1948年に制定された「大麻取締法」を改正すべく、大麻に関する規制の見直しを訴える自由化運動「マリファナマーチ」が今年も5月4日に東京で開催された。大麻規制に疑問を持つ人々が、表参道〜原宿〜渋谷をデモ行進する。「マリファナマーチ東京2023」の主催者である根岸浩和さんに大麻の規制緩和についての活動を続ける理由について聞いた。

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「マリファナマーチ」を開催し続けるわけ


「マリファナマーチ」とは、毎年5月に世界各都市で行われる「大麻合法化(自由化)」を訴える世界同時イベントだ。日本では2001年から開催されていて、今年も5月4日に開催された。根岸さんは第1回開催から参加を続け、現在はマリファナマーチ東京の主催を務めている。また、政府や政治家に対してのロビー活動を実施するなど、大麻合法化に向けてのさまざまな活動を行っている。


毎年5月に世界中の約1000都市で開催されている(写真はポーランドで開催されたマリファナマーチ)


そんな根岸さんが大麻合法化を目指す理由のひとつが、「大麻が大好きだから」だという。

中学2年生の頃、親の都合でオーストラリアに転居した根岸さんは、現地の学校でタバコを吸っていたときに。帰国後、日本の大麻をめぐる状況を目の当たりにして、海外と日本の違いに再び愕然としたことが、最初にマリファナマーチに参加したきっかけだった。

「ちょうど帰国した年に第1回マリファナマーチが開催されていて、参加してみるとヒッピーのような人がたくさんいました。『ピースフルでいいな』と思った反面、大麻合法化を目指す以上は内々のパーティーのようなイベントではなく、外に向けて発信する運動にすることが大事だと感じ、次の年から主催するメンバーとして参加することにしました」


「マリファナマーチ東京2023」を主催する根岸さん


さらに、根岸さんが大麻合法化を訴える理由がもうひとつある。「医療用大麻」の解禁だ。

現在、カナダ、ウルグアイなどの国は嗜好・医療用ともに大麻を合法化しており、アメリカでは37の州と首都ワシントンで医療用大麻が、18の州とワシントンで嗜好用大麻が合法化されている。現在は先進国を中心に病気の治療に使用されたり、医薬品の開発に使われたりなど、大麻の成分を医療に使うことが当たり前になりつつある。


カナダでは2018年に18歳以上の嗜好用大麻所持と使用が認められた


「実は、私の妻がリウマチを患っているのですが、副作用がきつく合併症を起こす可能性もある薬を飲んでいます。ピーク時には毎日14錠も飲み、他の病気にもなってしまいました。同じように病気で苦しんで、効くかどうかもわからない薬を飲み続けている人が日本に何十万人といる反面、海外では医療大麻の研究が進み、さまざまな病気に対しての効果が実証されているのです。だからこそ大麻を1日でも早く合法化し、医療分野で利用していくべきだと考えています」

しかし、日本の大麻取締法第四条の「何人も次に掲げる行為をしてはならない」という条項のひとつに、「大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること」が書かれているため、たとえ医療目的であっても大麻を使用することができないのが、今の日本の実態である。


日本での大麻への理解が世界と異なる理由


厚生労働省が2017年に発表した「薬物使用に関する全国住民調査」では、全国15歳以上64歳以下の大麻の生涯経験率は1.4%と、アメリカやカナダでは経験率は40%を超えていることに比べて非常に低い水準なのが特徴だ。日本での経験者が海外と比べて少ないのは、1948年に制定された大麻取締法があるためだ。


出典:厚生労働省「薬物使用に関する全国住民調査(2017年)」


出典:厚生労働省「主要な国の薬物別生涯経験率(2017年)」


現在の日本では、大麻取扱者以外による大麻の所持、栽培、譲受、譲渡、研究のための使用が禁止されている。これを違反すると非営利目的でも5年以下の懲役という罪が科されるのが現状だ。

「一度逮捕されてしまえば、職を失い、学校を退学になり、家族関係にも影響がでます。ですが、病気のために藁にもすがる思いで大麻に手を出すという人もいます。そのような人たちも犯罪者として裁かれるべきなのでしょうか? マリファナマーチにはストレッチャーや車いすでデモに参加する人もいます。本当に大麻を必要とする人たちが、大麻を適切に安全に使えるような社会になることが必要だと思います」


マリファナマーチ東京の様子(写真提供/マリファナマーチ東京)


また、数年前に根岸さんがデモ申請を行うために警視庁を訪れた際、ある警察官に奥さんがリウマチを患っていることを話すと「うちの父親もALS(筋萎縮性側索硬化症)なんです」と告白してきたという。そこで根岸さんが医療用大麻の有効性について説明すると「父にも大麻を使用できたらな」とつぶやいたそうだ。

「若い警察官と話す機会もありますが、今の若い人は覚醒剤と大麻の区別がついている人が多いと感じています。だからこそ、丁寧に医療用大麻の話をすると『これは必要なんじゃないか』と理解していただけます。
問題は、政府やマスコミが偏った情報操作によって正確な情報を出さないために正しい知識が広がらないこと。そして『危険』や『怖い』といった固定観念や誤解が生まれていることです」

特に、根岸さんが大麻に対する理解が進まない原因と指摘しているのが、厚生労働省が主催する薬物乱用防止「ダメ。ゼッタイ。」キャンペーン。これは麻薬や覚醒剤など薬物乱用を防止する運動だが、このキャンペーンでは大麻が他の覚醒剤と同様に扱われていることが大きな問題だという。


マリファナマーチのキャンペーンポスター(左)と警視庁の薬物乱用防止キャンペーン


日本で大麻合法化を目指す上で、まずは大麻が他の覚醒剤などとは異なること、そして大麻に対する正しい知識を得られるようになることが大事だと根岸さんは話す。そのため、マリファナマーチでは警察も麻薬取締官も誰でもウェルカムに受け入れて、大麻の正しい知識や情報を知ってもらうための機会を社会に提供している。


目標は「日本人」の力で大麻合法化を目指すこと


日本では、古来より大麻を神道での祭事や建築、繊維、紐縄などさまざまな用途に有効活用してきた歴史があるほど、日本は大麻の利用においては世界的にも先進国だった。しかし終戦後の1948年、GHQの指示によって制定された大麻取締法によって、大麻は「悪いもの」として頭ごなしにタブー視されるようになった。このような歴史があるからこそ、マリファナマーチでは自分たち”日本人”の力での大麻合法化実現を目標に据えている。


大麻の製造過程(写真提供/マリファナマーチ東京)


「現在、アメリカの連邦法では違法とされていますが、もし連邦法で合法とされれば、日本も外圧で大麻解禁を行う可能性があります。一度、厚生労働省の官僚たちに『もし連邦法で大麻が合法になったらどうしますか?』と問いかけたら『追従するしかない』との答えがありました。アメリカによって押し付けられた法律をアメリカによって解禁されるのは悔しいですよね。だからこそ、自分たちの力でなんとかしたいという気持ちがあります」

最後に、根岸さんは大麻合法化についてこのように話している。

「病気で苦しんでいる人が何十万人もいて、それをわかっていても自分が何もしないのであれば自分も大麻をめぐる現況に加担しているのと一緒です。過去に、日本はハンセン病患者を迫害し偏見差別をしていた歴史がありますよね。この問題と大麻は構造的には同じです。同じ過ちを決して繰り返してはいけません」


根岸さんが所有する大麻関連の蔵書の一部


また、今年のマリファナマーチ東京2023に準備会から参加しているMさんは大麻取締法についての研究を行っている法科大学院生だ。

「マリファナマーチへの参加は、誰かにとって大麻規制について考えるきっかけ、その一助になり得ることです。大麻について興味を持ってもらうことは、大麻規制のあり方が変わるために重要だと感じています」と、まずは知ってもらうことから始めることが大事とMさんは話す。


「マリファナマーチ」には老若男女さまざまな層の参加者がいる(写真提供/マリファナマーチ東京)


「マリファナマーチ東京2023」のポスター


大麻を合法とするか違法とするかはまだまだ議論の余地はある。しかし、まずは大麻の正しい知識を知ることが、問題を解決していくための第一歩ではないだろうか。


#2「急激に拡大するCBDビジネスの闇」へつづく


取材・文・撮影/福井求