久保建英について語った宮澤ミシェル氏
久保建英について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第186回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回も、宮澤ミシェルが注目する東京五輪世代のサッカー選手を紹介する特別編をお届け。第5回目に紹介するのは、若くして大きな期待を背負うMF久保建英。出場機会を求め、今冬にビジャレアルからヘタフェに移籍したが、宮澤ミシェルはその判断を「いい判断だと思う」と語った。

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この冬の移籍市場でビジャレアルからヘタフェに移籍したことで、久保建英は試合出場の機会も増えたから、流れが大きく変わっていくのを期待しているよ。

日本だけじゃなく、世界がそのポテンシャルを認めているのは間違いないんだ。ただ、いまはどうしたら開花させられるのかを、久保本人を含めてみんなが模索している状況だろうね。

そこの難しさは、久保の特性に理由があるように感じるよ。

彼の本当の良さっていうのは、ボールを受けたら一度味方にはたいて、動きながらもう一度ボールを受けるなかで、彼が持っているさまざまな武器を状況に応じて瞬時に使い分けるところにあると思うんだ。

だけど、高い技術力があって、圧倒的ではないにしろ普通に足は速くてドリブルで仕掛けていける選手だから、個の力で勝負するアタッカーだと思われちゃう。

それでビジャレアルのウナイ・エメリ監督のようにフィジカル面や守備面では課題を克服させれば成長すると考えるケースが生まれたんだと思う。

エメリ監督の考えも一理あるし、その前のマジョルカでもそういう起用をされて結果を出したのが久保なんだけど、突き詰めていけば久保はフィジカルの能力をベースにした個の力で勝負する選手ではないからね。持ち味でないことを成長させようとしたら時間がかかるのは当然だよな。

現代サッカーは攻守の切り替えが早くてインテンシティーの高さが求められるから、久保にはいい経験になったと思うよ。とは言っても、やっぱりレンタル移籍先を変えたのはいい判断だったと思うよ。

久保がいま、伸ばすべき能力は味方選手と信頼関係をいかに早くつくるかってこと。言い換えればパスを引き出す、まずはこれだよ。将来的にレアル・マドリードに復帰してバリバリやっていくためにも欠かせない能力だよ。

ここがクリアできれば、次はリターンパスをもらえるようにするになるんだけど、これはシュートを決めていけば自然とゴール前でボールは集まってくると思うよ。プロは結果がすべての世界だからさ。

今シーズンの前半戦は停滞感もあったけど、特長ではないことを求められるケースがあって、そこを乗り越えようとした努力は無駄にはならないと思うよ。ここから一気に飛躍する可能性はあるし、そうなってくれないと日本サッカーにとっては困っちゃうんだよ。

久保は日本代表にも招集されているけど、まだレギュラーではないし、交代カードで使われないこともある。代表で確固たる結果も出していないし、地位を築いたとはまだ言えない。

W杯での登録メンバー数は基本的にフィールドプレイヤー20人だから、1ポジションにつき2人ってこと。久保が来年冬にカタールで開催されるW杯に出ようとするなら、日本代表の右ウイングなら堂安律と伊藤純也、トップ下なら南野拓実と鎌田大地を上回らないといけないってこと。

2022年6月の誕生日で久保は21歳。前回W杯で優勝したフランス代表のエムバペは19歳だったけど、20歳前後でW杯でバリバリやるのは珍しいことじゃないからね。逆に言えば、久保が25歳での2026年がW杯初出場になった場合、その間に歩いたキャリアが心配になっちゃう気がするよな。

そうなってほしくないし、2022年のW杯のピッチに立ってもらうためにも、ここから今シーズン終了までの時間は、久保にとってすごく重要になってくるよ。

ヘタフェで試合に出るのは当たり前で、やっぱり攻撃の選手だから得点にはこだわってほしいね。久保のことだから、そこは理解しているだろうけどね。

日本人ではバルセロナの育成組織育ちの選手は久保しかいないけど、スペインリーグはもちろん、ヨーロッパ各国リーグにもバルセロナの育成出身の選手は数多くいるでしょ。見方を変えれば彼らはサッカー選手としてプロとしてはやっていけても、バルセロナでは通用しなかった選手ってこと。

久保はいまはレアル・マドリードにいるけれど、そこはそこで世界中のトップ選手がユニフォームを着たいと思っているクラブ。どれほど期待されて入団しても、開花をいつまで待ってもらえるわけではないし、結果を残せなければ、いつ放り出されても不思議はない厳しい世界。

そういう厳しくて険しい道のりの先に、世界最高峰のクラブでのプレーが待っている。世界中の誰もが憧れるけど、ほとんどのサッカー少年は歩めない道を進んでいる久保が、東京五輪世代にいる。それがもう奇跡だよな。

構成/津金壱郎 撮影/山本雷太