9月12日に発表されたアメリカTV業界の最高の栄誉とされるエミー賞。前編では作品賞受賞作を紹介したが、後編ではゼンデイヤやマイケル・キートンら人気俳優が俳優部門を受賞した、傑作ドラマ4本を紹介する。

力作揃いの俳優部門受賞作


『ユーフォリア/EUPHORIA』でドラマシリーズ部門の主演女優賞を受賞したゼンデイヤ
AP/アフロ


エミー賞は作品賞だけでなく、俳優部門受賞作も見逃せない。前編に続き、見て損はさせない良作を紹介する。注目はドラマシリーズ部門の主演女優賞を受賞したゼンデイヤが、不安障害とドラッグ・アルコールの問題を抱えるティーンエイジャーを演じた『ユーフォリア/EUPHORIA』(U-NEXT)。

そして、シェリル・リー・ラルフがコメディシリーズ部門の助演女優賞を受賞した、フィラデルフィアの公立学校を舞台に教師たちの姿を描くモキュメンタリー『アボット エレメンタリー』(ディズニープラス)も注目だ。こちらは日本では紹介されにくい意欲作なので、この機会にスポットが当たるのは喜ばしい。

少ない話数で完結するという意味でおすすめなのが、『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』(ディズニープラス)と『ドロップアウト〜シリコンバレーを騙した女』(ディズニープラス)の2作。

『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』(ディズニープラス)は、リミテッドシリーズ&テレビ映画の部の主演男優賞を受賞したマイケル・キートンが、薬物依存にまっていく医師を熱演している。実話ベースで見応え満点だ。


『ドロップアウト〜シリコンバレーを騙した女』(2022)主演のアマンダ・サイフリッド(右)
Everett Collection/アフロ


アマンダ・サイフリッドが一世一代のハマり役を得た会心の演技で、主演女優賞を手にした『ドロップアウト〜シリコンバレーを騙した女』(ディズニープラス)は、こちらも実話ベースの力作。いずれも全8話なので、シリアルドラマがなんとなく苦手な人でもとっつきやすいのではないだろうか。

また、今年一番の話題をさらったのは、全編韓国語のドラマ『イカゲーム』(Netflix)だ。大金をかけた命がけのサバイバルゲームを描いた、世界的な大ヒットシリーズ。韓国出身の俳優として、イ・ジョンジェが初めてドラマシリーズ部門の主演男優賞を受賞したほか、全6賞を獲得した。1949年から開催されている同賞において歴史を作ったのは、2020年にアカデミー賞作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』(2019)に次いでまたも韓国の作品であった。

長年、映画・TVとその業界を専門に仕事をしてきた筆者は、当然ながら近年は動画配信サービス周りの取材が増えている。関係者の取材で繰り返し耳にするのが、突破口としての日本の『イカゲーム』待望論だ。アジアの中でも韓国の映像業界が勢い付いているのは周知の事実。有名なところで是枝裕和監督などもインタビューで語っているように、どうやっても10年は遅れを取っている日本の映像業界に携わる人々は、韓国作品の世界に通用する質の高さ、娯楽性の高さをいやというほど痛感している。『イカゲーム』が好きか嫌いかは評価が分かれるところだと思うが、日本でもよく描かれるデスゲーム系の内容なのに、なぜ『イカゲーム』が特別なのかを考えてみるのも、面白いのではないだろうか。



時代にそぐわない!? アワードショーの問題点


さて、最後に少しだけエミー賞の問題点にも触れておきたいと思う。

もはや珍しいことではないのだが、今年の受賞式の視聴者数はアワードショーの歴史の中で過去最低の592万人だった。Peacockでの視聴者数は公開されておらず、Twitter上では盛り上がっていたという前向きな分析もある。しかし、近年はアカデミー賞、グラミー賞、エミー賞といった主要な賞の授賞式は、視聴者数が前年を上回ることはあっても、基本的に下降傾向にある。これまで権威とされてきたアワードショーそのものが、時代にそぐわないのではないかといった議論は、ますます活発化している(と思う)。

エミー賞は業界の身内の賞という側面が強いが、今年候補になった作品はいずれも秀作・力作であることは先に書いた通りだ。しかし、動画配信サービスのオリジナル作品が加わったことで、TVの黄金時代のアメリカの番組は多様化し、その数は10年前とくらべても比較にならないほど膨れ上がっている。

投票する会員が視聴できる作品数は限られており、とりわけ、人気があれば何年も続くTVシリーズを、新作に加えて追いかけることは物理的にも難しい。そのためシリーズものは一度評価された作品が、翌年も続けて高い評価を受ける傾向にあるのだ。もっとも、これは動画配信サービスが登場するずっと昔から不満の声が多く聞かれていた問題のひとつでもあるのだが。古参の海外ドラマファンなら、全盛期を過ぎてもしつこく評価され続けたロングランシリーズのタイトルが、いくつも頭に思い浮かぶだろう。

筆者自身も実感していることだが、COVID-19のパンデミックにかかわらず、視聴者離れが加速するアワードショーの現実は、批評家がその全体像を把握することさえ難しい時代におけるアワードの存在意義を考えさせられる。


文/今祥枝


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