チームインパルのタイトル獲得はスーパーGTの前身となる全日本GT選手権の95年以来、27年ぶりとなる。写真/GTA
チームインパルのタイトル獲得はスーパーGTの前身となる全日本GT選手権の95年以来、27年ぶりとなる。写真/GTA

国内外の自動車メーカーが自社を代表するスポーツカーをベースとしたレーシングカーを投入し、激戦を繰り広げるスーパーGTの最終戦が11月5日と6日、栃木県のモビリティリゾートもてぎで行なわれた。

GT500クラスはトヨタ、ホンダ、ニッサンの3メーカーが参戦し、トヨタはGRスープラ、ホンダはNSXのタイプS、ニッサンは今年販売が開始された新型フェアレディZをベースにしたマシンを投入し、決勝は山本尚貴選手と牧野任祐選手がドライブするチームクニミツのSTANLEY NSX-GTがポール・トゥ・ウィンで今季初勝利を挙げた。

2位にはチームインパルのカルソニックIMPUL Z(平峰一貴選手/ベルトラン・バゲッド選手)が入り、シリーズタイトルを獲得。75歳になった星野一義監督が率いるチームインパルにとっては、実に27年ぶりの栄冠となった。

■後半戦で光る走りを見せた平峰選手

最終戦のもてぎを前に、タイトル獲得の可能性があるのは計算上6チームあったが、実質的にはランキング上位の3チームに絞られていた。ランキング首位は今季2勝を挙げる千代勝正選手と高星明誠選手のNDDPレーシング(58点)、2位がチームインパル(55.5点)で、ニッサン勢が上位を占めた。ランキング3位にはホンダの塚越広大選手と松下信治選手がコンビを組むAstemo REAL RACINGがつけ、逆転王座を狙っている状況だった。

予選は上位のニッサン勢とホンダで明暗が分かれた。チームインパルが3番手、ポイントリーダーのNDDPレーシングは4番手という好位置につけたが、Astemo REAL RACINGは10番手と後方に沈んだ。タイトル争いはフェアレディZの2台によるマッチレースになると思われたが、決勝は波乱の幕開けとなった。

オープニングラップでランキング首位のNDDPレーシングが、コーナーの進入でブレーキをロックさせ、横に並んだホンダ陣営の1台に接触しコース外に弾き出してしまう。それを受けてドライブスルーペナルティが科され、NDDPレーシングが大きく順位を下げる。またその直後には多重クラッシュも発生し、セイフティカー(SC)がコースインするという序盤は、荒れたレース展開となる。

21周目にレースが再開されると、3位を走行するチームインパルの背後に、クラッシュの混乱をうまく避けたAstemo REAL RACINGのNSXが急浮上。タイトルを争うバゲット選手のフェアレディZと松下選手のNSXは、抜きつ抜かれつの好バトルを演じる。

それでもバゲット選手は、ポジションを死守しながら24周目に最初のピットイン。翌周には松下選手もピットロードに入っていく。上位勢が全車、ピットストップを終えると、ポールスタートのチームクニミツの山本選手がトップ、2位はチームインパルの平峰選手、3位はTGR TEAM ENEOS ROOKIEの山下健太選手、4位がAstemo REAL RACINGの塚越選手、5位には後方から猛追してきたNDDPレーシングの高星選手というオーダーとなっていた。

前半戦から一転、静かな緊張感が漂う中で進んでいった後半戦で、光る走りを見せたのがチームインパルの平峰選手だ。自身初のタイトル獲得を目前にして大きなプレッシャーがかかる中、ミスなく安定したペースで40周を走り切り、2位でフィニッシュ。チームインパルに27年ぶりのタイトルをもたらした。

27年ぶりのタイトル獲得を喜ぶ星野監督(中央)。36歳のベルギー人、バゲット選手(左)と30歳の平峰選手(右)はスーパーGTでの初タイトルとなる。写真/GTA
27年ぶりのタイトル獲得を喜ぶ星野監督(中央)。36歳のベルギー人、バゲット選手(左)と30歳の平峰選手(右)はスーパーGTでの初タイトルとなる。写真/GTA

■「こんなにいいドライバーだと思わなかった」

レース後、平峰選手が涙を流しながらバゲット選手や星野監督と抱き合う姿は感動的だった。マシンを降りた平峰選手は目を潤ませながら、こう語っていた。

「レースは本当にプレッシャーでキツかった。今年インパルで走って3年目で絶対にチャンピオンを取りたいと思って自分なりに努力を重ねてきました。ここに来るまで、最後は自分でも胃に穴があくのかと思うぐらい苦しかったですが、スーパーGTのチャンピオンを取ることができました」

安堵の表情を浮かべていた星野監督は、「平峰選手は本当に粘り強い走りをしてくれた。根性があるし、彼は日本一の頑張り屋です」とその成長をたたえる。加えて、開幕前にホンダからニッサンに移籍し、チームインパルに加入したバゲット選手の存在も大きかったと話していた。

「バゲット選手は本当にいい選手で、走れば走るほどよくなっていった。正直、最初はこんなにいいドライバーだと思わなかった。バゲットにはすごく感謝している」

当のバゲット選手は満面の笑みを浮かべて、こう話していた。

「マシン、チームメイト、チームとスタッフ、すべてが新しくなるなかで、最初は慣れることが大事でした。シーズン中は苦戦することもありましたが、中盤戦以降はマシンのポテンシャルを引き出すことができ、日本に来て9年目で目標だったスーパーGTのタイトルを獲得できました。この数年間はコロナの影響で、ベルギーに暮らす妻とふたりの子供のもとになかなか帰れず、家族に苦労をかけながら戦っていた。でも、やっと家族にスーパーGTのチャンピオンになったと伝えられます」

■好不調の波が大きかったホンダ

一方、ホンダ陣営はチームクニミツが優勝を飾ったものの、実質的にタイトルを争っていたAstemo REAL RACINGは後半にペースが上がらず5位でゴール。頂点には手が届かなかった。塚越選手はレース後、「力不足でした」と語り、悔しい表情を浮かべていた。

「今回はセットアップをコースにうまく合わせることができず、僕たちのマシンはペースがなかった。それに尽きます。今シーズンのフェアレディZはすごく速かった。昨年までのGT-Rよりも空力性能が向上し、ストレートもコーナーも速く、どのサーキットでも安定して強いクルマでした。逆にホンダ勢は好不調の波が大きかった。そこが僕たちの今後の改善ポイントだと思います」

ニッサン陣営は、新型フェアレディZを投入した初年度に全8戦のうち3勝を挙げ、2015年以来となる7年ぶりのタイトルを獲得。フェアレディZの速さをアピールすることに成功した。そして、レース翌日からモビリティリゾートもてぎでは23年に向けたテストが行なわれ、各チームは新しいシーズンに向けて動き始めている。

来季はタイトルを防衛する側に回る星野監督も、「チャンピオンになれたのはうれしいですが、すでに来年のことに頭は向いています。今年は若いスタッフたちが本当にいい仕事をしてくれましたが、僕もまだまだ頑張って、チームをさらに強くしたい!」と語り、新たな闘志を燃やしていた。23年シーズンのスーパーGTも、これまで以上に白熱したバトルが期待できそうだ。

ニッサン陣営としては唯一残念なのは、せっかくスーパーGTでタイトルを獲得したZを販売促進のプロモーションに使えないことだろう。市販車のフェアレディZはあまりの人気ぶりに受注停止となっており、再開の目途はたっていない。写真/GTA
ニッサン陣営としては唯一残念なのは、せっかくスーパーGTでタイトルを獲得したZを販売促進のプロモーションに使えないことだろう。市販車のフェアレディZはあまりの人気ぶりに受注停止となっており、再開の目途はたっていない。写真/GTA

取材・文/川原田 剛