作家ありきではなく企画ありき

――『ねこ休み展』はこれまでに100万人以上も動員し、出展者のSNS フォロワー数は累計300万人越え。“合同の写真展”とした理由は、なんだったのでしょう?
僕らがこうした企画展をやる前は、作家さん、写真家さんが前に出る展覧会が多かったんです。写真家さんありきの展示だと、その人がいないと成立しなくなってしまう。人ありきではなく、企画ありきのやり方にしようというのは、最初から考えていたことでした。
スピンオフ企画として、『まるごとホイちゃん展』『まるごとふーちゃん展』など、スター猫を前面に出すことはありますが、写真を撮っている方の名前は一切、出していないんですよ。
また、『ねこ休み展』初期はInstagramが浸透してきて、ねこの写真を発表する人が増えていた時期だったのもあり、そういった方々と合同でやってみることにしたんです。
――会場の展示も作品の説明や、解説を出さないスタイルですよね。
作家さんのプロフィールは作りますが、解説が押し付けがましくなるのは違うかな、と。アートも写真も、気楽に気負わず、カジュアルに楽しんで欲しい、というのが大きいですね。

――作家さんは、どのようにして集められたのでしょうか?
リサーチをして、こちらから声をかけています。応募や売り込みなど、間口を広げすぎると自分たちでコントロールができなくなりますし、作家さんとのコミュニケーションも取りづらくなります。
作家さんが100人いれば、100人の思いがある。それを受け取りながら、目指す企画展を実現するためには、信頼関係を築いていくのも大切なんですよね。
企画は何げない雑談から生まれる
――人を熱狂させる企画は、どのような話し合いから生まれているのでしょうか。
うちには、企画会議というもの自体がないんですよ。ネタ出しが義務になってしまうのはしんどいですし、無理やりひねったところでいいものは生まれない。
これまでの企画の多くは、何気ない日常の会話から生まれました。社内に「企画を出さなきゃ」という空気はなく、代表も思いついたときに言ってくれればいいというスタンス。まったく企画を出さなくても、責められることはありません(笑)。
――具体的に、どんな会話から発展していくのですか?
例えば、『あざらしラッシュ!!展』は、スタッフがテレビであざらしを見たのがきっかけ。社内の雑談で「かわいかった!」と目を輝かせて語る姿を見て、「そういえば、あざらしの企画ってないな」とリサーチを始めたんです。
ただ、あざらしの写真を撮っている方って多くはないので、「成立させるために何をプラスしようか」と膨らませていきました。

――狙っていないからこそ、おもしろい企画が生まれるんでしょうね。
『ミニチュア写真の世界展』もそうでしたね。弊社のデザイナーの子がミニチュアが好きで、会社のデスクに作品を置いていて。そこから会話が生まれ、「ミニチュアの企画展をやってみようか」と広がっていきました。

――社員は個性的な方や、こだわりの強い方が多いのですか?
みんな、普通の人たちです(笑)。ファッションや髪型がすごく派手だとか、何かに特化したオタクだとかいうこともなくて。何かを好きになったり、ハマることに理解があって、楽しみたいという気持ちがある人ばかり。チームとして機能していますから、一緒に働きたいと思える人が集まっているという感じです。
5階のギャラリー入口からビル1階まで行列

――これまでの企画で、想定外の反響だったものや失敗談などはありますか?
あります、あります(笑)。基本的に、「やってみることが大事」というのが代表の考えにあるので、出てきたアイデアはなるべく形にしていて。
そんな中、『ねこ休み展』が多くの方に愛していただけたので、「よし、次は『いぬ休み展』だ!」とやってみたものの、そこまでの反響は得られず…。たしかに、安直ですよね(笑)。
――要因として考えられるのは?
猫の写真を撮る人は、どちらかというと日ごろの写真も“作品を撮る”という意識が強い気がします。そういう意味では、そのままの写真で企画展として成立しやすい。一方、犬の飼い主さんは、日常の自然なようすを写真に収める人が多いように感じます。
もちろん、どちらも素敵なのですが、そもそものスタンスがちがうので、猫の企画をそのままスライドしただけでは、伝わりづらかったんだろうなと思います。そこで、犬の企画は切り口を変えて『鼻ぺちゃ展』を考案しました。それによって、犬の写真のかわいさが引き立ち、今では人気企画のひとつになっています。
猫好き、犬好きの方の感覚のちがいもあるんでしょうね。あくまで物販の傾向を見ていての感覚ですが、猫好きの方は猫種の垣根みたいなものがあまりなく、猫全般を好きな方が多い。犬好きな方は、より好きな犬種がはっきりしているような気がします。

――BACONさんは浅草橋の「TODAYS GALLERY STUDIO.」を始め、各地でギャラリーの運営もされていますよね。
百貨店などで展示させていただくこともありますけど、基本は東京、名古屋、福岡の自社のギャラリーで展開しています。大きな空間ではありませんが、初回の『ふともも写真の世界展』(2016年)には、約1万6千人という過去イチの来場者が来てくださいました。
――いちギャラリーとしてはすごい数!
ありがたいことに、5階のギャラリーからビルの1階まで、1日中、人が並んでいるような状況でした。他でやらないことをやって、皆さんに楽しんでもらいたいというのが基本にあるので、そのときは屋外に足湯を用意したんです。足湯に入ると自然にふとももを出すことになるという、企画展との連動も考えて。思った以上に、費用はかかりましたけど(笑)。
浅草橋という場所性を生かした企画作り

――展示の仕方として工夫されていることはありますか?
昆虫系の企画展だと、触れ合いも楽しみのひとつだと思うんです。ただ、“レア種”に関してはなかなか触れ合えない展示も多くて。子どもからしたら、「目の前にいるのに、なんで触っちゃいけないの?」となりますよね。
なので、その希望を叶えるべく、弊社の『カブトムシ・クワガタのふれあい世界展』では、ヘラクレスオオカブトやコーカサスオオカブトを触れる環境を用意しました。レア種と本当に触れ合えるのは、恐らくここくらいじゃないかな。

――自社で運営されている、ギャラリーのアットホームな雰囲気も素敵です。
「浅草橋という場所で何をやるか」は大切にしています。作品も額などには入れず、気楽に見てもらえるように。子どもが多い企画展のときは、低い目線でも見られるよう、床から30㎝くらいの場所まで写真を展示しています。
いつかは世界でニッチな企画展を!

――12月10日からは名古屋で『ミニチュアベーカリーの世界展』を開催されますが、どんなところが魅力でしょうか?
通常はミニチュア作品だけを展示しますが、弊社ギャラリーでは作品と、それを作った作家さんが撮影した写真の両方を展示することで奥行きを出しています。
ミニチュアの実物を見ただけではわからないところ、作家さんが表現したい部分を写真に写してくれるので世界観も伝わりやすいですし、感動ポイントも増えます。


――今後、会社として新たに挑戦していきたいことは?
『ねこ休み展』は香港でやったことがあるのですが、例えば『変わる廃墟』といった企画は海外で撮影したものも見てみたい。きっと、その国らしさが出るんじゃないかな、と。そういった海外のクリエイターとのコラボや海外展開を、実現できたらうれしいですね。

取材・文/根岸聖子 撮影/須田卓馬 編集/宮浦彰子
『ミニチュアベーカリーの世界展 2022』

●名古屋開催
会期:2022年12月10日〜2023年1月15日(毎週月・火、12月30日〜1月5日、11日休/1月9日(月・祝)は開館)
時間:11:00〜18:00
場所:TODAYS GALLERY STUDIO.NAGOYA 愛知県名古屋市中区新栄1-17-12
入場料:600円(3才以下は無料)
問い合わせ先:03-5809-3917