長谷部誠について語った宮澤ミシェル
長谷部誠について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第259回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、長谷部誠について。昨シーズンはフランクフルトのメンバーとしてELリーグを制覇。新シーズンを38歳で迎える長谷部誠を、「誰もが憧れる理想像のひとつ」だと宮澤ミシェルは語った。

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長谷部誠の現役プレイヤーとしてのラストシーズンになるかもしれない1年が、いよいよ始まるよ。

ブンデスリーガの2022−2023シーズンは8月5日に開幕するけれど、長谷部誠のいるフランクフルトは10連覇中のバイエルン・ミュンヘンをホームに迎えることになった。初っぱなから楽しみだよな。

ここ数シーズンの長谷部は、監督が変わるたびにシーズン当初はベンチを温めることになっていたんだけど、チームがうまくいかなくて出番を得て、守備陣をビシッと立て直して存在感を高めてきたよね。

それが今シーズンは、昨年5月に就任したオリバー・グラスナー監督が継続する。リーグ戦は11位といまひとつだったけど、ELリーグを制覇したのが大きかったよな。

長谷部にとってもいいことだと思うんだよ。現役最後になるかもしれないシーズンを、『サッカーは年齢とは関係ない』ことを証明済みの監督とシーズンの最初からやれるわけだからさ。これがまた新しい監督でとなっていたら、長谷部にとってもシンドイのは間違いないからね。

長谷部はスピードや体力面だけではない部分でピッチ上で存在感を示してきた。でも、ベテランのそういう力を、新監督は把握しがたいものなんだよ。若くて、スピードがあって、高くて強い。そういう選手を使ったほうが、守備は引き締まるような気になるからね。

でも、フィジカル能力や個人技のうまさでの序列だけでは測れない能力があることを、長谷部は証明している。もちろん、長谷部だってフィジカルも強いし、個人技もうまいんだけどさ。ただ、年齢面にとらわれると、監督というのは衰えを懸念したくなる。その気持も理解できるけどね。

新シーズンを38歳で迎える長谷部は、日本代表では長くボランチに君臨し、いまはフランクフルトで最終ラインを統率しているけれど、若い頃はトップ下の攻撃的な選手だったんだよ。高卒ルーキーだった1年目は、線が細くて出番はなかなか来なかったけど、いつもトップチームに帯同していて、将来を期待されているのがはた目にも伝わってきた。

そこから順調にステップアップして、浦和では欠かせない選手になった。そして日本代表に定着する前にブンデスリーガに渡って、個を高めてきた。厳しい環境のなかでストイックにサッカーと向き合いながら、選手として、人間としての価値を高めて、ドイツという異文化のなかでも認められるまでになった。

本当、すごい男だよな。誰もが憧れる理想像のひとつだけど、なかなか到達できないよな。しかも、何がすごいって、現役引退後にコーチとしてチームに残る契約を交わすくらいリスペクトされているってこと。

日本に置き換えたら、そのすごさはわかりやすい気がするよ。もちろん、クラブ側にフランクフルトのように深くて大きい度量があるかは別にしなきゃいけないけど、Jリーグのクラブが長年チームに貢献した外国人選手に指導者としての手形を出すかと言ったら、なかなか想像できないよな。それを長谷部は手にするわけだからさ。

まあ、長谷部の契約について正しく言えば、2027年夏までフランクフルトと契約したのであって、今季限りで引退が決まっているわけではないんだよな。いつ引退するかは決まっていないけれど、引退後もコーチとして2027年夏までフランクフルトにいるっていうものなんだよ。

たださ、2027年夏で長谷部は43歳。さすがにそこまで現役を続けているとは考えられないし、それが可能だった場合にはフランクフルトが心配になっちゃう(笑)。でも、2023年夏で39歳、2024年夏で40歳だから、そこらあたりまでは現役を続ける可能性は考えられるよな。

悩ましいところだよな。1日でも長く現役は続けてもらいたい思いはあるけれど、海外トップリーグで初めての日本人監督という姿を考えたときには、少しでも早く指導者としての道に入ってもらいたい気もする。

もちろん、指導者になるからといって、ブンデスリーガで監督になれる保証はどこにもない。でも、ブンデスリーガのクラブが、日本人選手の引退後にコーチ手形を出すなんてのは滅多にないことだからさ。やっぱり期待しちゃうわけですよ。

日本選手が海外リーグに挑戦するのが当たり前になっているけれど、長谷部が挑んでいるのはそのさらに先のステージだからね。ヨーロッパのトップリーグで監督になれる人材は、いまのところ長谷部以外に日本にはいない。でも、長谷部が成功したら、そこを目指す人も増えると思うんだよ。そうなれば日本人監督のレベルもグンと高まっていく。そこを想像すると楽しみしかないんだよな。

ただ、やっぱり現役選手というのは限られた時間しか与えられていないものだからね。故障が原因で引退した私としては、長谷部にケガなく、現役に未練を残すことなくやり切ってもらいたい。

そのうえで次のステージに進んでほしい。だから、まずは最後になるかもしれない2022−2023シーズンの『選手』としての長谷部を、しっかり目に焼き付けていきますよ!

構成/津金壱郎 撮影/山本雷太