ヴィッセル神戸について語った宮澤ミシェル
ヴィッセル神戸について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第274回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、ヴィッセル神戸について。今シーズンの秋口までは降格圏に身を置いてしまっていた神戸が、シーズン終盤に巻き返せた理由とは? 宮澤ミシェルが神戸の今シーズンを振り返る。

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横浜F.マリノスが今シーズンの最終節でJ1優勝を決めた。おめでとう! 3シーズンぶり5回目のタイトル奪取には産みの苦しみがあったけれど、最後の最後にタイトルを掲げることができたのは、来シーズン以降を見据えたときに、彼らにとっては貴重な経験にもなったんじゃないか。

川崎フロンターレは、2連覇中の王者としての意地を見せてくれたよな。ケガ人が続出しながらも最後まで諦めることはなかった。それが最終節のFC東京戦でも表れていたよな。退場者をひとり出して10人で戦いながらも、打ち合いを制して勝利したあたりは、さすが川崎Fだって唸らせてくれたよ。

それにしても、シーズン最後まで優勝争いも残留争いももつれるのが、やっぱりJ1リーグらしさだよな。それだけ実力の差が小さいわけなんだけど、そのリーグを戦う難しさがよく表れていたのが、ヴィッセル神戸だったね。

昨季のリーグ戦で3位になって、さらなる躍進が期待されて今季がスタートしたけれど、最初のスタートダッシュでつまずいたことが、その後の迷走を招いてしまったよな。目先の結果を追うことは大事だけど、そればかりになってしまって、この数年間で蓄積されたものがないように感じるのも神戸なんだけど、そうした悪い面が出ちゃった気がするね。

個人的には三浦淳寛監督を、もっと引っ張ってよかったんじゃないかと思うよ。シーズン序盤でエンジンがかからないことなんてあるわけだからさ。それなのに開幕から約1ヵ月くらいで解任して、しかも後任人事も準備不足だったでしょ。結局は、そこで後手を踏んだことが最後まで響いた。

暫定監督をつとめたリュイス・プラナグマ、その次に就いたミゲル・アンヘル・ロティーナ監督、そして2019シーズン以来3度目の登板となった吉田孝行監督。1シーズンに指揮官が4人もつとめるなんてのは異例だったよ。

来季は吉田監督が続投するようだけど、シーズン終盤の戦績を見たら妥当な判断だよな。リーグ戦ラスト2試合は、川崎フロンターレ、横浜F.マリノスとの対戦で、優勝がかかっていた相手に最終的には負けたけれど、内容そのものは悪くはなかった。

選手個々の力量を考えればベストではないだろうけれど、秋口まで降格圏に身を置いたチームとしては、よくぞ巻き返したっていう印象だった。まあ、地力を考えたら、神戸が優勝争いをしていても不思議はないわけだから。

それだけに来季は吉田監督のもとで、どういうスタートを切るかは気になるよな。今季の吉田監督にとって采配に大きく影響したのは、就任したタイミングでイニエスタが故障したこと。

シーズン途中の就任でチームを立て直そうとするときは、戦術を浸透させる時間がないから、堅守速攻の戦いをするケースが多いんだ。ただ、神戸の場合はイニエスタへの配慮もあって、その戦術をとるのはなかなか難しいはずだと思うんだよね。だけど、吉田監督の就任するタイミングでイニエスタの故障があった。これによって守備強度の低いイニエスタをスタメン起用できなくなったのは、チームを立て直すという側面だけで見れば、プラスに作用したと言えるんじゃないかな。

守備を安定させつつ、前線の選手の個の力に頼る戦い方をベースにすることができた。もともと能力の高い選手は揃っているし、シーズン途中に大きな補強に動ける資金力もあるわけだから、シンプルな戦い方を敷いたことでチームのよさが出せるようになって、5連勝もできた。

でも、来季はイニエスタが契約最終年だからね。吉田監督のもとで今季と同じような戦い方をするのは難しいよな。だって、そのスタイルはイニエスタが活きるサッカーではないからね。それに、イニエスタと一緒にプレーしたいと思って神戸に集まってきた日本選手だって、イニエスタと堅守速攻のサッカーをしたいわけじゃないと思うんだよ。

やっぱり、ボールをつないで相手を崩していくサッカーを、イニエスタとやりたいと思っているはずだからね。シンプルに戦えれば大崩れはしないけれど、それができない難しさがあって、そうした理想と現実の狭間に置かれるのが、神戸の監督の難しさなんだよな。

降格圏にいるときは、理想はひとまず後回しにして、「まず残留」という目標をチーム全員で共有できた。だけど、シーズンが変われば話は別だからな。そこを、吉田監督がどう折り合いをつけてチームとしてまとめていくのか注目しているよ。

さすが、世界的な知名度を誇る神戸だけあってさ、海外メディアなどでは大物外国選手の名前が、神戸の来季に向けて獲得候補になっていると伝えられているよな。でも、話半分というか、1/4くらいで受け流しておいたほうがいいよ(笑)。

ビッグネームを獲ってくれたほうが、話題になるのは間違いないよ。でも、単に大物外国選手がチームに加わるだけなら、話題性は一瞬だからね。それよりも、大物はイニエスタだけでいいから、しっかり優勝争いを演じてほしいね。そのほうが話題性は継続されるし、シーズンを振り返ったときにインパクトは大きくなるわけだからさ。現役最後のシーズンになるかもしれないのなら、やっぱりイニエスタのプレーは、優勝争いしている中で見たいよな。来季はしっかり巻き返してくれることを期待したいですね。

構成/津金壱郎 撮影/山本雷太