リース利用の実証実験車だが、即市販できる完成度の高さを誇る。雨による濡れた路面もトラクションコントロールの搭載などにより安心して走行できたという
リース利用の実証実験車だが、即市販できる完成度の高さを誇る。雨による濡れた路面もトラクションコントロールの搭載などにより安心して走行できたという

ヤマハが二輪EVや、ソニーと共同開発したエンターテインメント車両を矢継ぎ早に披露。その背景には何が? 徹底試乗したモーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が解説する。

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■ソニーと協業した四輪の自動運転EV

――今年はニッポンEV元年と呼ばれ、国産自動車メーカーから続々と新型EVが登場しています。青木さん、バイク界はどうなっています?

青木 注目はヤマハです。今年4月に発表したEVスクーター「E01(イーゼロワン)」は、月額2万円、3ヵ月間限定の実証実験モデルとしてリース販売を行ない話題を呼びました。

――試乗された感想は?

青木 実際に乗ると、同社のガソリンエンジン車「NMAX(エヌマックス)」(排気量125cc)と同等以上の運動性能があることがわかりました。特に停止からの加速ダッシュはEVらしく鋭くなっていましたね。

走行モードは全3種類で乗り味はすべて異なります。また、回生ブレーキがエンジンブレーキの役割を果たし、さらにリバース機能まで備えているので使い勝手は抜群でした。

――必要な免許は?

青木 クラス区分は「NMAX」と同じ原付2種ですね。制限速度がクルマと同じで、原付1種(50cc以下)のように2段階右折やふたり乗り禁止などの制限がなく、機動性が高いのも特徴です。

シートを開けると、容量23リットルの収納スペースがあり、ポータブル充電器がスッポリと入る。コイツを使うと、残量ゼロから14時間で満充電が可能だ
シートを開けると、容量23リットルの収納スペースがあり、ポータブル充電器がスッポリと入る。コイツを使うと、残量ゼロから14時間で満充電が可能だ

充電コネクターをフロントマスクに配置したのは斬新なアイデア。急速充電器、普通充電器、ポータブル充電器を用途に合わせて使用できる
充電コネクターをフロントマスクに配置したのは斬新なアイデア。急速充電器、普通充電器、ポータブル充電器を用途に合わせて使用できる

――気になるのは航続距離ですが?

青木 車両固定式のリチウムイオンバッテリーを採用し、満充電で約104kmの走行を実現しています。充電は1時間で残量0%から90%まで回復できる「急速充電器」をはじめ、自宅等私有地への設置に適し、5時間でフルチャージできる「普通充電器」、さらにシート下に収納でき携帯性に優れる「ポータブル充電器」(14時間で満充電)の3つに対応します。

開発責任者の丸尾卓也氏(ヤマハ発動機CV開発部EM設計G)は、「リサーチの結果、毎日の通勤などに十分使える航続距離だと思っています。また、充電口をフロントに設けたことで、バッテリーチャージもしやすい」と胸を張っていました。

青木氏(左)の直撃に「これまでの50cc相当のEVから一歩先を行く本格派を造りたかった。静かで振動が少ないEVは疲れず移動できるので通勤の足に最適」と語る開発責任者の丸尾氏(右)
青木氏(左)の直撃に「これまでの50cc相当のEVから一歩先を行く本格派を造りたかった。静かで振動が少ないEVは疲れず移動できるので通勤の足に最適」と語る開発責任者の丸尾氏(右)

――なぜリースのみの販売?

青木 開発陣はまだ探求する余地があるとみています。丸尾氏は、「ユーザーが求める航続距離と充電方法の最適な組み合わせをさらに深掘りしたい」と語っていました。

そのため、3GのSIMとGPSを内蔵したコネクティング機能を搭載、走行ログやバッテリー残量など車両情報を収集し、さらなるEV二輪車の開発に役立てるそうです。

――なるほど。

青木 さらにヤマハはソニーと共同開発したエンターテインメント車両「ソーシャブルカートSC−1」を沖縄県北谷町内で運行しており、アオキは実際に乗ってきました。

運転手なしの自動運転で実用化されている「SC−1」はヤマハがソニーと協業して開発。危険防止のため、運行に際しては伴走者1名が歩いて同伴し、万が一に備えて遠隔操縦者もスタンバイ
運転手なしの自動運転で実用化されている「SC−1」はヤマハがソニーと協業して開発。危険防止のため、運行に際しては伴走者1名が歩いて同伴し、万が一に備えて遠隔操縦者もスタンバイ

――それもEV?

青木 はい、コイツは四輪の自動運転EVです。実はヤマハという会社は、1975年からゴルフカー(EV)を製造販売しており、50年近い実績があります。しかも、このカテゴリーでの国内シェアトップ! ヤマハはEVの老舗なんですよ。

ヤマハは自分で運転するグリスロのレンタルサービスも行なう。実際に乗った青木氏いわく、「低底構造で乗り降りしやすく、車体がスリムなため狭い路地にも入っていけた」という
ヤマハは自分で運転するグリスロのレンタルサービスも行なう。実際に乗った青木氏いわく、「低底構造で乗り降りしやすく、車体がスリムなため狭い路地にも入っていけた」という

地中に埋設した誘導線の磁力を感知して走行を行なう電磁誘導をはじめ、路面状況をカメラで読み取りルートを走行するVGL(バーチャルガイドライン)、高精度地図と3次元LiDAR(ライダー)による位置検出などさまざまな方式を検証しつつ、現在、ヤマハは自動運転ランドカーの実証実験を行なっている
地中に埋設した誘導線の磁力を感知して走行を行なう電磁誘導をはじめ、路面状況をカメラで読み取りルートを走行するVGL(バーチャルガイドライン)、高精度地図と3次元LiDAR(ライダー)による位置検出などさまざまな方式を検証しつつ、現在、ヤマハは自動運転ランドカーの実証実験を行なっている

――ふむふむ。

青木 また、2014年からゴルフカーで培った技術を発展させた低速自動モビリティ「グリーンスローモビリティ(グリスロ)」での公道走行を実現。21年3月にはサービスカーとして日本初の自動運転レベル3の運行(車内運転手なし)を福井県で開始しました。

現在、グリスロは沖縄県の北谷町で、自分で運転できるレンタルサービスをスタートするとともに、観光客の足として稼働する無人の巡回式の無料シャトルカートとしても活用されています。

二輪で知られるヤマハにとって、グリスロは新規事業の領域。ヤマハ発動機の渡辺敬弘氏(左)は「ゆくゆくは自動運転技術を進化させ、ドライバー不足の離島・山間地域で持続可能な交通インフラとしてカートを走らせたい」と語った
二輪で知られるヤマハにとって、グリスロは新規事業の領域。ヤマハ発動機の渡辺敬弘氏(左)は「ゆくゆくは自動運転技術を進化させ、ドライバー不足の離島・山間地域で持続可能な交通インフラとしてカートを走らせたい」と語った

――グリスロの反響はどうです?

青木 ヤマハの渡辺敬弘氏(技術・研究本部NV・技術戦略統括部 新事業推進部長)は、「床が低く、高齢者でも簡単に乗り降りができ、『ちょっとそこまで出かけたい』というニーズにも適していると思います」とグリスロの強みを語っていました。

加えて、グリスロに乗った人の99.5%が乗り合わせたほかの同乗者と話していることがわかり、これは通常の公共交通とは大きく異なる点ですよね。それについて渡辺氏は、「観光地での活用や高齢者が利用する際に重要な要素だと考えています」と語っていましたね。

ゴルフカーから発展したヤマハのスローモビリティは、観光客の利用だけでなく、高齢者をはじめとする、いわゆる交通弱者と呼ばれる人たちの移動手段としても活用が期待されている
ゴルフカーから発展したヤマハのスローモビリティは、観光客の利用だけでなく、高齢者をはじめとする、いわゆる交通弱者と呼ばれる人たちの移動手段としても活用が期待されている

――ヤマハはこのグリスロでどんな目標を掲げている?

青木 ヤマハにとってグリスロは新規事業の領域ですが、渡辺氏は「2024年に売上高300億円を目指す」と言い切っていました。

――ヤマハのEVはハンパないですね?

青木 僕はこれらの技術を活用したスゴい新型バイクが出ることを期待しています。

●青木タカオ 
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【〜取材現場から】』

撮影/中野英幸 青木タカオ