『トップガン マーヴェリック』でF/A-18スーパーホーネットに乗る主人公のマーヴェリック。出演者たちは実際に凄まじいGを経験したとされる(『トップガン マーヴェリック』配給:東和ピクチャーズ (C) 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.)
『トップガン マーヴェリック』でF/A-18スーパーホーネットに乗る主人公のマーヴェリック。出演者たちは実際に凄まじいGを経験したとされる(『トップガン マーヴェリック』配給:東和ピクチャーズ (C) 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.)

1986年に公開された映画『トップガン』の続編となる『トップガン マーヴェリック』が、5月27日(金)より公開予定だ。今回その最新作を、元・航空自衛隊の戦闘機パイロット高木博元一等空尉とともに鑑賞させてもらった。

空自時代、高木氏はF-15戦闘機パイロットで、タックネーム(飛行中に無線で使うニックネーム)は"BOO"。2000年に空自を退職した時点で、F-15での飛行時間3000時間は、当時世界で14位の記録だった。数々の異機種戦闘機との空戦訓練を経験した高木氏に、映画の感想と、まさに"リアル・トップガン"ともいえる自身の体験を語ってもらった!

元空自F-15戦闘機パイロット・高木博元一等空尉。F-15の飛行時間3000時間は、当時世界14位(写真/高木氏提供)
元空自F-15戦闘機パイロット・高木博元一等空尉。F-15の飛行時間3000時間は、当時世界14位(写真/高木氏提供)

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「1986年の『トップガン』公開当時、私は航空自衛隊の幹部候補生で、F-15に乗るために訓練中でした。その後F-15のパイロットとなり、今は民間航空機の国際線で機長をしています。

映画を拝見させていただきましたが、主人公のマーヴェリック(トム・クルーズ)は今作で大佐となり、まだ海軍戦闘機乗りでした。作品内で『全員、家に帰す』というセリフを聞いて、若い頃と違い彼も大人になっていて、"俺と一緒だな"と思いましたね(笑)」

高木元一等空尉の乗る空自F-15戦闘機。翼下にタックネームの『BOO』と描かれている(写真/高木氏提供)
高木元一等空尉の乗る空自F-15戦闘機。翼下にタックネームの『BOO』と描かれている(写真/高木氏提供)

元戦闘機乗り、今は旅客機機長。『全員、家に帰す』のが仕事となった高木氏は、本物の米海軍F-14トムキャットと突然の空戦訓練で戦った経験があるという。

1998年、第304飛行隊所属の3機のF-15は、「レンジ134」と呼ばれる空対空射撃訓練空域で、実弾射撃訓練をしようとしていた。

コクピットでF-15を操縦中のBOOのヘッドフォンから突然、『プルルン、プルルン』とミサイルをロックオンされた警告音が鳴った。RWR警戒装置を見ると、見た事も無いシンボルが2個表示されていた。

立川の耐G訓練装置で3.8Gに耐える高木氏。この装置では8Gまで訓練できる(写真/高木氏提供)
立川の耐G訓練装置で3.8Gに耐える高木氏。この装置では8Gまで訓練できる(写真/高木氏提供)

防空レーダー管制官から「2機接近中!」と無線が入る。

BOO編隊は「訓練中止」を僚機に伝え、マスターアームスイッチを切ると、操縦桿のトリガーに安全ピンを入れて撃てないようにし、待機旋回に入った。

「すると突然、2機のF-14が入って来たんですよ。管制官から『米空母から上がっている2機のF-14と思われます』と無線がありました。そんなこと見れば分かるけれど(笑)、F-14はフル兵装でミサイルも搭載。めちゃくちゃ怖くなりました」

F-14はさかんに翼を振って『空戦勝負しないか?』と誘ってきたという。

フェニックス長距離ミサイルを機体左側に付けた、米海軍空母艦載機F-14Aトムキャット(撮影/柿谷哲也)
フェニックス長距離ミサイルを機体左側に付けた、米海軍空母艦載機F-14Aトムキャット(撮影/柿谷哲也)

「それを見てテンションがワーッと上がって、お互いに回り出して空中戦訓練になりました」

『トップガン』を見ていたBOOは、映画と同様にF-14が2機チームで来ると思ったが、1対1の勝負を挑んできた。

「銃口を向けられたくないから、相手に後ろに付かれたくない。こちらの1、2番機ともF-14を追跡して、向こうは逃げてばかりのような感じでした。『トップガン』のガンアタックの場面と同じになりました」

F-14は可変翼を広げた。映画だとそのまま機首を上げ減速、相手の後ろに回り込んでいる。

「そうなるかと思ったんですが、相手の運動エネルギーが無くなっていて、その様子は我々に『参りました』と言っているように見えました。その後何回勝負をしても、我々が勝ちましたね」

『トップガン』続編でマーヴェリックはF/A-18E/Fスーパーホーネットに乗る(撮影/柿谷哲也)
『トップガン』続編でマーヴェリックはF/A-18E/Fスーパーホーネットに乗る(撮影/柿谷哲也)

F-14はやがて2機で集まると、そのまま空母へと帰って行ったという。

「相手はフル兵装だったからその分重いので、気の毒だなと思いましたね。こちらはタンクは空で、装備は機銃弾だけでしたから」

このときは高木氏の勝利で終わったが、その後、再びF-14と空戦することになる。

F/A-18Eは、戦闘機Fでありながら、攻撃機Aの任務も。超低空で谷間を飛び、目標を爆撃する任務もある(撮影/柿谷哲也)
F/A-18Eは、戦闘機Fでありながら、攻撃機Aの任務も。超低空で谷間を飛び、目標を爆撃する任務もある(撮影/柿谷哲也)

「日米共同訓練の一環で、東シナ海の五島沖パパ空域で再び交えました。この時は4機で行きました。長距離ミサイルをかいくぐり、相手機が見える距離に入れば絶対負けないはずと思い、『華厳の滝作戦』を立案しました」

まず、高度1万4000mを4機の密集隊形で飛び、F-14の長距離ミサイルの射程内に入ると4機とも90度右旋回、横に並んで縦列飛行をする。

「あえて標的となり、どの機をロックオンするかトムキャット(F-14)に選んで頂く。ミサイルロックオンされたら『華厳の滝作戦』の開始です」

サーチモードの電波がBOOの操縦するF-15に当たると、『プルルン』という警報音が鳴った。

「『華厳』とコールし、一気に操縦桿に力を込めました」

写真は複座2人乗りのF/A-18F。機体を真横にして細い谷間を抜ける。コクピット内に2人のパイロットが見える(撮影/柿谷哲也)
写真は複座2人乗りのF/A-18F。機体を真横にして細い谷間を抜ける。コクピット内に2人のパイロットが見える(撮影/柿谷哲也)

F-15を90度下向きになるよう機首を急旋回させ急降下、高度3000mまで下りる。落差1万1000mの『華厳の滝』だ。当時のF-14用長距離ミサイルのレーダーは、F-15がこのような機動をすると見失うだろうとの推測を元に立てた作戦だった。

「これでF-14の長距離ミサイルをかいくぐり、目視できる間合いに入れば俺らの勝ちだ!!」

BOOはそう確信した。だが、演習の審判担当の地上管制官から『4機シャットダウン、全機撃墜』と判定されてしまった。

「結局、その日は肉眼でF-14を見ることはありませんでした。

左翼に滑空誘導爆弾が搭載されているのが見える。これを投下し目標に命中させるのがF/A-18の任務の一つ(撮影/柿谷哲也)
左翼に滑空誘導爆弾が搭載されているのが見える。これを投下し目標に命中させるのがF/A-18の任務の一つ(撮影/柿谷哲也)

今回、映画の主人公マーヴェリックが乗るのはF/A-18E/Fスーパーホ―ネットですが、岩国の米海兵飛行隊のF/A-18Dホーネットを相手に空戦訓練をしたことがあります。"ホーネット=スズメバチ"という名前通りのイメージで、単機で襲って来ます。ヒートミサイルを撃てない間合いに入り20mm機関砲で狙いましたが、小回りが利く上に小さいので撃ち落とすのは難しいですね」

高木氏による"リアル・トップガン"は、F-14を相手に1勝1敗という結果だった。

☆『トップガン マーヴェリック』は、2022年5月27日(金)より公開予定。

取材・文/小峯隆生