最速でゲームクリアを競うRTAの世界に、鍛え抜かれた肉体を武器にさっそうと現れたRTA走者(プレイヤー)、えぬわた氏。「リングフィット アドベンチャー」のRTAで世界記録を持ち、2021年のRTA in Japanでは同時接続者数18万人を達成した同氏だが、RTAを続けていくなかで葛藤も感じていたという。それでも、今なおトップランカーとして走り続ける背景には、ゲームに対する深すぎる愛情があった。

コスプレのための筋トレから、世界記録保持者へ


―リングフィット アドベンチャーのRTAで一躍、時の人となったえぬわたさんですが、小さい頃からよくゲームで遊んでいたのでしょうか?

ゲームは好きでしたが家が厳しく、高校生まで一週間に1時間半しか遊ばせてもらえませんでした。没頭するようになったのは、大学に入学して実家を出てからです。それまで遊べなかっただけにのめり込んで、ああ、やっぱりゲームが好きだなあと実感しましたね。

―大学時代は四六時中ゲームをするような生活を?

というわけではありませんでした。小学生から体操競技を続けていて、大学でも体操部に所属していたんです。体育会系なので練習も多く、一週間のうち、6日間練習、1日ゲームみたいなライフサイクルを送っていました。


学生時代は体操部に所属していた


就職後はしばらく運動から離れていたのですが、どうしてもゲームキャラのコスプレがしたくて、社会人3年目くらいからジムに通い始めたんです。

筋肉質な自分の体を活かしてマッチョなキャラのコスプレをしたいな、と。コスプレとは別に、フィジークという、上半身の肉体美を競う大会への出場もめざしていました。


メンズフィジークのノービス部門で3位入賞した際のえぬわたさん(非常にざっくり説明すると、ボディビルはゴリマッチョ、フィジークは細マッチョの美しさを競う大会)。


―リングフィット アドベンチャーのRTAに挑戦したきっかけはなんだったのでしょうか?

当時は週6でジムに通っていたのですが、コロナでいけなくなってしまったんです。そこで、自宅で筋トレする手段を探しているときに、買うだけ買って放置してしまっていたリングフィット アドベンチャーが目にとまりました。

それより前にリングフィット アドベンチャーのRTA自体は見たことがあって。その時はコンテンツとして単純に楽しんで視聴していたのですが、実際に自分で遊んでみると「動画の人より上手いのでは?」と思うようになりました。

そこで、改めて見直してみるとやっぱり動画よりも早かった。記録を目指し始めたのはそれからですね。


練習時間よりも研究時間のほうが長い!?


―記録を狙うにあたって、普段はどのような練習を積んでいるのでしょうか?

基本は筋肉の増量です。コロナ禍でジムに行けないので、家でウェイトトレーニングをするために機材も揃えて。RTAに取り組み始めてから、体重は2キロ増えています。

また、RTAのために筋肉の付け方や体の構造の勉強もしました。

私が長年続けていた体操競技の体づくりと、リングフィット アドベンチャーで求められる体づくりは性格が異なるんです。体操競技では自分の体重を支えるだけの筋力さえあればいいのですが、リングフィット アドベンチャーではより太い、強靱な筋肉が必要となります。

いかに効率的なトレーニングを行うか。その勉強の過程でパーソナルトレーナーの資格も取りました。

―肉体的なトレーニングだけでなく、座学も欠かさなかったと…。

実際にプレイしている時間よりも、机に向かって研究したり、攻略チャートを練ったりする時間のほうが多いかもしれません。

ほかのゲームのRTAであればトライアンドエラーを繰り返して精度を高められるのですが、リングフィット アドベンチャーはどうしても疲れが溜まるので、20分程度で終わるカテゴリでも通し練習は1日に6〜7回くらいが限界です。

その代わり、効率的な立ち回り方などを何度もシミュレーションして、理論上の最速タイムを計算しています。練習以外の時間でタイムを縮めていますね。


18万人が一つになった神回の裏側


―えぬわたさんといえば、2021年夏のRTA in Japanの配信で同時接続者が18万人を記録したエピソードは欠かせません!

リングフィット アドベンチャーのRTAをはじめてから1年半で、しかもはじめて参加する私が大トリをやらせてもらったことは非常に光栄でした。

あの日、とくにうれしかったことが3つあって。一つは本当に多くの人に応援してもらえたこと。実はその頃、RTAを続けるかどうか悩んでいたんです。

RTAを初めて走ったとき、もちろんポジティブなコメントもたくさんいただいたのですが、なかには批判の声もありました。それが辛くて、RTAを止めようかとも考えました。

しかし、RTA in Japanを通じて、大勢に応援していただけていることに気づけたんです。自分のなかで、応援してくれている人に対する感謝の思いもより強くなりました。あの日があったからこそ、私は今もRTAを続けられているんだと感じています。


視聴者からは「筋肉に握られてリングコン(コントローラー)も喜んでいるよ!」「実写版ゴリラ!」などボディビル大会で見られるような応援コメントが届けられた


―私もアーカイブで拝見しましたが、田口アナによるプロの実況や視聴者からの応援コメントが場に一体感を生み出していて、とても楽しめる配信でした。

いろいろな方に面白かったと言っていただけます。これは2つ目のうれしかったことなのですが、あの動画を星野源さんも見てくれたんです。自身のラジオで「2021年で一番良かったエンタメのひとつだ」と話してくれていたそうで、その日はSNSの通知が鳴り止みませんでした。

私自身、本番前に星野さんの曲を聴いて気持ちを高めていたほどファンだったのですが、まさか本人に見られていて、さらにラジオでコメントしてもらえるとは思ってもみなかったです。


“ゲームをやっている様がまずめちゃくちゃ面白いっていうのと。やっているのがえぬわたさんっていう方だと思うんですけども、その方がすごい鍛えていらっしゃって。

もう、その臨み方みたいなのが半端じゃないっていう。あと、結構のんびり走ったりする動きで、体を上下することで画面の中の登場人物が前に進んでいくような感じ、みたいなのがあるんですけども。それをとにかく早くしなきゃいけないんで、とんでもなく高速で動くんですよ。で、その高速で動く様も面白いながら、実況する人もプロのアナウンサーの方だったりとかして。その様が、全部含めて面白くて。

本当に後半になるにつれて、奇跡的なぐらい盛り上がってくるんですよ。それで、同時に見ている人が18万人ぐらいいたもので。なんというか、こんなにドラマチックになるんというぐらい盛り上がった動画で。ぜひいろいろな人に見ていただきたい。”
(「星野源のオールナイトニッポン(ニッポン放送)」2022年1月18日放送回より)


3つ目はリングフィット アドベンチャーの売上に貢献できたかもしれないことです。

自分の動画だけが要因ではないとは思うのですが、RTA in Japanでプレイを披露したあと、ECサイトや店頭から在庫がなくなったそうなんです。とある試算だと、結果的に6.7億円分くらい売れたとか。

―巷では筋肉で経済を動かした男とも呼ばれていますね?

販売されている作品は一通りプレイしているほど根っからの任天堂ファンなので、どのような形であれ、大好きな任天堂に貢献できたのはうれしいですね。


企業公認とアンダーグラウンドのRTAの共存


―多くの記録を残しているえぬわたさんですが、今の目標はなんですか?

当面の目標は、リングフィット アドベンチャーのRTA全7カテゴリでトップを目指すことです。もしかしたら記事が公開されている頃には達成できているかもしれませんね(笑)。ただ、割と抜きつ抜かれつの世界でもあるので油断はできません。(※本取材後、えぬわたさんは2022年8月5日に見事7冠を達成)

―……てっきり、圧倒的な強者として君臨しているかと思っておりました。

明確なライバルが一人いて、その人はおそらく私より10歳くらい若いんです。私より体力もあり、強い。そういう人と勝負するには、経験で勝るしかありません。

リングフィット アドベンチャーは運要素も大きく絡みます。2年以上のキャリアで培ったアドリブ力を活かし、満足いく結果を残していきたいと思います。

―最後に、RTAに込める思いをお聞かせください。

RTAはそれ自体とても面白い遊び方ですし、ゲームの魅力をより多くの人に伝えることができる見せ方とも思っています。だからこそ、RTA文化をもっと広めていきたい。しかし、そのためにはどこかで、企業からの公認が必要となるタイミングが来ると思います。

私はゲーム業界で働いているので、内と外、両方からゲームやRTA文化のために何かできないかと、日々活動を続けています。近々、CEDECという日本最大のゲーム開発者向けの技術交流会にもゲスト登壇する予定で、そこで業界の方にRTAの持つ可能性を伝えてくるつもりです。

RTAはバグ技を多用するカテゴリもあるので、簡単には公認してもらえないかもしれません。とはいえ、バグの利用はRTAの醍醐味の一つでもあるので、その文化は残り続けてほしい。

RTAはさまざまなルールがあるのも魅力です。そんなRTAだからこそ、企業の公式大会が開かれるようなルールもあり、今まで通り自由に楽しむようなルールもある。両者が共存できるような世界の実現も、不可能ではないと考えています。

取材・文/笠木渉太


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