日本の昔話に出てくるようなおもてなし

国土地理院のデータをもとに山容を正確にかたどった「山菓子」。
そのリアルさゆえ、普段見上げている山を上空から見下ろしているような気分を味わえ、さらにそれらを食べられるというから不思議な体験である。
加えて、きらびやかなパッケージに収められたその姿はまるで箱庭のようだ。
残雪の春の富士山に、冠雪した冬の利尻山(北海道)、新芽がおおう晩春の大室山(静岡県)というように、それぞれの山菓子には季節も表現している。
山肌はチョコレートでできており、内部はガナッシュ、ケーキ、果実やナッツなどが地層のように重なる。それぞれの地方ゆかりの食材も織り交ぜるというこだわりようだ。



店のコンセプトである「桃源郷の土産物屋」の着想はどのように生まれたのか。アートディレクター・アーティストで「小楽園」店主の矢島沙夜子さんはこう話す。
「日本の昔話に出てくるような、異世界のおもてなしを想像することが幼少期からすごく好きでした。例えば、浦島太郎や舌切り雀などは、竜宮城や雀の里で何を食べてどんな味だったのか、詳しい描写がないですよね。
わからないからこそ、もし自分だったらどんなおもてなしをするかを考えてみることから始まりました。
日本人が自然をモチーフにしてお菓子を作るように、神様は上から世界を見て小さくなった山や地形などをお菓子にしようと思ったりするのでは、と考えて。
上から見下ろしたものを小さく箱詰めにして、玉手箱のようなお菓子を作ろうというところから山菓子が生まれました。人間世界の美しいものを神々の目線で捉えるイメージです」


和洋折衷、店内の世界観も楽しい!


矢島さんが所属するクリエイティブスタジオ「KLOKA(クローカ)」では、近年食にまつわるユニークなフードアートを数多く発表しているが、常設の店舗としては小楽園が初となる。
メニューのレシピ開発も矢島さんが担当した。部分的にプロのアドバイスを受けているというものの、「私たちはプロではなく素人。こうしたいというイメージを、実際に食べ物として仕上げるまでが本当に大変でした」と話す。
店内の演出もユニークだ。ヨーロッパの家具や小物、中国の提灯、インドのついたてなど、さまざまな文化が入り混じり、摩訶不思議な雰囲気を作り出す。

和風チャイには、モロッコのポットとトルコのグラスを使ったり、台湾茶をあえてヨーロッパのポットで提供する。


「日本は欧州から見るとファーイーストと呼ばれる極東の地。ヨーロッパや中東、中国などからいろいろなものが漂流してたどり着いたという意味合いを込めて、国や文化をごちゃ混ぜにして店の一部になるという絵図を思い浮かべました」
中でも店内の至るところにある欄間(らんま)はひときわ目を引く。欄間は、日本伝統の建具だが、蔵に眠っていた古い欄間を購入し、磨きあげた上で着彩したそうだ。
「ヴィンテージから新品までいろんな国のものを集め、小楽園らしい味付けを加えました。ないものはオリジナルで製作しています」



1月下旬のオープン日から連日大盛況で、その独特の世界観に惹かれる人が後を絶たない。
「春に向けて、散歩がてら楽しんでいただける、たい焼きや団子、まんじゅうなども販売したいと思っています」
不思議な世界に迷い込んでみてはいかがだろうか。
小楽園 TEA SALON & BOUTIQUE
住所:東京都渋谷区元代々木町10-9 KLOKAビル
営業時間:12時〜19時
定休日:火曜
公式HP>>
取材・文/高山かおり
撮影/松本 侑