ハイブリッドラリーカーの旗手「トヨタ GRヤリス・ラリー1」が公道に登場すると大歓声&写メの嵐が巻き起こった
ハイブリッドラリーカーの旗手「トヨタ GRヤリス・ラリー1」が公道に登場すると大歓声&写メの嵐が巻き起こった

愛知と岐阜両県で開催された世界ラリー選手権(WRC)の最終戦「ラリージャパン」でファンが沸きに沸いたという。その背景には何が? 現地で取材に奔走した自動車研究家の山本シンヤ氏がぶっちぎり解説する!!!

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■コースに一般車が進入するトラブルも

母国開催で3位を獲得した勝田貴元(右)/アーロン・ジョンストン(左)組を祝福するトヨタの豊田章男社長(中央)
母国開催で3位を獲得した勝田貴元(右)/アーロン・ジョンストン(左)組を祝福するトヨタの豊田章男社長(中央)

山本 11月10〜13日の4日間、愛知県と岐阜県を舞台に「FIA(国際自動車連盟)世界ラリー選手権(WRC)」の今シーズン最終戦となる日本大会「フォーラムエイト・ラリージャパン2022」が開催されました。

――山本さんは現地でずっと取材されていたんですよね?

山本 12年ぶりの日本開催ですから、取材に飛び回りました。開催前に愛知県と岐阜県の人たちに話を聞いて回りましたが、正直、ピンときていない印象でした。

ところが、いざレースが始まったら、「ラリーカーは音がすさまじいね」「こりゃお祭りだ」「まさかこんな過疎地に朝から大勢の人が押し寄せるとは......いやぁ驚いたねぇ」と興奮気味に語っていました。

――本来なら、ラリージャパンは2020年に開催する予定だったんですよね?

山本 そのとおりです。正確には新型コロナの感染拡大の影響により、20年、21年と2年連続で中止になりました。当時、トヨタ自動車の豊田章男社長は日本自動車工業会会長の立場から、「五輪で許されても四輪や二輪は許されず、不公平と感じる」と疑問を呈し、大きな話題を呼びました。

――つまり、ファンは待ちに待った大会であったと。ところで、12年前のWRCは日本のどこで開催された?

山本 04年から07年までは北海道の十勝地方で開催されていましたが、08年に札幌を基点とする道央地区に開催地を移し、10年まで行なわれましたね。

――今回は愛知県と岐阜県が舞台でした。具体的な場所はどこだったんですか?

山本 愛知県の豊田市、岡崎市、新城市(しんしろし)、設楽町(したらちょう)。岐阜県の中津川市、恵那市で19のSS(スペシャルステージ)に分かれて競技が行なわれました。

山間地や神社など日本ならではの美しい景色を、ラリーを通じて世界中に発信できたかと。軽自動車の文化をつくった道の狭さや左側通行など、海外のファンの目には新鮮に映ったと思いますね。

愛知県豊田市にある熊野神社の前でブチカマされたラリーカーの豪快なコーナリング。この神業には神様もビックリ?
愛知県豊田市にある熊野神社の前でブチカマされたラリーカーの豪快なコーナリング。この神業には神様もビックリ?

――一方、クラッシュや車両火災、さらに一般車などのコース進入など、あわやのハプニングもありました。

山本 ラリーにおいてクラッシュは日常茶飯事ですが、一般車の進入は大きな問題です。コース設定や安全対策など、今後の課題も浮き彫りになりました。

■トヨタが2年連続でWRC全冠制覇のワケ

民家の脇にある細い道を時速150キロオーバーで一気に駆け抜ける。民家の庭先からは大勢の人たちが応援していた
民家の脇にある細い道を時速150キロオーバーで一気に駆け抜ける。民家の庭先からは大勢の人たちが応援していた

――ラリージャパンを見て驚いたのは、爆音を響かせ、時速150キロ以上で道幅の狭い一般道を駆け抜けるところです。「ハンパない技術!」とか「コレは単純にスゲェ!」という声がSNSにはあふれ返っていました。

山本 ドライバーやコ・ドライバー(助手席の案内役)の高い技術があるからこそ、競技が成立しているわけです。

――確かに運転技術は見どころのひとつですね。ちなみにラリーを日本で開催する意味はどこにあると思います?

山本 過疎化が進む山間部の振興や観光の呼び水にもなりますよね。だからこそ今回、自治体や行政、地域の人たちと綿密な連携や調整を図ることができたわけです。

――来場者数は?

山本 延べ8万9000人以上です。ただし、競技区間と競技区間の間にあるリエゾンと呼ばれる区間でも多くの観客が声援を送っていた。発表された数字以上のファンが足を運んでいたのは確かです。

最終日は途中から雨天に。コンディションの悪い中、見事、ワンツーフィニッシュを達成したのはヒョンデ勢だった
最終日は途中から雨天に。コンディションの悪い中、見事、ワンツーフィニッシュを達成したのはヒョンデ勢だった

――レースの結果はヒョンデ勢がワンツーフィニッシュを達成して幕を閉じました。

山本 トヨタは2年連続でWRC全冠制覇を決めての母国凱旋(がいせん)でした。当然、ファンは大きな期待を寄せていたと思います。ただ、ワンツーは逃しましたが、日本人唯一のWRCドライバーである勝田貴元選手(トヨタGRヤリス・ラリー1)が、見事に3位表彰台を獲得しました。

実は日本人選手がラリージャパンで表彰台に立つのは史上初の快挙。しかも、彼は愛知県長久手市出身で、文字どおり地元で勝利を飾ったなと。

――どんな選手?

山本 29歳の勝田選手は祖父も父親もラリードライバーという血筋です。本人は3位表彰台という結果に対して「1位を取るまでは素直に喜べない」と慢心することなく、気を引き締めていました。

勝田選手はルックスはもちろんですが、メディアへの対応も優れています。彼の活躍がもっと多くの人に伝われば、ラリードライバーを目指す若者も増えると思います。

レースを終え、豊田スタジアムに戻るため豊田市駅前のメイン通りを走る爆音のラリーカー。沿道には人が殺到した
レースを終え、豊田スタジアムに戻るため豊田市駅前のメイン通りを走る爆音のラリーカー。沿道には人が殺到した

――ちなみにトヨタは2年連続でWRC全冠制覇しました。ズバリ、強さの秘密は?

山本 豊田社長が掲げる〝モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり〟を実践したことでしょうね。

――具体的には?

山本 トヨタという自動車メーカーが初めて参戦したモータースポーツはラリーです。1957年に当時の世界最長かつ過酷な自動車競技「豪州一周モービルガス・トライアル」にトヨペット・クラウンで参戦したんです。

――ほお!

山本 実はトヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎氏は、「これから乗用車製造を物にせねばならない日本の自動車製造事業にとって、耐久性や性能試験のため、オートレースにおいて、その自動車の性能のありったけを発揮してみて、その優劣を争う所に改良進歩が行なわれ、モーターファンの興味を沸かすのである。(略)単なる興味本位のレースではなく、日本の乗用車製造事業の発達に、必要欠くべからざるものである」と説いているんです。

――モータースポーツ参戦はトヨタのDNAであると?

山本 ところが、いつの間にか「トヨタのクルマはスポーツカーであっても静かで乗り心地が良くないとダメ」という恐ろしい文化が根づき、07年にはレースどころか、トヨタのラインナップからスポーツカーが消滅......。

そこから気の遠くなる時間を費やし、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら、〝モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり〟を突き詰めたんです。

――なるほど。

山本 現在、トヨタのエンジニアに話を聞くと、「昔は三菱、スバル、スズキが大活躍するWRCを、ただ指をくわえて見ていた。でも、今のトヨタは世界の舞台に挑めるんです」と胸を張ります。トヨタの強さの秘密はこういう部分にあるのではないかと。

■ラリーでも脱炭素を進めるトヨタ

――今回のラリージャパンで、トヨタから新たな発表もあったそうですね?

山本 発売時期は現時点で未定ですが、「GRヤリス・ラリー2コンセプト」のデモランを世界初公開しました。FIAが考案した四輪駆動のラリー2車両はラリーの裾野を広げる手頃な価格で、プライベーターから人気を集めています。

すでにヒョンデ、フォード、シュコダ、シトロエン、フォルクスワーゲンなどが車両を発売しています。そこにトヨタが参戦する可能性は高いと思います。

――トヨタは競技用のクルマもしっかり売っていくと?

山本 ラリー2車両を販売することで、競技人口は増えますし、WRCで戦う資源も得られる。いい循環です。

――ほかにも動きが?

山本 水素エンジン搭載の「GRヤリス H2コンセプト」のデモランも披露されました。さらにトヨタのサービスパーク(ピット)の電源は水素を燃料にした燃料電池発電機により発電されていました。

この燃料電池発電機の正体は、トヨタの燃料電池車ミライに搭載されているFCスタック(水素発電モジュール)を使用したものです。恐ろしく静かなサービスパークでしたね。ほかは発電機の音が気になりましたが、トヨタにはそれがほとんどありません。

――脱炭素への取り組みも粛々と進めていると。今後もトヨタから目が離せない?

山本 そう思います。

●山本シンヤ 
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営

写真提供/TOYOTA Rally Japan