桃井かおり氏(左)とゆみこ氏(右)
桃井かおり氏(左)とゆみこ氏(右)

天才、奇才、破天荒......そんな言葉だけで言い表すことのできない、まさに唯一無二の落語家・立川談志。2011年11月、喉頭がんでこの世を去った。高座にはじまりテレビに書籍、政治まで、あらゆる分野で才能を見せてきたが、家庭では父としてどんな一面があったのか? 娘・松岡ゆみこが、いままで語られることのなかった「父としての立川談志」の知られざるエピソードを書き下ろす。

「立川談志の娘」ということもあり、数々の有名人たちとの思い出があるゆみこ氏。今回はさだまさしさんにはじまり、あの有名作家や大女優までが登場。

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1番濃い出会いだったのが、さだまさしさん。父と仲の良かった十八代目中村勘三郎さんが、父が亡くなった1年後に57歳という若さで亡くなられた。勘三郎さんと仲のよかった笑福亭鶴瓶さん、立川志の輔さん、立川談春さん、さださんの4人で、松本市の平成中村座で追悼イベントをすることになり、私もついて行った。

鶴瓶さんはしゃべりまくり、さださんもしゃべるは歌うは、志の輔さんも負けじと長ーい落語を演じた。談春さんだけが時間を気にしていたが、勘三郎さん追悼の会は4時間に及んだ。

そして打ち上げ。お店のお座敷には大勢の人がいた。私は、初対面だったさださんにまずご挨拶をした。「はじめまして、談志の娘のゆみこです」と畳に正座して頭を下げた。すぐにさださんも正座して「さだまさしです」と笑顔でお辞儀をしてくれた。 

2次会にワインバーに行き、日帰りの鶴瓶さん以外はみんな同じホテルに泊まった。部屋で女友達とパジャマに着替えていたら、電話がかかってきた。「さだまさしでございます。今からお部屋に行ってもよろしいでしょうか?」なんのこっちゃ?と思ったが「はい」と答えた。

さださんが部屋に来ると、いきなり落語をはじめた。『らくだ』だった。私と友人は金縛りの様に固まって最後まで聞いた。翌日はみんなでゴルフの予定だったが、外は雨が降っていた。「さださん、明日はゴルフですし、そろそろお部屋に戻ったほうが......」と私が言うと「そうですね」と言って、ニコニコしながらお部屋に帰った。 

朝になっても雨は降ったままだった。談春さんに電話をして「何時集合? ゴルフするの? さっきまで、さださんいたんだよー」と言うと、「なんで?」と驚いていた。雨は結構降っていたが、とりあえずゴルフ場に行く事になった。

雨が一粒でも降ればゴルフをやらないさださんと、槍が降ってもゴルフをやりたい志の輔さん。志の輔さんは朝からラーメンを食べて張り切っていた。さあ、どっちに転ぶのか? 秋の松本は寒かったし、雨もどしゃ降りに近かった。

私はさださん派で、雨も寒いのも嫌いだし、その日は当然寝不足だった。しかし、志の輔さんのやる気が勝った! 渋々さださんもゴルフウェアに着替えて、私達にホッカイロなどを沢山くれた。その日のゴルフの記憶は、寒くて辛かったことしかない。案の定、さださんは風邪をひいた。 

さださんが私と母を、その年の年末のディナーショーにご招待してくれた。母が大好きな『秋桜』も歌ってくれると約束をした。ディナーショー当日、始まる前にさださんにご挨拶に行くと「ごめんなさい。喉の調子がイマイチで、今日は『秋桜』は歌えません。必ずまた歌いますね」と母に言ってくれた。私は心の中で「志の輔さんのせいだ」と思った。 

他にもいくつか思い出があって、もう20年くらい前になるのかな? 私は人気作家、浅田次郎さんの『プリズンホテル』を読んでファンになり、ほとんどの作品を読みまくった。そしてある日、知り合いに誘われて、新宿の劇場に浅田次郎さん原作の『天切り松』のお芝居を観に行った。主役は左とん平さんで、既に何度も再演していたお芝居だった。 

ストーリーは本で読んで知っていたが、とん平さんの熱演も素晴らしかった。芝居が終わりカーテンコールの時、とん平さんが「今日は、初めて浅田次郎さんがいらしてます!」と言った。すると私の真後ろにいた、黒のスーツに真っ白なマフラーを首にかけた浅田次郎さんが立ち上がり、ステージに上がって挨拶をした。そして席に戻られた浅田次郎さんに、私は振り向いて「談志の娘です! 浅田さんの大ファンです!」と言うと、「僕は談志師匠のファンです」と言って握手してくれた。その日、お店に出勤した私は、みんなに「キムタクと握手するより嬉しい!」と自慢した。

私が憧れていて大好きな桃井かおりさんは、私がTBSの「Nスタ」のコメンテーターをしていた時に、偶然楽屋が隣だった。嬉しくて、楽屋のドアに貼ってある紙の桃井かおり様と一緒に写真を撮っていたら、ご本人が収録が終わって戻って来た。あの独特のしゃべり方で。

興奮してしまった私は「立川談志の娘の松岡ゆみこです。桃井さんの大ファンです! 一緒にお写真お願いします!」と、いきなり言ってしまった。桃井さんは「私も談志さん好きーー」と言って、笑いながら写真を撮ってくれた。

「パパのおかげです!」こういう時に談志の子供で良かったなーと思う、ミーハーな私です。