今年10月のオールブラックス戦でトライを挙げ、雄たけびを上げる姫野。ケガからの復活をアピールした
今年10月のオールブラックス戦でトライを挙げ、雄たけびを上げる姫野。ケガからの復活をアピールした

ワールドカップ(W杯)まであと10ヵ月! といってもサッカーではなくラグビーの話だ。

2019年のW杯で初めてベスト8に進出したラグビー日本代表は、10〜11月にかけて〝オールブラックス〟ことニュージーランド(NZ)、イングランド、フランスといった世界の強豪と対戦し、来年のフランスW杯に向けて強化を進めた。

そこで人一倍元気だったのが、元主将でFW最年長(34歳)のFLリーチ マイケル。来年のW杯に出場すれば4回目の出場となるベテランは、19年春に股関節を負傷。それからは常に満身創痍(まんしんそうい)の状態で、同年11月にW杯が終わった後、股関節、両足首、両耳と手術を繰り返した。

しかし今回のオールブラックス戦では、リーチがふたりいるかのようにラン、タックルで走り回り、スタジアムにはおなじみの「リーチ!」コールがこだました。

本人の「8月末に検査したら股関節は完璧に治った。だから自信を持ってできている。ボールタッチを増やしていきたい」という言葉どおりのプレーだった。

「次のW杯が最後?」と聞くと、「最後とは言わない!」とキッパリ。もしかしたらリーチは来年だけでなく、27年のW杯でもジャパンを支えているかもしれない。

さらに、頼もしい選手が帰ってきた。19年W杯で、タックル後に相手からボールを奪う「ジャッカル」で一躍有名になったNo8・姫野和樹(28歳)だ。

「ラグビーを日本の文化に」という熱い気持ちを持つ姫野は、21年にNZのハイランダーズに挑戦。11試合に出場して新人賞を受賞するなど、ひと回り成長した。だが、昨季のリーグ戦で左太ももを負傷し、今春の代表活動には参加できず。10月の強化試合で復帰したものの、決して本調子ではなかった。

それでも、自身初となる国立競技場での試合となった10月のオールブラックス戦では持ち味を発揮。「NZでプレーしたからこそレベルもわかっていました。リスペクトしていますが、恐れることもない。むしろ『かましたろ!』という気持ちでした」と振り返ったように、代名詞であるジャッカルを決めるだけでなく、トライも挙げて「感覚が戻ってきた。完全復調です!」と力強く語った。

今秋はそのふたりだけでなく、ケガなどで日本代表を離れていたSH流大(ながれゆたか)、CTB中村亮土、WTB松島幸太朗も復帰。19年W杯組は引き続きチームの中軸だ。

SOの新戦力、21歳の李と28歳の山沢(左から2人目と3人目)。ケガで離脱中の19年W杯組、松田と司令塔争いへ
SOの新戦力、21歳の李と28歳の山沢(左から2人目と3人目)。ケガで離脱中の19年W杯組、松田と司令塔争いへ

新戦力の台頭も見逃せない。ケガのSO松田力也に代わって10番を争うのが、昨季、埼玉ワイルドナイツを優勝に導いた28歳の〝ファンタジスタ〟山沢拓也と、伸び盛りの21歳、李 承信(リ・スンシン)だ。

山沢は視野の広さとランに長(た)けており、中学までサッカーをやっていたためキックも得意な司令塔。10年前には高校生ながら、日本代表を率いていたエディー・ジョーンズHC(当時)に見いだされて代表合宿にも参加した。

その後、17年はアジア勢と戦う日本代表に選出。19年にはサンウルブズにも参加したが、ケガも重なって世界の強豪との試合では出場機会を得られなかった。

しかし、「自分らしくプレーする」と努力を重ね、再びチャンスをつかむ。10月のオールブラックス戦で先発すると、得意のドリブルからトライも挙げ、10番争いに名乗りを上げた。

もうひとりの李は、大阪朝鮮高時代、2年連続で高校日本代表に選出されるなど将来を嘱望された逸材だった。ランで仕掛けるタイプの司令塔で、帝京大学では1年からレギュラー格として活躍。U20日本代表でも共同キャプテンを務めた。

大学を2年で中退し、NZでのプレーを模索したが、コロナ禍のため断念。地元のコベルコ神戸スティーラーズに加入した。2年目の昨季は、チームの中軸として13試合に出場。その活躍が認められ、今春初めて日本代表に選出された。

コロナ禍の影響もあり、7月のフランス戦で出場のチャンスが回ってきた。そこで堂々としたプレーを見せた。「絶対、W杯メンバーに選ばれたい!」と語気を強める若き司令塔は、今秋も試合出場を重ねて自信を深めた。

日本代表のジェイミー・ジョセフHCは「ふたりともいい選手で、信頼を寄せている」とコメント。松田を含めたSO争いは今後も続いていく。

さらにFW、BKにも成長株がいる。ひとり目は身長202㎝、20歳の若きLOワーナー・ディアンズ。父がトップリーグのストレングス&コンディショニングコーチを務めていた関係で、中学校2年時にNZから来日。流通経済大付属柏高から東芝ブレイブルーパス東京に加入し、昨年11月、代表デビューを飾った。

リーグワン、日本代表で経験を積み、「小さい頃から憧れていた」というオールブラックス戦ではトライを挙げて喜びを爆発。「世界一のLOになる」と公言するディアンズは、日本代表のFWを長く支える選手になりそうだ。

10月からの数試合で躍動したCTBのライリー(中央)。昨季のリーグワンのトライ王は、世界が注目する選手になった
10月からの数試合で躍動したCTBのライリー(中央)。昨季のリーグワンのトライ王は、世界が注目する選手になった

もうひとりは南アフリカ生まれで、家族と共に11歳でオーストラリアに移住し、ラグビーを始めたCTBディラン・ライリー(25歳)だ。

オーストラリア時代は、現地のスーパーラグビーチームと契約できず、18年にワイルドナイツに加入。各国代表選手と一緒にプレーして研鑽(けんさん)を積んだ。20年からチームの中心となり、昨秋に日本代表デビューを飾っている。

スピードと突破力を兼ね備え、タックルも強く、昨季はリーグワン初代トライ王に輝いた。今回のオールブラックス戦やイングランド戦での活躍は、世界のラグビーシーンに大きなインパクトを与えたはずだ。

日本でチャンスをつかんだライリーは「日本でプレーする機会をもらって感謝している。W杯出場は誰しも目標」と来年を見据える。

W杯まであと1年弱。19年W杯組と新戦力が融合し、チーム力を高めて初のベスト4以上に挑む。

取材・文・撮影/斉藤健仁