最新監督作『くれなずめ』が公開予定の松居大悟さん
最新監督作『くれなずめ』が公開予定の松居大悟さん

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies〜その映画が人生を動かす〜』。

今回は、最新監督作『くれなずめ』が4月29日より全国公開予定の松居大悟さんにお話を伺いました!

■映画は積み重ね、舞台は捨て続ける

――小さい頃や青春時代に影響を受けた作品は?

松居 純粋に見て楽しんでいたのは『踊る大捜査線』シリーズ(1997年〜)ですね。また、同作の劇中で流れたアニメが一本の映画にまとめられた『スペーストラベラーズ』(2000年)も見て、映画とアニメの境界を超えてるような感じが面白かったのを覚えています。

あとは野島伸司さん脚本のドラマ。当時は全盛期で「テレビでこんなことやっていいのか」と衝撃を受けましたね。高校生くらいからは、母親が地元の福岡でお芝居やミニシアターに連れていってくれるようになって。

そこで三谷幸喜(みたに・こうき)さんの『笑の大学』(2004年)とか、G2プロデュースの演劇とかいろんな作品を見たんですけど、一番衝撃を受けたのは山下敦弘(のぶひろ)監督の『天然コケッコー』(2007年)でした。

――いい映画ですよね。

松居 当時は「どうして耳に手を当てて歩くだけの画(え)で泣けてくるんだろう?」って。横歩きで風の音を聞き続けるカットはいまだに忘れられなくて、あのときに抱いた感情がなんなのかは今でもうまく言語化できないんですけど、でも、「あんなカットを撮りたい」と思っています。

――ムービングムービーならぬ、ムービングカットですね。

松居 そうですね。ほかの作品でも、例えば『ライフ・イズ・ビューティフル』(1999年)で、主人公役のロベルト・ベニーニが最後に撃たれるシーンはすごく覚えています。

子供をゴミ箱に隠して、自分はナチスの兵士に見つかっちゃって、それでもゴミ箱から見ている子供を不安にさせないようにと楽しそうに歩いていって撃たれてしまう......というカットなんですけど、これもすごいなと。

――松居監督は映像も演劇も手がけるハイブリッドな印象がありますが、今のお仕事を始めた経緯はなんだったんですか?

松居 大学で東京に来て、演劇を始めたのが最初ですね。映像業界への入り方なんてわからなかったし、人と一緒にモノを作ることに憧れてたんです。そうして関わっていくうちに、視覚的に世界を作るのが楽しいことに気づいて、自主映画を撮り始めて、演劇を見に来たテレビ局のプロデューサーや『アフロ田中』(2012年)のプロデューサーに声をかけられて、今の仕事につながっていきました。演劇も映画もやってきたからこそ、ここにいる感じがします。

――舞台と映画の一番の違いってなんだと思います?

松居 以前は「映画は時間を描く芸術で、舞台は空間を描く芸術だ」と言っていたんですけど、最近はあまりそうは思っていなくて。今は「映画は面白さを積み重ねる作業」で、舞台は「面白さを疑って捨て続ける作業」なんじゃないかなと考えています。

映画って、「もっと面白いものを、もっと面白い芝居を」って積み重ねていくんですけど、舞台は「ここって何が面白いんだっけ?」って初日が明けてもずっと疑い続けて、捨て続けるんですよ。

――映画は足し算で舞台は引き算ですか。松居監督は脚本を書くことも多いですが、そこはどうなんでしょう?

松居 脚本は......本当はやりたくないんです(笑)。

――衝撃発言!(笑)

松居 脚本ってあくまで設計図にすぎないのに、セリフが書かれていると、どうしても絶対的なモノになっちゃうじゃないですか。だから、自分が書くときはできるだけセリフを決めすぎないようにしていて、スタッフと話したり、役者とリハーサルして生まれるものを拾えるようにしています。

なので、本当は人の本でやって、「この人はなぜこういうセリフを書いたんだ」とかを考えたい。でも、僕がやっているのはそんな大きな規模の作品ではないので、「とりあえずプロット書いちゃってください」「箱書きしてください」って言われてやってるうちに脚本を書いてしまっているんです(笑)。

■『くれなずめ』はよそ行きじゃない作品

――話を戻しまして、一番影響を受けた映画は?

松居 『菊次郎の夏』(1999年)ですね。大学時代からたぶん100回ぐらい見ていて、カット割りを全部調べたこともあります。北野武さんの作品は全部好きなんですけど、特に素晴らしい。不思議な、優しい作品なんですよ。お母さんに会いに行く映画なのに、お母さんと会えた後の帰り道が長くって。迷ったときとか、つらくなったときに見返して、救われています。

――さて、最新作『くれなずめ』が公開されます。

松居 初めての試みなんですけど......実は面白くしようとしてないんです。

――どういうことですか?

松居 この作品はもともと自分が主宰している劇団ゴジゲンで数年前にやった舞台が原作で、モデルになった友達のためだけに作った、超個人的な作品だったんです。なので、映画化の話をもらったときも「やめといたほうがいいんじゃない?」って(笑)。そういう経緯だったからこそ、「それなら映画として無理に外に向けないで、最初に取り組んだように個人的なモノを作ろう」って考えました。

――つまり、映画は本来足していく作業だけど、この作品は足してないと?

松居 足してないですし、むしろ、引き続けていってる感じで。だからすごい不思議なんですね。この作品のちょっと前に『アイスと雨音』(2018年)という映画を作ったんですよ。

舞台が中止になった時期に「舞台が中止になる映画を作ろう」って考えて企画して1ヵ月で撮影したんですけど、それを経験してみると「もう演劇とか映画とかこだわるのがよくわかんないな」って。何作かやったことで身軽になったからこそ、『くれなずめ』が生まれたんだと思います。

――現在、監督作『バイプレイヤーズ』の劇場版が公開されていますが、表と裏みたいな意識はあるんですか?

松居 めちゃくちゃあります。自分の中で『バイプレイヤーズ』は「やるべきことを徹底してやる作品」という位置づけで、毎回ガチガチに作り込んでいるので。自分のエゴはなんにもなくて、とにかく役者さんの魅力が伝わるように、と考えているんです。

その点、『くれなずめ』はまったくよそ行きじゃない。本当に個人的な作品なんです。見終わって、「なんか友達に会いたくなったな」って思ってもらえたらうれしいですね。

●松居大悟(まつい・だいご)
1985年生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰で全作品の作・演出を担当。2009年、ドラマ『ふたつのスピカ』(NHK)で同局最年少のドラマ脚本家デビュー。枠にとらわれない作風は国内外から高い評価を受ける

■『くれなずめ』
4月29日(木・祝)より全国順次公開予定

取材・文/テクモトテク 撮影/松屋まを