中性脂肪が肝臓に蓄積した状態を脂肪肝と呼ぶ。酒をたくさん飲む人がなるイメージだが、お酒を飲まない人でも、若くても、メタボ健診に引っかかっていなくても、もしかしたらすでにヤバイかも......。健康診断の結果が正常でも安心できない、じわじわ迫る、ホントは怖い脂肪肝の実態と予防策を紹介する。

■患者は2000万人!? 脂肪肝は新たな国民病

アルコールの分解を筆頭に、有害物質の解毒やタンパク質の合成など、体内で数々の働きを担う臓器、肝臓。

その肝臓に中性脂肪がたまり、肝臓全体の30%以上を占める状態なのが「脂肪肝」だ。今や成人の3人にひとりが脂肪肝だといわれている。

従来は肝臓に中性脂肪が蓄積するだけで心配のない軽い疾患と考えられてきたそうだが、進行すると重大な病気になりかねないと話すのは『死肪肝』(幻冬舎メディアコンサルティング)の著者で、みなと芝クリニックの院長・川本徹氏だ。

「脂肪は通常、皮膚の下に蓄えられる『皮下脂肪』や、主に腸管の周辺の脂肪細胞につく『内臓脂肪』になって体内に蓄積されます。しかし、本来は脂肪がたまらないはずの非脂肪組織につく脂肪は『異所性脂肪』と呼ばれ、脂肪肝もそのひとつです。

脂肪肝になって、過剰に脂肪を蓄積した肝細胞は、死ぬと周囲に炎症を起こして『肝炎』になり、慢性化すると細胞が線維化する『肝硬変』になります。さらに進めば最悪の場合、『肝臓がん』や『肝不全』に陥ります」


そもそも脂肪肝は、大きく分けて2種類あるという。

「まず、お酒の過剰摂取が原因で肝臓に中性脂肪がたまるアルコール性脂肪肝。脂肪肝のおよそ18%がこれにあたります。ただ、原因がひとつでわかりやすいため、しばらく禁酒したり制限すれば顕著に改善されます」

ちなみにアルコール性と診断されるのは、男性なら常習的に純エタノールを一日平均60g 摂取している場合。ビールなら大瓶2本半、ワインならグラス6杯だ。飲む頻度を減らしたり、ノンアルコール飲料などに変えれば制限しやすい。

もうひとつが、「非アルコール性脂肪性肝疾患(以下、NAFLD[ナッフルデイー])」だ。これは単純性脂肪肝(以下、NAFL[ナッフル])と、非アルコール性脂肪肝炎(以下、NASH[ナッシュ])の総称で、そのほとんどがNAFLだが、より炎症が進んだNASHの患者は2割ほどだという。

これらはその名のとおり、普段飲酒しない、もしくは少量しか飲まない人がなる脂肪肝のことだが、近年、その増加が問題視され始めている。

「成人の3分の1は脂肪肝だといわれていますが、そのほぼ半数は肥満が原因です。特にNAFLDは肥満度が高まるにつれ、増加しています。

ですが、アジア人は皮下脂肪や内臓脂肪が少なくても、遺伝的にNAFLDになる傾向があります」


一般的に肝臓に悪い=お酒の飲みすぎというイメージが強いが、脂肪肝の原因の多くは食べすぎによるもので、肥満のほうがよっぽどリスキー。ただ、野菜だけなど、極端な食生活の人も低栄養性脂肪肝になることがある。上のふたつのグラフ(BMI別、年齢別)からわかるように、20代と若く、かつ痩せていても、肝臓に脂肪がたまりやすい人が一定数いるようだ。

「ある研究では、新規NAFLD患者の1年間の体重増加は平均1.7㎏だそうです。また、このコロナ禍で3人にひとりが体重増加したというデータもあります。つまり、多くの人が"脂肪肝予備軍"である可能性が高いんです」

そんな、誰もがなりうる可能性のあるNAFLD。その数は1000万人とも2000万人ともいわれるが、実際の患者数は不明だという。川本院長がその理由を説明する。

「そもそも脂肪肝自体、かつては医学界でも病気扱いされてこなかった上に、NAFLDは見つかりにくい。なのでNAFLDの研究データが少なく、基準になる数値がないんです。

例えば、肝臓の状態を表す血液検査項目のASTは7〜38IU/L、ALTは4〜 44IU/Lが基準値とされていますが、脂肪肝では数値が上がらないことも多い。どちらも31以上ならNAFLDの可能性がありますが、痛みといった自覚症状もなく、正常値の範囲なので脂肪肝と診断されることは少ないのです。NAFLDは腹部のCT検査やエコー検査などの画像検査で確定診断されますが、血液検査が正常値で具体的な警告もなければ、再検査しない人がほとんど。なので実態がつかめないんです。

これが糖尿病の場合だと研究が進んでいるため、正常値でも、さまざな数値を鑑(かんが)みて病気の可能性を指摘されるんですが......」

■認知症に心筋梗塞も! 脂肪肝が大病を招く!?

健康診断などで見つかりにくい上に、自覚症状もない。いつの間にかなってしまうかもしれない脂肪肝は、肝臓以外の病気も引き起こすという。

「まず、脂肪肝になると肥満体質になります。血糖値を低下させるインスリンの働きを抑えるため、足りない分を補おうと、さらに分泌量が増えるんです(インスリン抵抗性)。インスリンは中性脂肪の合成を活性化させるので、分泌量が増えるほど太りやすくなる。当然、これまでどおりの生活だと太る一方です。もちろん、そうして作られた脂肪も肝臓に蓄えられ、脂肪肝が悪化していきます」

脂肪肝がさらなる脂肪を生み出す、負のスパイラルに陥るというわけだ。その上、このインスリン抵抗性は、ただ太らせるだけではないと川本院長は警告する。

「アルツハイマー型認知症は、発症する25年ほど前から原因物質のアミロイドβ(ベータ)を脳にため込みます。インスリン分解酵素はアミロイドβも分解するのですが、インスリンが大量に分泌されることでアミロイドβの分解が追いつかなくなります。なので、認知症のリスクも高まります。

また、最初に説明したように脂肪肝は異所性脂肪のひとつ。脂肪は肝臓だけでなく、血管や心臓にも付着します。脂肪肝を放置し、改善する努力をしなければ、心臓の血流にも悪影響を及ぼし、最悪の場合、心筋梗塞(こうそく)を引き起こす可能性も否めません」

その危険性は、アルコール性ではなくNAFLDの場合、さらに高まるという。

「NAFLDは肥満との結びつきが強いため、高血圧症、脂質異常症、糖尿病など生活習慣病とセットになることが多い。より重症度の高いNASHの場合では胃食道逆流症や大腸腺腫、不眠・うつ病、慢性腎不全など、非常に多くの病気を合併しやすいです」

■脱デブ生活へ! 地中海の男を見習え!

"死の入り口"にもなりかねない脂肪肝。だが現状は、保険適用の治療薬もなく、予防・改善には生活習慣の見直ししかないそう。

「遺伝的な部分や体質など個人差も大きいのですが、脂肪肝の主な原因は運動不足や偏った食生活など、小さなことの積み重ね。メタボや糖尿病と同じです。逆にそれを改めれば予防につながります」

川本院長が勧めるのは、イタリアやギリシャなどの日常食である"地中海食"だ。

「不飽和脂肪酸の多い魚介類や、チーズなどの発酵食品、野菜や果物などが多く、血中の脂質が多くなりにくいのが特徴です。地中海食は生活習慣病のリスクのみならず、脂肪肝を軽減させることがわかっており、欧州でも推奨されています。実際、彼らは異所性脂肪が少ないんです」


また川本院長は、特に脂質が多く高カロリーな揚げ物や、糖分の多い清涼飲料水などは避けるべきだと指摘。

「ただ糖質に気をつけたつもりでも、甘いものを我慢する代わりに煎餅を食べていたりと、突き詰めると"つもり"でしかないことが多い。これらに注意しつつ、週3回、一日30分以上の早歩きのウオーキングも脂肪を減らす効果が期待できます。まずは一度、一日に食べたものを書き出したり、運動量を測るなど、自分の生活を正確に把握してみてください」

将来の大病を避けるためには、たかが脂肪肝と侮らず、今の自分と向き合い、改善していくしかないようだ。

取材・文/鯨井隆正 イラスト/服部元信