かつての高度成長期のように、皆が「豊かになっていく社会」を実感できていた時代は、過酷な労働も、多少の理不尽も、歯をくいしばって耐えられた。「我慢していれば、自分もいつかは報われて、幸福になれる」という希望が見えていたからだ。

だが、今はもうそういう時代ではないということは誰もがわかっている。身を粉にして働いて会社に尽くしても、個人が得られるものはあまりにも少ない。先の希望が持てないなかでのハードな労働は、充実感につながらず、疲労感が残るだけになりやすい。働けば働くほど幸福度が落ちる働き方を、人は何年続けられるのだろう?

■「経営陣だけが幸せな会社」からは人が離れていく…

こういう時代では、人を雇う企業の方も変化を求められる。
これから求められる企業像について、『幸せな会社の作り方 SDGs時代のウェルビーイング経営の教科書』(扶桑社刊)の著者、本田幸大氏は、

利益を出し、納税し、雇用を生むという、企業としての絶対条件を満たしたうえで、そこで働く人たちにもきちんとフォーカスをあて、働く人たちが幸せな状態であるかを考えることが重要だと私は思います。(p.28より)

としている。かつてのように利潤や顧客の獲得ばかりを追い求めるような「幸福」は、経営者と一部の役員だけが得られるだろう。「幸福」という価値観が大きくゆらいでいるいま、従業員に賃金や肩書きだけではなく、労働環境、健康、人間環境、社会に与える影響など、「働く喜び」を提供できない会社からは、人が離れていく。それは企業の衰退に直結する。

だから今、「ウェルビーイング(幸福)」という概念が経営に必要になっている。「従業員の身体的・精神的・社会的幸福を考えた経営」である。

■従業員が幸福な会社をつくるために必要な「ギバー」とは

本田氏も自身が経営する企業でウェルビーイングの概念を取り入れた経営をしている。そのために大切にしているのが「幸せトライアングル」という考え方だ。

人間は健康でもあまりにお金がなければわびしいものだし、お金があっても人間関係が良好でなければ孤独だ。いい人間関係を築いても、健康を害していたらその人たちと一緒に何かをすることはできない。「経済」「健康」「人間関係」この三つが揃ってはじめて人間は幸せを感じられる。ゆえにトライアングルなのだ。

本田氏は、企業側がこのトライアングルが揃うように尽力することで、従業員に「ギバー(他者にすすんで何かを与える人)」の性質を持つ人が増えていく、としている。

人間は「ギバー」だけではない。「マッチャー(損得のバランスを考える人)」も「テイカー(真っ先に自分の利益を優先させる人)」もいる。しかし、従業員みなが幸せな会社を作るなら、「ギバー」がより多く必要だ。もちろん、経営者自身が「ギバー」でなければならない。

いかにして会社の中にギバーを増やすか。そして「幸せトライアングル」を大きくしていくか。もともとは中途採用が多く、離職率の高さに悩んだという本田氏は、社員の「幸せトライアングル」を大きくするための試行錯誤から、「親孝行休暇」「9連休取得推奨」「瞑想専用室の設置」など、ユニークな制度をさまざまもうけているという。

21世紀は「経営陣だけが幸せな会社」からは人が離れていき、利益だけでなく、従業員の幸福も考えられる会社が発展する。持続的に事業を伸ばしていく組織をつくるための最大の財産は「人」だ。「人」にフォーカスした経営をするために、本書は大いに役立つだろう。

(新刊JP編集部)