SNSとスマホが世の中を変えたのはもはや常識。しかも、その流れはコロナ禍以降さらに加速しており、3年ぶりの開催となった夏フェス「サマーソニック」にもその影響がありありと見てとれた。「完全復活」を掲げた今回のサマソニ。そのSNSでの盛り上がりや、来場者向けアプリの活用、そしてサブスクによるオーディオエンスの変化などについて、株式会社クリエイティブマンプロダクション宣伝部長 平山善成氏に聞いた。

SNS時代のフェスが直面するのは、新たな課題か、ポジティブな動きか


©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved.


――今年のサマソニでは、アーティストのステージ上での言動がSNSで議論を巻き起こす場面がいくつかありました。

そうですね。SNSでいろいろな意見が見られるのはいいことだと思いますが、その一方でその発言をしている方が会場に来て実際に見ていたのか、SNS上のやりとりを見て乗っかっているのかがわからないんですよね。誰かが「問題のある発言じゃないか?」と指摘している部分も、そのMCやステージ全体を通せば耳を傾けるべきメッセージである可能性は十分にありますから。

個別の話題についてコメントは差し控えますが、その点については議論の信頼性も含めて難しいポイントだと感じました。


イタリアのマネスキンは今年最も話題を呼んだアーティストの一つ。©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved.


――その一方、フェスという場を活かしたメッセージを発信するアーティストも少なくありません。イギリス在住の日本人リナ・サワヤマによる「日本人であることを誇りに思っているけど、G7唯一の同性婚ができない国であることは恥ずかしい」旨の発言は、LGBTQコミュニティーからの賛同を得るだけでなく、多くのオーディエンスに考えるきっかけを与えたMCだったと思います。

その通りだと思います。サマーソニックは多様な価値観を持ったお客さんが集まり、いろいろな国からさまざまなバックグラウンドを持つアーティストが集まる場所です。それを活かした、ああいうポジティブな動きが生まれてくれると、とてもうれしいです。

その一方、パフォーマンス以上にMCばかりがフォーカスされてしまうのも「それは違うんじゃないか」という気がしますね。かといって、規制することでもないですし、バランスが大切かなと思います。

――「MCの内容はツイートしないでください」ってライブ前にアナウンスがあったら、正直めちゃくちゃ嫌ですね(笑)。

ですね(笑)。ともかく、まだまだ時勢的にもフェス開催そのものをネガティブに捉えている方もいらっしゃいますでしょうし、今年は意見の衝突が起きやすい環境だったのかなと思っています。


サマソニを快適にする、スマホアプリとキャッシュレス


サマーソニック公式アプリのタイムテーブル画面


――今年のサマソニは、スマホアプリの活用も印象的でした。これまで夏フェスといえば、タイムテーブルが紙で配られ、それを何度も見てボロボロにしながら1〜2日過ごすものでしたが、今年のサマソニはスマホアプリにそうした情報が集約されていましたよね。

今年から紙のタイムテーブルを廃止して、アプリに集約することにしました。その理由として、コロナ対策としてモノを手渡しする機会を減らしたいという狙いもありましたし、資源やコストの面からも紙の使用をなるべく減らしたいという考えもありました。しかし、この決断に踏み切れたのは、この数年でアプリの使い勝手が向上し、情報更新のしやすさも改善されたからです。

――自分が観たいアーティストを登録すれば独自のタイムテーブルが組まれたり、気になる飲食店をマークすればオリジナルの地図が作られたりなど、とても便利でした。

ありがとうございます。実際にアンケートも取ったのですが、アプリの使い勝手については概ね好評をいただいています。今後はアプリ活用がスタンダードになると考えていますし、年々改善できる体制を作っています。


サマーソニック公式アプリのマイマップ画面


――他には会場中の飲食店やグッズ売り場でキャッシュレス支払いが可能となっていました。実際にキャッシュレスと現金はどれくらいの割合で使われていたのでしょうか?

もはやほとんどの支払いが、キャッシュレスで行われている状況です。我々としても感染対策の観点も含めキャッシュレスを推奨していましたし、世の中のトレンドでもあるので、今後この流れがさらに続くのではないかと思います。


サブスクが変えた「音楽の聴き方」と、“メディア化”するサマソニの矜持


ヘッドライナーを務めたアメリカを代表するラッパー、ポスト・マローン ©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved.


――ここ数年でApple MusicやSpotifyといった定額制の音楽ストリーミング・サービス、いわゆる「サブスク」が普及しましたが、その影響をフェスに感じることはありますか?

ありますね。これまではインディー系が好きな人はインディー系ばかりを聴く人が多かったのですが、今はインディーもポップも満遍なく聴く人が増えた印象があります。それはサブスクでの音楽の聴き方がライブの楽しみ方にもつながっている一面があるのではないかと思います。


80年代末から活躍するバンド、プライマル・スクリーム。©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved.


――その一方、この10年で雑誌を始め既存音楽メディアの力が弱まり、フェスのラインナップが最大のメディア機能を果たしている印象があります。

フェスがいろんなもののハブとして重要になっているのは実感します。以前は、新作のリリースをきっかけにフェス出演し、その後に単独公演を開催する流れがありました。しかし、今はそれが逆転していますね。とくに新人はフェスで話題を作ることができれば国内盤のリリースにつながる印象です。

――サマソニ運営の皆さんは「自分たちが洋楽文化を支えていく」という意識を持ってお仕事されているのでしょうか?

その意識はすごくあります。音楽ファンとして洋楽カルチャーは無くしたくないし、洋楽のアーティストが来なくなってしまうと僕らの仕事自体がなくなっちゃいますし……(笑)。フジロックとサマソニは海外アーティストを呼ぶ2大メジャーフェスなので、この2つが良い意味で共存共栄していくことで、洋楽の来日文化を絶やさないというのは使命だと思っています。

――来日公演といえば、近年、米中関係の悪化によって欧米アーティストの間で中国マーケットの位置付けが低下しているとの指摘もありますが、その影響はあるのでしょうか?

中国の影響は直接的にはないですね。先ほど日本の洋楽マーケットが小さくなっているとは言いましたが、それでも海外アーティストのファン層が確立されている目立つ市場ですし、アーティスト側も依然として日本を重要視しています。

そして、韓国やアジア諸国でも新しいフェスが出来てきてはいますが、日本のフジやサマソニほどバラエティーに富んだ各国アーティストが揃う規模のフェスは他にありません。アーティスト側も「アジアのフェスといえばフジかサマソニ」という認識がありますし、それだけフジロックの26年、サマソニの21年という歴史は大きな意味を持っていると思います。

――ブッキングなどの交渉でやはり円安の影響はありますか?

あります。相当に、あります(苦笑)。今日9月6日時点で1ドル141円になっていて、数十円の変化だけでもブッキング料が相当跳ね上がることもあり、かなり困っていますね…。フェスファンに喜んでもらえるように、チケット代をなるべく抑えて提供できるよう、今後も様々な努力を行っていければと思っています。

――私も今年のサマソニにお客さんとして参加したのですが、長らく忘れていたフェスの楽しさを思い出し、なんとも言えない感慨がありました。

ありがとうございます。もちろん今でもコロナの影響はありますし、プロモーターとしては引き続き大変なのですが、再びサマソニを開けたことで次のアイディアが出てきていますし、僕ら自身も「フェス文化は必要なものだ」と改めて感じました。既に来年に向けて動き出していますので、是非また会場に足を運んでいただきたいと思っています。


取材・文/照沼健太


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