千葉ロッテマリーンズの「令和のドカベン」松川虎生と人気スポーツキャスターの中川絵美
千葉ロッテマリーンズの「令和のドカベン」松川虎生と人気スポーツキャスターの中川絵美

3月までは高校生。プロ入り数ヵ月で、今や安定感抜群のキャッチャーになった松川虎生(まつかわ・こう)。天才投手・佐々木朗希とバッテリーを組み、完全試合の立役者にもなった。

"令和のドカベン"が語る歴史的快挙の瞬間、日々の闘い、そして未来を人気スポーツキャスター・中川絵美里(なかがわ・えみり)が直撃した。

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■あの日、佐々木投手とは思いが一致していた

中川 松川捕手は、史上3人目となる高卒新人開幕捕手であり、去る4月10日の佐々木朗希投手による完全試合達成ではバッテリーを組まれていました。まずはあの偉業を捕手の立場で振り返っていただけますか?

松川 あのような完全試合を達成したときに、その場にキャッチャーとしていられたのは、誇りに思っています。

中川 完全試合ともなると、試合終了と同時にマウンドへキャッチャーが走っていって、ピッチャーと抱き合って喜ぶ姿を思い浮かべますが、松川捕手は佐々木投手と握手しただけで、非常に冷静に見えました。どういう感情でしたか?

松川 いや、めちゃくちゃうれしかったですよ。でも、優勝した瞬間みたいに、飛びつくっていう発想が思い浮かばなかっただけです(笑)。

中川 佐々木投手をリードする上では、やっぱり今は球数を意識するというか、そこが重要かと思います。

あの日は105球でしたよね。序盤からどんどんストライクを取っていくいいテンポだったので、途中から「これは完全試合できるかも」と逆算して始終大胆なリードをしたのか、それとも計算をせずに勝負にのめり込んだ結果だったのか、どちらだったんですか?

松川 逆算して、という考え方はなかったですね。相手のバッターひとりひとりと勝負していくのがキャッチャーとしては大事なことだと思ってましたし、あの状況ではシンプルに勝負しにいくというのが僕の中でも、朗希さんの中でもしっくりきていましたので。

中川 では、終盤も特段意識せずにリードしていたと。

松川 9回に入ると、さすがにそこはうっすらと完全試合になるかもとは思い始めていましたが、それまでは特に意識していなかったですね。

中川 あの完全試合は大きな学びになりましたか?

松川 はい、ひとりずつ勝負していくなかで、3ボールになった場面もありましたけど、そこでもなんとか粘れましたので。そういう局面でのピッチャーとのコミュニケーションという部分でも、すごく勉強になりました。

中川 5月13日のオリックス戦は、佐々木投手にとってオリックスとの今季3度目の対戦で、勝ってその時点でハーラートップタイの4勝目に導きました。バッテリーの絆(きずな)も深まっていますか?

松川 結果がいいときもあれば、悪いときもありますけど、やっぱりそこはキャッチャーとしての意識づけが大事だと思うんです。そういった部分をもっともっと磨いていきたいです。

■プロの洗礼を受けて日々研究していること

中川 ついこの前まで高校生、そして今はプロ1年目ながら堂々たる活躍ぶりです。開幕して2ヵ月ですが、コンディションのほうはいかがですか?

松川 今までこうして毎日試合をするという機会がなかったので、開幕時に比べたら体の疲労はまったくないわけではないです。でも、こうして1軍にいる限りは、疲労がどうのとは言っていられないですしね。疲労がたまっているときでもそこは切り替えて、試合ごとに最大限、力を発揮したいです。

中川 疲労が蓄積した状態での気持ちの切り替えは、どのようにしていますか?

松川 試合でうまくいかなかったときは、もちろんその日は反省しますけど、次の日まで引っ張らないようにしてます。その日はその日、明日は明日というように。

中川 ご自身では、プロ入り1年目でここまで活躍するとは想像できていましたか?

松川 正直、ここまでとは想像してなかったです。でも、キャンプに入る際、「今年はこうしたい」っていう目標は立てていました。シーズンを過ごしていくなかで課題はたくさんありますけど、ひとつずつクリアすることで上っていきたいです。

春のキャンプ時に立てた目標「開幕1軍」を見事に実現。高卒新人捕手の開幕スタメンは、1955年の谷本 稔(大映)と2006年の炭谷銀仁朗(西武)に次ぐプロ野球史上3人目の快挙
春のキャンプ時に立てた目標「開幕1軍」を見事に実現。高卒新人捕手の開幕スタメンは、1955年の谷本 稔(大映)と2006年の炭谷銀仁朗(西武)に次ぐプロ野球史上3人目の快挙

中川 キャンプ時に立てた目標とは具体的になんでしたか?

松川 まずは開幕1軍入りでした。それが一番でしたね。達成できた今は、また次の目標に向かっていくだけです。

中川 プロに入って、やっぱり今までとはまるっきり違いますか? 毎日続く試合もさることながら。

松川 はい、当たり前の話ですけど、テレビで見ていたプロ野球とは全然違いますね。ベンチにいるとき、実際に試合に出ているときも、圧倒的な差を感じます。

中川 プロ入りして一番衝撃を受けたのはどんなことですか?

松川 配球や、相手バッターへの洞察力を磨かなければいけないことですね。ピッチャーをうまくリードする点でも、まだまだ自分の足りなさ、プロの厳しさを感じます。

中川 アマチュア時代のような、シーズンごとにトーナメントで戦うシステムとは違って、プロは短期間で同じ相手と何度も戦いますよね。やはり配球面で難しさは感じますか?

松川 そうですね、一度はその相手チームを抑えることができたとしても、また次のカードで同じメンバーだとして、同じ配球で通用するわけがないですしね。当然、相手も相応の対策は講じてくるわけですから。

試合中にバッターを見る時間が増えることで配球もいろいろと変える、考えることができますから、とにかく一試合一試合が学びだと思って、洞察力を向上させたいです。

中川 配球面で心がけていることはなんですか?

松川 ピッチャーのいい部分を引き出すこと、これを僕の中では一番大事にしています。

中川 引き出すための実践法とは、具体的には?

松川 試合中のテンポに気をつけること、そしてコミュニケーションですね。

中川 そのコミュニケーションですが、プロとなると、高校時代の先輩後輩と違って年齢の幅も広いですよね。松川捕手は一番年下ですから、どうやって図っているのかなと。

松川 基本的に、僕からというよりはピッチャーを主体にして、どういうボールを投げたいのか、受け止める感じです。僕も試合の入り方ですとか、思ったことは話すようにしていますけど。

中川 年上やベテラン相手でも、そこは変に萎縮せずにやりとりができているということですね。

松川 ええ、特に試合中は「伝え方」を考えた上でコミュニケーションを取っていますので、今のところはちゃんとできていると思います。

中川 もうひとつ、松川捕手は「打てる捕手」を目指したいとのことですが、バッティングの面で感じるプロの違いやプロの投手の印象についてお聞きしたいです。

松川 150キロ前後の球を投げるピッチャーがそもそも多いですから、まずは〝真っすぐ〟をはじき返さないと意味がないと思って日々取り組んでます。

それと、バッティングはタイミングがすごく大事なんだと、あらためて感じています。ピッチャーによってタイミングの取り方もさまざまです。それに変化球のキレも多種多様ですしね。それらに対処してしっかり打てるように、動画も見たりして毎日研究しています。

■幼なじみの小園健太に贈ったプレゼント

中川 松川捕手のルーツをたどってみようと思います。私は松川捕手のキャッチングが大好きで。球を捕りにいくというより、吸い込まれるような感じでミットに収まりますよね。それを見るだけでご飯3杯いけるくらいです(笑)。こだわりは相当ですか?

松川 ご飯3杯(笑)。ありがとうございます。そうですね、低めのボールをいかにストライクに見せるかだとか、そういった細かい部分でのこだわりはあります。

中川 中学生になり「貝塚ヤング」に入団した際は、自らキャッチャーを志願されたそうですが。

松川 そうです。キャッチャーというのは、ナインのなかでひとりだけ違う方向を向いてますよね。それに、毎球毎球、ボールに触れられる。そこに魅力を感じたんです。

中川 野球に対しての本格的な意識が芽生えたのはいつ頃からですか?

松川 (市立和歌山)高校時代ですね。野球への取り組み方、考え方が自分の中で大きく変化したのがきっかけでした。

中川 それはどのような?

松川 中学時代までは、チームプレーに徹する意識が芽生えてなくて、どちらかというと自分の結果にとらわれがちだったんです。

でも、高校野球になって、甲子園という大きな目標に向かうとなると、僕ひとりだけではどうにもできなかった。それで、周りを見る視野の広さを養うことが必要だと半田先生(真一、野球部監督)に教えていただきまして。

3年生のときにはキャプテンを務めるようになりましたので、プレーはもちろんのこと、コミュニケーションの取り方についても自分なりに考えるようになりました。

中川 普通、高校生でそういう意識はなかなか生まれないと思うんですよ。半田先生の助言のほかに、何か参考にしたものはありますか?

松川 いや、チームメイトひとりひとりと接するなかで学んでいきました。当たり前ですけど、人それぞれに特徴があって、出てくる言葉も態度も千差万別じゃないですか。私生活からコツコツとやりとりを蓄積した感じです。

中川 チームメイトといえば、松川捕手を語る上で欠かせないのが中高でバッテリーを組んできた小園健太投手(横浜DeNA)です。長年の付き合いで受けた影響も大きいのでは。

松川 そうですね。高校時代にああいう素晴らしいピッチャーとバッテリーを組めたのは、財産です。それに、負けたときにふたりでじっくり話し合った時間も今に生きていますね。

中川 ちなみに今でも連絡は取り合うんですか? 試合見たよ、とか。

松川 僕のプレーを見てるかどうかはわからないですけど(笑)、連絡はちょくちょく取り合ってますね。

中川 最近も?

松川 はい、健太の誕生日が4月だったので、プレゼント贈ったよっていう。

中川 おお、何を贈ったんですか?

松川 スニーカーですね。

中川 親友の好みは百も承知というわけですね。

松川 いや、それが、徳山(壮磨投手・横浜DeNA)さんが先にスニーカーを健太にプレゼントしていて。若干、焦りましたね(笑)。どんカブりしてたらどうしよう、危ないなって。幸い、カブってなかったのでよかったです。

■白井球審に注意された場面は

中川 ここまでお話しさせていただいて強く感じたのは、松川捕手の落ち着きぶりです。ナーバスになったり、緊張するというのはあまりないタイプですか? 

松川 試合前はめっちゃ緊張しますよ。でも、いざ試合が始まると、プレーに集中するので、緊張はどこかに行きますね。

中川 開幕前夜は全然眠れないという話をプロの選手からよく聞きますが、松川捕手の場合はいかがでしたか?

松川 寝られない、というのはなかったですね。むしろ、よし明日はやってやるぞという気持ちのほうが強かったです。

中川 その落ち着きぶりと並んで印象的なのが、丁寧な接し方です。松川捕手といえばコミュニケーション能力の高さを称賛する声が多いですが、納得しました。その原点となった座右の銘はありますか?

松川 「貝塚ヤング」の川端末吉監督からいただいた言葉ですね。「誰からも愛される選手になれ」と。今でも、すごく心に残ってます。この言葉を大事にして、毎日過ごしています。

中川 すてきですね。愛される選手になるために意識されていることはありますか?

松川 プロ野球選手としてはもちろん、私生活でも、人と接していくなかでコミュニケーションを丁寧に取るということを心がけています。まだまだですけどね。でも少しずつ、川端監督の言葉に近づいているのかなという気もします。

中川 そういう心がけが、プレー中の所作に表れていますよね。ハーフスイングを塁審にアピールする動作が、(一般的なくるくる指を回すのではなく)、手のひらを上に向けているところもすごく丁寧に見えるし、それからその話を聞いて有言実行だと思ったのは、4月24日のオリックス戦です。

佐々木投手のもとに白井一行球審が詰め寄ろうとした場面で、すっとふたりの間に入ったじゃないですか。あれは穏便に収めるためのとっさの判断だったんですか?

松川 そうですね、体がとっさに動いたというか、そういう気持ちがあったんだと思います。

中川 やはり、ピッチャーに気持ちよく投げてもらいたいという考えが根底にあるのかなと。

松川 はい、そういう部分はあったかなと思います。

中川 最後に、これからの目標について教えてください。

松川 やっぱり、「打てる捕手」というのが僕の大きな目標です。それ以上に、チームの一員として信頼されることが最も大切なことだと思っています。一日一日を無駄にすることなく、まだまだシーズンは長いですから、着実に勝利に貢献したいです。

●松川虎生(まつかわ・こう) 
2003年10月20日生まれ、大阪府出身。中学3年、「貝塚ヤング」在籍時に小園健太(現・横浜DeNA投手)とのバッテリーで全国制覇を達成。共に市立和歌山高校へ進む。遠投100m、二塁送球タイム1.8秒台という捕手としての能力もさることながら、高校通算43本塁打という打力も強み。21年、ドラフト1位で千葉ロッテに入団。次世代ナンバーワン捕手として期待がかかる

●中川絵美里(なかがわ・えみり) 
1995年3月17日生まれ、静岡県出身。フリーキャスター。昨年まで『Jリーグタイム』(NHK BS1)のキャスターを務めたほか、TOKYO FM『THE TRAD』の毎週水、木曜のアシスタント、同『DIG GIG TOKYO!』(毎週木曜27:30〜)のパーソナリティを担当。テレビ東京『ゴルフのキズナ』(毎週日曜10:30〜)に出演中

スタイリング/武久真理江 ヘア&メイク/石岡悠希 衣装協力/LENZ MIKU FUKAMITSU

取材/中川絵美里 撮影/熊谷 貫 文・構成/高橋史門 写真提供/千葉ロッテマリーンズ