新年の話題のひとつといえば「十二支(えと)」。今年は子年(ねずみどし)なだけに、猫好きは、少々切ない気分にさせられる。なぜ十二支に「猫」がいないのか……と。そこで、その理由を探るべく、猫に詳しい動物学者の今泉忠明さんに話を聞いてみた。

猫が十二支にいない、3つの説

 そもそも、十二支に猫が含まれていない理由について、もっとも有名なのが、「ネズミにだまされた説」だろう。

 神様が地上の動物を招き、先着順で十二支を決めるという話である。日頃から猫のことをよく思っていないネズミがわざと1日後の日付を伝え、猫は約束の日に到着できず、選考に漏れてしまったというのがよく聞く話だが、地方によっては、神様に呼ばれていること自体、ネズミは猫に伝えなかったとするパターンもあるらしい。

 このほか、「お釈迦さまが亡くなるきっかけを猫が作った説」「干支が生まれたころ中国に猫がいなかった説」など、諸説あるようだ。

中国には、はるか昔からトラがいたとか

歴史の長さで、トラに負けた?

 なぜ十二支に猫がいないのか。この疑問に対し、今泉先生はあっさり、「中国にはトラが猫より先にいたからね」と答えた。

「中国で『ヤンシシ(ヨウシトラ)』の化石が出土しています。およそ35万年前にいたとされるトラの祖先です。おそらく十二支ができたころには、トラは恐ろしくて強い動物として神格化され、憧れの存在になっていて、架空の動物・竜と並んで干支に選ばれたんでしょうね。それに比べて、猫は中国では新しい動物です」

 今泉さんの著書「飼い猫のひみつ」によれば、トラやライオンなどの祖先となるグループが誕生したのが640万年前。その後、中国大陸を含むアジア東部でトラへと進化を遂げたという。

 一方、猫は古代ジプトで飼育され、神格化されていた個体が、地中海東部のフェニキア人によりシャム(タイ)やペルシャ(トルコ)などに密輸され、じわじわと世界に広まったとされる。当時、エジプト国外への持ち出しが禁止されていたのだそうだ。

 その後、ローマ帝国が古代エジプトを征服し、今から1900年ほど前、1世紀ごろに勢力を拡大したことを機に、ヨーロッパやインドなどにも猫が広がり、ようやく中国に伝わったのではないかと先生は言う。

エジプト原産の猫、「エジプシャン・マウ」。スポット(斑点)があるのが特徴

十二支に猫が入っている国も

 一方、中国より先に猫が伝来したとみられるタイを始め、ベトナムやベラルーシなど、十二支に猫を含む国もある。

「タイでは猫は王室で飼われていて、それがシャム猫のもとになっています。東南アジアの温かい地域にはやたらとネズミがいるうえ、サイズもかなり大きいので、ネズミを狩ってくれる猫は重宝したでしょうね。そういうことも、タイで猫が十二支に選ばれたことに影響しているのかもしれないですね」

タイ原産の猫を代表する「シャム」。古くから王室などで愛されてきた

十二支は“家畜の群れ”?

 この「みんながよく知っている動物かどうか」が、十二支レースの勝敗を分けたと見る理由が、もうひとつある。

 古代の中国で生まれたといわれる十二支だが、当初は動物など別に関係なく、12の動物はあとづけされたものだとか。

「一般の人が干支を覚えやすいように動物とひもづけた、という話を聞いたことがあります。十二支の動物を見ると、ほとんどが家畜ですよね。ニワトリ(酉)は3〜4000年前に東南アジアのセキショクヤケイが家禽化したもので、歴史が古い。犬の起源だって最近いわれているもっとも古い説は3万5000年前で、おそらく2万年前には家畜化されていたのではないかと見られています。十二支を覚えてもらうには、古くからなじみのある動物にしなきゃ、ということが背景にあったんじゃないかと思います」

ちなみに、猫の犬歯は、ネズミの首の神経をひと嚼みで切断するのにぴったりな幅だとか

 今でこそ、我々にとって、とてもなじみ深い猫も、歴史のなかでは新参者。寓話ではネズミにだまされ、歴史ではトラやほかの家畜に認知度で負けて、十二支に入れなかった、としたら……なんだか切ない。すると先生はなぐさめるように「もし今、十二支を選び直すとしたら、絶滅しそうなトラより、絶対猫を入れるでしょうけどね」とフォローしてくれた。

 ちなみに、「猫がお釈迦様の亡くなる理由になった説」は、動物学より宗教学的観点から掘り下げた方がよいでしょう、とアドバイスしてくれた。