連載4回目にして、ついにゆでたまご嶋田隆司先生降臨
連載4回目にして、ついにゆでたまご嶋田隆司先生降臨

連載4回目にして、ついにゆでたまご嶋田先生が降臨! 懐かしい話題や、最近の連載で先生が考えていることなど、燃え殻、爪切男が少年に戻った気持ちで聞いてみた!

今回の「先月の肉トーク」テーマ
355話 天を衝く8人!!の巻(8月2日分)
356話 仮面の貴公子、帰還!!の巻(8月23日分)

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●『キン肉マン』と全日とリングスと

燃え殻(以下、燃) 先生にお会いできると思わず、この連載では言いたい放題で、申し訳ありません!

爪切男(以下、爪) 申し訳ありません!

ゆでたまご嶋田(以下、嶋田)いえいえ(笑)、おふたりのコラム読んでますよ!

燃 うれしいです! ちなみに、以前ビッグボディの話が盛り上がりまして。

嶋田 はい、はい。ビッグボディって、昔から人気あるんですよね。『ジャンプ』で描いていた当初は、それがわかんなくて。読者の反応も、ハガキでしか返ってこないから。でも今は、私も外に出るようになって、飲み屋なんかにファンがいて、「なんでビッグボディに、あんなひどいことをしたんですか!」って言われて、リアルな反応をもらってますよ。

爪 (笑)。

燃 例えば、当時先生が予想していなかったけど、人気が出た超人って、います?

嶋田 やっぱり、ウォーズマンじゃないですかね。2回目の超人オリンピック決勝で闘うのは、最初はキン肉マンとウルフマンの予定だったんですよ。

燃・爪 えええっ!?

嶋田 ところが、途中でウォーズマンの人気が出てきて。急遽、キン肉マンvsウォーズマンになったんですよね。だから最初は、えらくウルフマンを推してるじゃないですか。

爪 ああ! だからか!

燃 ウルフマンからウォーズマンに役者を代えるっていうのは、今思えば大きな決断ですね。

嶋田 そういえば、その試合あたりで初めて、キン肉マンがマスクをかぶってるってわかるんですよ。これは、読者も熱狂してくれましたね。マスクマンの設定は、「夢の超人タッグ編」でこそ生かされて......。

爪 ウォーズマンがネプチューンマンにやられ、マスクをはがされて師匠のロビンマスクに問うシーン「だ...だれかオレの顔をみて 笑ってやしないか?」「だれも笑ってやしないよ!」っていう場面。僕、自分の小説で引用させていただきました。

嶋田 ありがとうございます。あのウォーズマンの素顔、原作で「ちょっとグロテスクに」って書いたら、中井くんが見事に描いてくれて、僕もウルッときましたね。

爪 そういえば先生、最近柔術を始められたんですよね?

嶋田 そうなんですよ。今の『キン肉マン』にも、そういう要素も入れてたりしますよ。『ジャンプ』にいた頃の『キン肉マン』は、ある意味当然ですが、プロレス的なことを意識してました。今振り返ってみても『キン肉マン』って、バックドロップみたいな普通の技が、ほんとに映える、っていうか。

燃 うん、そうですよね。

嶋田 関本大介(大日本プロレス所属、マッスルモンスターの異名を持つ)みたいに、普通の技で見せられる闘いにしたいな、と思って。

燃 われわれプロレス好きには、とてもわかりやすいたとえです(笑)。

爪 シンプルだけど強いということですね。ちなみに、関本は、高校のときに朝青龍に勝ってますからね、腕相撲で。

嶋田 え、そうなんですか?

爪 高知の明徳義塾高校にいたとき、スポーツ留学生として在籍していた朝青龍とは、常にウエイトトレーニングで張り合う仲で、腕相撲では関本が勝っていたらしいです。

嶋田 へえー!

爪 でも、ちょっと全日本プロレス的ですよね、『キン肉マン』って。「夢の超人タッグ編」も、世界最強タッグ的な。

嶋田 ああ、確かに。

爪 バックドロップとか、シンプルな技が映えるというのも、ジャンボ鶴田的というか。普通の技がすごすぎる。やっぱり当時、新日より全日のほうが熱中しました?

嶋田 はい、外国人レスラーが好きだったんですよね。全日は、ジャイアント馬場がNWA(1948年発足の米国プロレスプロモート連盟)の会員だから、いい外国人を呼んでくるんですよね。だから、リングス(91年旗揚げ、団体代表・前田日明の人脈で数々の外国人選手を招聘)も好きでしたね。

爪 ああ、えたいの知れない強い選手が好き。

燃 確かにリングス、そうだったかもしれない。

爪 その感じ、作品に反映されてますよね。それが、ゆでたまごイズムになっているというか。『キン肉マン』が、いろんな世代の人に広く愛されていて、どんな展開になってもおもしろい、みんなついてくる、っていうのは、全日だからなんですね。新日は、たまに会場で暴動が起こったりしたけど、全日はないというか(笑)。

●リアル・ディールズ8名の意図とは

爪 最新話(356話)も読んだんですが......バベルの塔、すごい鬼設定ですね。最初のジェロニモが負けたら終わり。

燃 橋本真也の「小川直也に負けたら即引退」(2000年)に近い。「だったら橋本、勝つだろう」と思ったら、負けましたからね。

爪 でも、うれしいですね。ジェロニモ、もうちょっと取っておくかな、って予想してたんですけど、1試合目のむちゃくちゃ大事なとこに、すごい設定で出してきたから。

嶋田 ジェロニモが出たら負けるだろう、とみんな思うでしょうけど、そうなったら、あとのメンバーはバベルの塔に登っていけないじゃないですか。だから、あえて一番不安を焚きつけるだろうジェロニモにしましたね。

爪 そもそも、今回この8人(リアル・ディールズ)を選んだ、というのは、どんなふうに決めたんですか?

嶋田 やっぱり、日本のアベンジャーズを目指してますね。もうスター選手を全部そろえようと。ホントはテリーマンも入れたかったんですけど、今回はジェロニモの成長を描きたくて。

爪 あと、ラーメンマン。

燃 そう、ラーメンマンがいないんですよね。

爪 『グランドジャンプ』(8月18日発売18号)の読み切りで『闘将!!拉麵男(たたかえ ラーメンマン)』があったから(笑)。

燃 ああ、ラーメンマンは、そっちで忙しかったのか。

爪 あの表紙を見たときは、めちゃめちゃうれしかったですね。32年ぶりに『闘将!!拉麵男』の新作を描いたというのは、どういう経緯だったんですか?

嶋田 『グランドジャンプ』からは定期的に読み切りの依頼がありまして。それで、カレクックとか、ウルフマンの引退とか、いろいろ描いてきたんですけど、今回、同誌創刊10周年ということで満を持して『フレッシュジャンプ』で連載していたラーメンマンを。

燃 はい、創刊号から買ってました。

嶋田 休刊になって、『闘将!!拉麵男』も未完のまま打ち切り......。読者はモヤモヤしてるんじゃないかな、と思って。

爪 モヤモヤしてました。

──取材中『フレッシュジャンプ』を発見──。

爪 うわあ!(手に取る)

燃 (手に取る)これ! これは、すごいですよ!

爪 『闘将!!拉麵男』って、人生で初めて出会ったスピンオフでした。

燃 そう、当時まだ、スピンオフという概念がなかったから。最初は、どういう形で始まったんですか?

嶋田 『ジャンプ』で「愛読者賞」ってあったの、覚えてます?

爪 はい、ありました。

嶋田 出版社の垣根を越えて集まった作家たちが、読み切りを描いて日本一の漫画家を決める賞なんです。で、何を描こうかな、と思ったときに......宮下あきらさんが『激!極虎一家(げき ごくとらいっか)』(1980〜82年)を描いていた頃で、「俺は枢斬暗屯子(すうざんあんとんこ)を主役にして描くぞ」って言ったから、「あ、『キン肉マン』のキャラクター出しても、OKなんや」と思って。それで『闘将!!拉麵男』を描いたのが最初なんです。

爪 そうだったんですね。でもほんと、楽しみな闘いが多いですね、これから。キン肉マンはどこで闘うのか、アシュラマンはサタンクロスの仇(かたき)を討つのか。このバベルの塔の闘いがどう進んでいって、最後にどうなるかは、もう決まっているんですよね?

嶋田 決まってないです。

燃 え? 決まってない?

嶋田 はい。だいたいは決まってますけど、マンガファンは物語の整合性とか、言いますよね、伏線を張って後半で回収して。っていうのが、僕、あんまり好きじゃないんですよ。僕らが読んできたマンガには、そんなのなかった。

爪 ああ、そうですよね。

嶋田 本宮(ひろ志)先生なんて、すごいですよ。『男一匹ガキ大将』(1968〜73年)で、日本中の番長が集まってきて、主人公の戸川万吉、囲まれるんですよね。「うわ、これ、どうなんのかな、」と思ったら、次の週、みんな土下座するんですよ。

燃・爪 はははは! 

嶋田 「子分にしてください!」って。本宮さん、先まで考えてなかったな、と思って。「これがマンガや!」と。

燃・爪 ははははは!

嶋田 本宮先生とか、梶原一騎先生の影響は大きいですね。先々まで考えない。

燃 だからこっちも、楽な気分で読めるんですね。しかし、決めてないって、すごいなあ。

嶋田 よく言われるのは、ゆでたまごはそれが許されるのに、なぜほかの作品は許されないのか、と(笑)。

燃 世の中、マニアが作品を潰す、っていうじゃないですか。でも、ゆでたまご先生の世界って、マニアがみんな最後まで付き合う、っていうふうに、今、なっていますよね。みんな「大丈夫ですよ、好きにやってください」みたいな。

嶋田 はははは。ありがたいです。

燃 「俺たちが推してるから大丈夫」っていう。

爪 日本一ヤフコメが荒れない人気マンガですからね。

燃 そう、ファンが重箱の隅をつつかない。みんな「まあ、そういうこともあるか」っていう。SNS全般にも、そういうゆでたまごイズムが、浸透してほしいなあ(笑)。

爪 SNS、最近特に、対立ばっかりが目立つから。

燃 ゆでたまごイズムが足りない。最初と造形が違う超人(編注:悪魔将軍、ガンマン......)が出てる、でもそれでいいじゃないか!っていう。

嶋田 で、それをね、直さないんですよ、単行本でも(笑)。

燃 はい、そう思いました。

嶋田 それも昔、よくあったんですよね。マンガの『タイガーマスク』(1968〜69年 原作:梶原一騎・作画:辻なおき)で、タイガーが馬場に説教されてるんですよ。そのとき、馬場は日本プロレスのジャージを着てるんですけど、次のコマでは裸なんですよ。

爪 はははは!

燃 それを見つけたときに、「うれしい!」ってなるか、「おい!」ってなるかで。

嶋田 「うれしい!」ってなっちゃうんですよね。当時『キン肉マン』を読んでた人が、今、飲み屋で延々と語ってくれるのは、それもありますよね。

燃 余白とバグがいっぱいあるから。日本酒に合いますよ(笑)。

●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。テレビ美術制作会社に勤めながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、2016年、90年代の若者を描いた『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)で小説家デビュー。同作が森山未來主演でNetflixより全世界同時配信中。最新著『これはただの夏』(新潮社)も好評発売中

●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。昨年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。本年2月より『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、3月『働きアリに花束を』(扶桑社)、4月『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)、の3ヵ月連続のエッセイ集刊行でも話題となっている

取材・文/兵庫慎司  撮影/榊 智朗  ©ゆでたまご/集英社