未来のエース・森下暢仁(手前)が、江夏豊に2年連続2桁勝利宣言!
未来のエース・森下暢仁(手前)が、江夏豊に2年連続2桁勝利宣言!

球団史上初のリーグ3連覇の翌年は4位、昨年は5年ぶりの負け越しで5位。カープの低迷が続いている。

前回、カープの正捕手・會澤翼(あいざわ・つばさ)と対談した江夏豊氏が、セ・リーグ新人王となった森下暢仁(まさと)を直撃!

リーグ3連覇(2016〜18年)を支えた主力投手たちが次々と戦線離脱するなか、森下は先発ローテーションを守り抜き、チームの勝ち頭に。甘いマスクとは裏腹の、強気のピッチングの神髄に迫る!

(この記事は、2020年12月14日発売の『週刊プレイボーイ52号』に掲載されたものです)

■森下の新人王獲得を江夏氏は断言していた

江夏 かわいい顔してるね。

森下 いえいえ(笑)。

江夏 高校は大分商か。

森下 はい。

江夏 大分って、こんなお坊ちゃまが多いの?

森下 そんなことないです(笑)。

江夏 自分が知ってる大分の野球人はもっとゴツゴツした顔の人ばっかりなんやけど(笑)。あなたは大分から六大学の明治に入って、エースとして活躍した。つまり、大分から広島を通り過ぎて東京に行った。で、昨年に広島からドラフト1位で指名されたわけだけど、広島という土地はまったく意識したことがなかったんじゃない?

森下 初めは何もわからなかったです。

江夏 そうだよな。その広島から指名されて、実際にどんな感じだった? 巨人や阪神じゃなかったわけだよ。

森下 ふふふ(笑)。そうですね、少しは「ああ広島かぁ」という思いもありました。

江夏 だと思うよ。自分は阪神に9年、南海(現ソフトバンク)に2年いて、それから広島に来たんだけど、最初はイヤだった。なんか"都落ち"というイメージもあったし、阪神時代に広島に来ればさんざん野次られていたから。

でもね、わずか3年間だったけど、2年連続日本一になれた。だから出るときは「ああ、広島はよかったな」と。「広島は俺の第二の故郷」というぐらい、好きになったんだ。

森下 そうだったんですか。自分は単独で指名していただいたので、何か広島とは縁がある、と感じています。

江夏 それはいいことだし、人間の感情は結果がよければどんどんいいほうに変わっていくからね。現に、あなたは新人王に選ばれて当然、という成績を残したんだから。この1年目の思い出を大事に、宝物にしてもらいたいよ。

森下 わかりました。

江夏 自分はね、今年2月の時点であなたの新人王獲得を断言してたんだよ。

森下 本当ですか?

江夏 うん。あなたのピッチングを初めて見たのは宮崎・日南キャンプだった。

森下 はい。ブルペンでごあいさつさせていただきました。

江夏 そう。ブルペンで見させてもらって、あの速いスラダー、カットボールがストライクに入れば、これはもう新人王間違いないと、この連載(『週刊プレイボーイ』「江夏豊のアウトロー野球論」)でも太鼓判を押したんだよ。

森下 ありがとうございます。

江夏 どう? プロ野球の世界は。1年やってみて。

森下 やっぱり華がある世界だな、と感じましたね。

江夏 プロはこの程度か、という感じじゃなかった?

森下 いえいえ(笑)。まったくそんなことないです。

江夏 いや、あなたが投げた試合はほとんど見たけど、自信がピッチングに表れていたもの。特に対ヤクルト、対阪神は共に3勝0敗という成績だった。相手5球団のバッターは当然、みんなプロとしての先輩ばかりだけど、そんな意識はほとんどなかっただろう?

森下 そうですね。そこはあまり考えていなくて、自分は絶対にインコースに投げないといけない、と思っているので。そこは割り切っています。

江夏 そうか。大学時代はどうだったの?

森下 大学のときは緩急をうまく使えていなかったのかな、と思います。

江夏 緩急か。

森下 真っすぐとカットボールを中心に投げていて、チェンジアップとかカーブをうまく使えずに、速い球ばかり投げて打たれていました。

江夏 でも、あなたの場合、逆球をひとつも見たことない。キャッチャーが外に構えたら、だいたいその近辺に行く。インコースもそうだよね。右バッターの懐を攻めても、だいたいその近辺に来ている。とんでもなく外れたボールなんて一球も見たことないよ。これは大学時代から?

森下 大学のときはそこまでではなかったです。

江夏 じゃあ、プロに入ってよくなったのか。コントロールというものは、投げ込みと、あとは自信だからね。その自信がついたのかな?

森下 自信がつきました。やっぱり一球でも失敗すると失点につながる、ということがオープン戦でわかったので、そこを意識して投げるようにしてシーズンに入ったのがよかったと思います。

■オープン戦で打たれて意識が変わった

江夏 オープン戦の成績はどうだったの?

森下 かなり打たれました。

江夏 真っすぐを打たれたのか、それとも変化球が甘く入って打たれたのか?

森下 真っすぐも変化球も打たれたイメージが強いです。

江夏 それは大学時代に経験したことのない打たれ方?

森下 そうですね。けっこう連打、連打、という感じで点を取られました。

江夏 そのへんであなた自身、考え方が変わった?

森下 変わりました。やっぱりキャッチャーと話すようになりましたし、試合経験を積んでいくなかで、考えることが多くなりました。一球の失敗が失点につながる、というイメージがしっかりできるようになったので、一球一球を大切にしようと心がけています。

江夏 一球の失敗という意味では、プロのバッターは大学時代と違う?

森下 全然、違いますね。

江夏 どのへんが違う? パワーか?

森下 パワーもそうですし、ボールの見極めもそうですし、厳しいところはファウルで逃げるというのもあって。

江夏 たまに、そういう技術を持ったバッターもいるよね。でも、なかには大ざっぱなバッターもいるだろ?

森下 はい(笑)。

江夏 大学のときにも経験していると思うけど、そういうバッターにあまり神経使うのも疲れるからな。

森下 そう思います。

江夏 だって、だいたい1試合に多いときで120球ぐらい投げて、一球一球に神経使ってるとかなり疲れるだろ?

森下 疲れます(笑)。

江夏 だよね(笑)。まして、プロ野球は1年間、試合をやるわけだよ。そのへんは大学時代と比べて、どう?

森下 やっぱり、しんどい日はありました。

江夏 中6日でもしんどい?

森下 夏場にしんどい時期はありましたね。

江夏 そんな、まだ若いのに、中6日も休んでしんどいか。何日休めばいいんだ?

森下 いや、中6日で(笑)。

江夏 ハッハッハ(笑)。われわれのときは、先発はみんな中3日、中4日で投げさせられていたけど、今はピッチャーを大事にする時代だからね。その点、あなたは疲れを取るためにはどうしてる?

森下 1週間に1回の登板と決められているので、治療してくださるトレーナーさんに頼っていました。

江夏 信頼できるトレーナーが身近にいるのはいいことだね。肩、肘、腰、どこか故障はなかった?

森下 今年は何もなかったです。

江夏 今年は、ということは、以前にはどこか痛めた?

森下 大学1年のときに肘を骨折したことがあります。

江夏 それは投げすぎで?

森下 疲労骨折でした。

江夏 肩、肘を痛める原因は、ひとつは投げすぎ、ひとつは投げ方が悪い、そのどちらかだからね。でも、あなたの投げ方は決してバランスが悪くないから、原因は投げすぎ、疲労からくるものしか考えられない。そこはこれからも注意していかないと。なんといっても体が財産だからね。

森下 はい、これからも気をつけていきます。

江夏 今年はコロナの影響で開幕が遅れて、「選手たちはコンディションづくりが大変だった」という話をよく聞いたけど、あなたはどうだった?

森下 自分は初めてでしたので、気にせずにできました。

江夏 新人だから逆によかったわけか。あらためて、今年の10勝3敗という数字はどう? できすぎか、それとも、こんなもんか。

森下 2桁勝てたのはよかった、と思います。

■「バントは3回ほど失敗しました(笑)」

江夏 自分はあなたが9勝目を挙げたDeNA戦(10月24日)が印象に残ってる。投げては4安打1失点で完投、打っては8回2アウト二塁の場面であなた自身がヒットを打った。

森下 はい。それで勝ち越すことができました。

江夏 素晴らしいと思ったよ。あの場面で打つ、その気持ちがね。ピッチャーだって打つことも大事なんだし。で、もっともっと大事なのは、バントがしっかりできること。あなたはどう? バントはうまいのか?

森下 バントはちゃんと決めたほうだと思います。

江夏 公式戦で1回も失敗してないんか?

森下 あっ、失敗は3回ほどありました(笑)。

江夏 ハッハッハ(笑)。なんでもない作戦だけど、バントは簡単そうでプレッシャーがかかるよな。それをはねのけるのは練習以外ないわけだから、しっかり練習してほしい。自身の投球に関しては、ここはもっとイメージチェンジしてみたいな、というところはある?

森下 いえ、自分は今のままでいいと思っています。

江夏 それはもう大いにけっこう。あとは、精密度を高めていけばね。じゃあ、ここはもうちょっと直したい、ということはある?

森下 大事なところでフォアボールを出して、それで球数が増えてしまうので、しっかりストライク先行でやっていきたいな、と思っています。

江夏 要所で歩かせるのは痛いし、守ってるほうも不安に感じるしね。

森下 はい。直したいです。

江夏 今年のあなたの投球を見ていて若干、気になったのは初球の入り方。例えば、相手バッターを見て、最大限の速いボールを最初に見せるのか、後にとっておくのか。そのあたりにもう少し神経を使って、繊細になってもいいし、いい意味で大胆になってもいい。もうちょっと工夫するといいと思う。

森下 わかりました。

江夏 キャッチャーからのサインもあるけれど、初球でストライクを取りにいくか、ボールから入るかは、自分で判断すればいいんだから。相手バッターによってはボールで入ったほうがいいケースもあるからね。そういう判断、応用を絶えずマウンドでできるように、自分の頭をキュッと回転させる。それがあなたに中6日でできるかな?

森下 できます。

江夏 もうちょっと休養いるやろ?

森下 いえ、中6日で。

江夏 無理に頭を回転させたらしんどいし、頭にしこりが残るかもしれん(笑)。

森下 そうならないようにがんばります(笑)。

江夏 ハッハッハ(笑)。そこまで神経質になる必要はないけど、大胆か、繊細か、このへんの駆け引きだな。じゃあ最後に、来年の目標は?

森下 やはり、今年を上回る成績を残すことです。

江夏 今年よりも試合数が増える予定なんだから、上回らないとな。その点、また2桁勝つためにも、大事な肘に負担がかからないよう、下半身を鍛えてもらいたい。

森下 しっかりと鍛えていきたいと思います。

江夏 じゃあ、来年のキャンプでまた会いましょう。

森下 はい。今日はありがとうございました!

江夏 よっしゃ、ありがとう! がんばってな!

●森下暢仁(もりした・まさと)
1997年生まれ、大分県出身。大分商業高校から明治大学に進学し、大学ナンバーワン右腕として国際大会でも活躍。2019年ドラフトで単独1位指名を受け広島入団。20年、開幕カード3戦目に初登板初先発し7回無失点。6月28日の中日戦で初勝利を挙げ、8月14日の阪神戦では初完投初完封。今季成績は10勝3敗、規定投球回に到達しリーグ2位となる防御率1.91をマークした

●江夏豊(えなつ・ゆたか)
1948年生まれ、兵庫県尼崎市出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ

取材・文/髙橋安幸 撮影/五十嵐和博