譲渡会に参加した犬

 朝日新聞の記事データベースで検索すると、「保護犬」という呼称が初めて登場するのは、1997年9月24日付の記事だ。高知県版の記事の見出しに取られていて、同県内で前年度に保護された犬約6千匹のうち約5800匹が殺処分されたことを伝えている。

愛護団体などが必死に広めてきた言葉

 ただ90年代はその1本だけ。2000年代も年1本程度で、2010年代に入ってようやく目立つようになる。

 保護犬とは一般に、飼い主に捨てられたり、迷子になって本来の飼い主と再会できなかったり、もともと飼い主がいない野良犬の子として生まれたりして、全国の自治体や動物愛護団体に保護された犬を指す。

 猫で同じ状況を意味する「保護猫」という呼称も含めて、全国の自治体職員や動物愛護団体のボランティアらが、新たな飼い主への譲渡活動と並行して、必死に広めてきた言葉だ。

「保護」というプロセスを経ていないのに

 最近では、米国のバイデン次期大統領が飼っている犬2匹のうちの1匹が保護犬だ――という報道もあるなど、人口に膾炙するようになっている。

 全国の自治体に保護された犬猫がいまだに数万匹単位で殺処分されている現実を思えば、「保護犬」「保護猫」という言葉が前向きなイメージをもって広がっていくことは、社会的に歓迎すべきことだ。

 ただ近年、気になることがある。繁殖業者が繁殖に使っていて引退させた犬猫や、ペットショップで売れ残っている子犬や子猫を「保護犬」「保護猫」と呼び、一定の手数料を取ったうえでペットフードのまとめ買いやペット保険の加入などとの「抱き合わせ」を条件に、新たな飼い主に「譲渡」している事例が散見されるのだ。

 その主体はペットショップチェーン自体だったり、ペット業界関係者が新たに立ち上げた団体だったりする。商行為の結果として生じた売れにくい犬猫が、「保護」というプロセスを経ずに、「保護犬」「保護猫」として世に出回っているのだ。

飼い主の混乱を引き起こす可能性も

 こうした犬や猫に、飼い主を見つけ、ペットとしてその命をまっとうできるようにする取り組みは、当然ながら意義深い。これまで、繁殖を引退したり売れ残ったりした犬猫を、大量に野山に捨てたり、「農薬使ってんだよ」などと言いながら自分のところで処分していたり、劣悪な環境で飼い殺す「引き取り屋」に費用を払って引き取ってもらったり、といった事例を取材してきた。いずれの行為も動物愛護法に抵触する可能性がある。

 こうした手段に頼らず、自治体や動物愛護団体の手も借りずに、ペット業界自ら不幸な犬猫を減らそうという動きが近年出てきたことは、間違いなく歓迎すべきことと言える。

譲渡会に参加した犬

 しかし、自治体や動物愛護団体が、とぼしい資金を費やし、血のにじむような努力をして広めてきた「保護犬」「保護猫」という呼称を、ペット業界の側がこのように使うのには違和感がある。実際、多くの動物愛護団体から疑義の声が聞こえてくる。

 ペット業界の側からすれば、「保護犬」「保護猫」というプラスのイメージをともなう言葉によって、暗い舞台裏の存在をあいまいにしたまま問題を解決したい心理が働いている側面も、否定できないだろう。

 だがそんなやり方では、ペットショップなどで購入する以外の方法で犬猫の入手を検討しようとする一般の飼い主に、混乱を引き起こす可能性もある。

実態を反映した呼び方をしよう

 提案したいのは、実態を反映した新たな呼び方や説明の仕方を模索することだ。たとえば、繁殖を引退した犬猫なら「リタイア犬」「リタイア猫」などと呼べばいい。

 ペットショップの店頭でそうした犬猫の飼い主を募るのであれば、販売した子犬や子猫の「親」であることを説明するのも手だと思う。自分のペットの親だと知れば、親近感がわくこともあるだろう。

 また、売れ残ってしまった子犬・子猫であれば、なぜ売れ残っているのか、原因となっている欠点や疾患などを店頭で正直に説明したうえで、引き取ってくれる飼い主を探すようにしてはどうか。

 以前に取材したペット業界関係者は「欠点がある子を求める層はかなり厚い」と話していたが、新たなペットを求めている一部の飼い主にとってこのような情報は、その子犬・子猫を飼う動機付けになる側面がある。

 こうした取り組みは、これまで閉鎖的だったペット業界の情報公開が進むことも意味する。どうすれば、日本で暮らすすべての犬猫、ひいてはすべてのペットを幸せにしていけるのか、国民的な議論を進め、深めていくきっかけにもなるはずだ。

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