『100日間生きたワニ』で監督・脚本を務め、『カメラを止めるな!』でもおなじみの上田慎一郎監督
『100日間生きたワニ』で監督・脚本を務め、『カメラを止めるな!』でもおなじみの上田慎一郎監督

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies〜その映画が人生を動かす〜』。

近日公開予定の『100日間生きたワニ』で監督・脚本を務め、『カメラを止めるな!』でもおなじみの上田慎一郎監督にお話を伺いました。

■映画監督かマフィアになろう

――幼少期の映画体験は?

上田 『ドラえもん』や『ドラゴンボール』の劇場版アニメをお父さんと見に行ったのが最初の記憶で、その後は普通にハリウッド大作ですかね。映画館まで電車で1時間くらいかかるような田舎に住んでいて、町には小さなレンタルビデオ店が1軒あるだけでした。

なので、そこで借りるか、あとは友達のお父さんが録画したVHSで見ていましたね。『日曜洋画劇場』とかを録画したものが本棚にいっぱいに並べてあって、それを借りて見あさってました。マジックでタイトルが書いてあるだけなので、"タイトル借り"するしかなくて。

――ジャケ借りできなかったんですね。

上田 そうなんです。『インデペンデンス・デイ』(1996年)とかそのあたりの作品を小学生の頃に見て、映画がどんどん好きになりました。本格的に好きになったのは中学生の頃からで、『パルプ・フィクション』(1994年)とかガイ・リッチーの『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1999年)とか、作家性の強い作品を見始めたんです。

――すでに『カメラを止めるな!』(2018年)の雰囲気が出てきてますね。

上田 ほかには『マグノリア』(2000年)とか、マーティン・スコセッシの『グッドフェローズ』(1990年)とか。当時はマフィア作品ばっかり見ていて、「将来は映画監督かマフィアになろう」って思ってたぐらいで(笑)。

語り口が面白くて、時間軸がころころ変わる作品に惹(ひ)かれましたね。僕自身の作品に群像劇が多いのも、そういった作品の影響が大きいと思います。高校時代には毎年、文化祭で映画を作っていました。

――上京後、マルチ商法で多額の借金を抱えたり、ホームレス生活をしたりしたそうですが、その当時に見て記憶に残っている作品は?

上田 『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)ですね。カバーのような自主映画を作ったこともありました。あとはジャン=リュック・ゴダールやフェデリコ・フェリーニ、古い日本映画なんかを背伸びして見ていましたね。

『勝手にしやがれ』(1960年)は本当に好きですし、フランソワ・トリュフォーの『アメリカの夜』(1974年)はかなり影響を受けていると思います。

――上田監督といえば『カメ止め』が有名ですが、ずばり、影響を受けた作品や監督は?

上田 クエンティン・タランティーノとビリー・ワイルダーかなと。三谷幸喜さんの作品も好きで、なかでも『ショウ・マスト・ゴー・オン 幕を降ろすな』という舞台が大好きで。

――ある意味、「カメラを止めるな」ってことですもんね。

上田 "モノづくりをしている人に訪れる困難"みたいなものがすごく好きなんでしょうね。ワイルダーは三谷さんがきっかけで好きになって、1940年代から60年代のウェルメイドなコメディをよく見ていました。

ワイルダーの師匠にあたるエルンスト・ルビッチとか、あとはプレストン・スタージェスの『サリヴァンの旅』(1942年)とか。そういう洒脱(しゃだつ)なコメディと、タランティーノやスコセッシ、ブライアン・デ・パルマが持つ血のにおいと映画の躍動みたいなものを掛け合わせているのが、『カメ止め』なんだと思います。

■最初は実写映画化の企画を持ち込んだ

――『100日間生きたワニ』では、アニメーション監督としても活躍する奥さまのふくだみゆきさんと共同監督・脚本を務められていますよね?

上田 はい。よく言われていることですけど、この作品は「あと死ぬまで何日」っていう文字だけで見え方が変わるところやリアルタイム性がすごく面白かったですし、その一方で「語りすぎない語り口」がすごく映画的だなと思って。

それで30日目ぐらいに実写映画化の企画書を持ち込んだんですよ。それはいったん保留になったんですけど、その後に「上田さんご夫婦で、アニメで作るのはどうでしょう?」とご提案をいただきました。

――上田監督ってオリジナル派なのかなって勝手に思っていました。

上田 確かに今まではオリジナルがほとんどなんですけど、そこにこだわっているわけではなくて。自分の映画にできそうで、自分が今作りたいと思うものであれば、「やってみたい」と思うタイプなんです。

――原作は「死までのカウントダウン」が面白さでしたが、映画ではそれができないわけですよね。どう表現を?

上田 原作の『100日後に死ぬワニ』から『100日間生きたワニ』へとタイトルが変わっていることにも現れているんですが、物語の前半はワニが生きた100日を描いていて、後半はワニがいなくなってからの世界を描いています。

後半がオリジナルストーリーなんです。もともとは原作に忠実なカタチにして、最後の5分くらいだけ後日談という脚本にしていたんですけど、初稿を書き上げた頃に本格的にコロナ禍になって、「この日常の先を描かないとダメだ」と思って。

「平凡な日常のなかで、死を意識することによって今日が変わる」というのが、自分がもともとこの作品に感じていたテーマなんですが、コロナ禍の今こそ、その先を書くべきだなと思いましたね。

あとは「実写畑の自分だからこそできるアニメを作ろう」と意識していました。妻はアニメーターでもあるけど、僕は実写畑の人間なので本道で勝負してもしょうがない。だから、「邦画みたいなアニメを作ろう」と考えました。

実写とアニメって、作り方がほとんど真逆に近いんですよ。実写はまず現場で撮影してそれを編集していくけど、アニメは最初に詳細な設計図があって、後から素材を作っていく。だからこそ、アフレコのときにアドリブを入れてもらったり、セリフの合間の息づかいや言い損ねてしまったところも含めて生かしたりしました。

自分は映画を作る上で「緻密に作り込み、現場で破壊して、編集で再生させる」ことを意識しています。この破壊の工程がないと、きれいでまとまったものになっちゃう気がして。

――上田監督渾身(こんしん)の本作を、どんな方に見てもらいたいですか?

上田 今を生きる人、でしょうか。もちろん原作と同じく、普遍的で長く楽しめるものになっていると思うんですけど、今しか作れなかった、今届けたい物語でもあるので、今見てほしいなと思います。

●上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)
1984年生まれ、滋賀県出身。2009年に映画製作団体「PANPOCOPINA」を結成し、15年にオムニバス映画『4/猫』の一編『猫まんま』の監督で商業デビュー。劇場長編デビュー作『カメラを止めるな!』は観客動員数220万人を突破する大ヒットに。主な監督作に『お米とおっぱい。』(11年)『イソップの思うツボ』『スペシャルアクターズ』(共に19年)など

■『100日間生きたワニ』近日公開予定
©2021「100日間生きたワニ」製作委員会 配給:東宝


取材・文/テクモトテク 撮影/松屋まを