORIGAMI」が抜きん出たため、決めた形ですね。

――ちなみに、「ORIGAMI」以外の候補はどんなものがあったのでしょうか?

今後のコンセプト案としても取っておきたいので、そこはノーコメントでお願いします(笑)。ただ、過去の日本代表ユニフォームで使われていた“侍”や“富士山”のような、「日本というキーワードから思い浮かべるイメージ」から近しいものがありましたね。

――「ORIGAMI」というコンセプトが決まってから、どのくらいの数のデザイン候補から絞っていったのでしょうか?

具体的な候補数を申し上げるのは難しいですが、そのプロセスを大まかにお伝えしますと、まず「コンセプトを決める」。その後にスケッチと呼ばれる「絵型を作り」、そこから「サンプルを作成」します。その後、サンプルを微調整しながら、最終的なデザインを決めていきます。

――デザインの段階でJFAと情報共有することはありますか?

デザインだけではなく、コンセプトを決める段階でもJFAさんの意見も聞きながら、という感じですね。どちらか一方の意見が強いと言うよりは、それぞれのマイルストーンで目線を合わせながら、一緒に作り上げていきます。


脇のパイピング部分には日本/JAPANという文字が刻まれている(オーセンティックユニフォーム限定仕様)
(adidas is the official supplier of the Japan National Team)


背中の首部分には日の丸国旗(adidas is the official supplier of the Japan National Team)


――日本以外の各国代表のユニフォームも同時期に発表されていますが、襟首の形や袖の部分など、それぞれ微妙に異なる部分がありますね。

パイピングであったり、オーセンティックバッジだったり、付いている機能というのは統一されたものなのですが、襟や袖など細い部分は異なりますね。

パッと一覧で見たときに、「アディダスは今回こういうスタイル」という統一感はありながら、グラフィックやディティールの部分では、“それぞれの国らしさ”というのを表現しています。

――ちなみに、そもそもなぜ、サッカー日本代表のユニフォームは青色がベースカラーなのでしょうか?

それには諸説あるのですが、昔は単独チーム主体で日本代表チームが構成されていたのです。それが1930年に初めて、全国からの選抜メンバーによる日本代表が結成され、代表のユニフォームが必要ということになりました。その際に「国土を取り巻く海の色」である青をベースカラーに据えた、とされています。それからは、基本的には青色のユニフォームが採用されていますね。


代表選手が着ると、とにかく格好いい


――日本代表の試合結果や活躍度合いは、市販のユニフォームの売上に影響しますか?

傾向としては、やはり日本代表が注目されればされるほど、販売にも好影響を与える印象です。ただ、その要因は試合結果だけでなく、日本代表メンバー発表のタイミングなど、世間の皆様が注目するタイミングで売れていく、というのはありますね。

――先日のドイツ遠征のアメリカ戦(キリンチャレンジ杯 2022年9月23日)が、新ユニフォームにとっての初陣になったかと思います。地上波での放送、内容的にも完勝ということで、売上にも好影響を及ぼしましたか?

その影響は多少あったかと思います。新ユニフォーム発表のタイミングで知った方もたくさんいらっしゃったとは思うのですが、そこまで追っていただける方はきっとすごくコアなファンの方ですよね。なので、テレビを付けてアメリカ戦を観た時に「あ、新ユニフォームなんだ」と気付かれた方は多いのかもしれないです。

ただ、実際に代表選手がユニフォームを着ると「とにかく格好いい」ので、試合結果よりも何よりも、その魅力の影響が大きいのではないか、と個人的には思いますね。実は私も選手のみなさんに新ユニフォームを直接説明する機会をいただいたのですが、代表選手が実際に袖を通す姿を間近で見ることができて、本当に感動しました。

(※上記の様子を、JFAのYouTubeチャンネル『JFATV』の「Team Cam 新ユニフォーム特別編|SAMURAI BLUE ver.」で観ることができる)



――ドイツ遠征の2戦目、エクアドル戦(キリンチャレンジ杯 2022年9月27日)では、アウェイユニフォームをベースにデザインされたアンセムジャケットを着用されましたね。

アウェイユニフォームを着る機会があまり多くないのかな、という予想が元々あったので、試合前のアンセムジャケットではあるものの、着ていただけたのは、ありがたい機会だったと感じています。

――カタールW杯のグループリーグの対戦相手のユニフォームカラーを考えると、もしかしたら日本代表は全部の試合でホームユニフォームを着ることになるのでしょうか?

レフェリーチェック(審判による試合前の確認)も入りますので、変更の可能性もゼロではないですが、今回のW杯グループリーグの3戦では、全てホームユニフォームを着用する可能性が高いです。

サッカー日本代表2022アウェイオーセンティックユニフォーム(adidas is the official supplier of the Japan National Team)


アウェイユニフォームには、折り紙を折っていく過程の模様を配置(adidas is the official supplier of the Japan National Team)


幼い頃に憧れた雲の上の存在


――オフィシャルサプライヤーとして、カタールW杯での日本代表にどのような期待をされていますか?

代表ユニフォームを作る上で一番重要視しているのは、「ユニフォームを着た代表選手たちが最高のパフォーマンスを出せるかどうか」というところです。彼らが持つ目標が達成できることを願って、そのためのサポートを私たちも最大限行っていきます。

――最後に、このプロジェクトを進める中で一番“グッと”きた瞬間はいつでしょうか?

この前のアメリカ戦をドイツ現地で観ることができたのですが、もしかするとその瞬間なのかもしれません。

ただ、サッカー日本代表というのは、サッカー少年であれば誰もが憧れる、そして私自身も夢にまで見た、雲の上のような存在です。そんな日本代表が身にまとうユニフォームを自分が担当できたということだけでも、すごく感慨深いですね。



取材・文/佐藤麻水
撮影/浅井裕也