ペット関連の法律に詳しい細川敦史弁護士が、飼い主のくらしにとって身近な話題を、法律の視点から解説します。今回は、飼い主のもしもの場合に備えて、ペットのために出来ることです。

進む高齢化社会、ペットも長寿化

 愛するペットのために財産を残したい、というテーマについては、いろんなところで弁護士などの専門家が解説されてきたと思います。今回はまず、その背景から考えてみましょう。

 ご承知のとおり、日本は高齢化社会が進んでいます。65歳以上の高齢者人口は3617万人、人口全体に占める割合は28.7%と世界で最も高く、75歳以上の超高齢者人口も1871万人で、全人口の14.9%です。

 また、日本における犬猫の飼育頭数は、犬が848万匹、猫が964万匹です(一般社団法人日本ペットフード協会の2020年度調査による推計)。ここ数年、全体的に減少傾向ではありますが、50歳代や60歳代の飼育率が比較的高いとされています。

 平均寿命は、犬14.48歳、猫15.45歳であり、ワクチンの普及、不妊去勢手術の推進、獣医療の進歩改良、ペットフードの開発・改良、室内飼育など飼い主の意識変化を背景として、年々長寿化しています。 

 ペットを飼う前には、飼育環境とりわけ自分が最後まで飼えるかを考えていただきたいことは当然として、年齢に限らず、「もし自分の身に何かが起こったら」ということを考えて、備えておく必要があると思います。 

ペットの世話をきちんとしてくれる人を見つけよう

 ペットに財産を残すことは可能なのでしょうか?この点については既に言い尽くされてきたことですが、法律上の人(自然人と株式会社などの法人)以外は権利の主体になれないことから、ペットは権利主体になれません。

 具体的には、ペットの名義で不動産は登記できませんし、金融機関でペット名義の預金を開設することはできません(かつては、架空の名前やペットの名前でも口座をつくれた時代がありましたが、今どきはそういった取り扱いを認める銀行はないでしょう)。

 そうなると、ペットに財産を残すには、自分の死後にペットの世話をきちんとしてくれる人に財産を託す、ということになります。その方法として、遺贈、死因贈与、信託などの方法がありますが、結局は、ペットの管理について信頼できる人を見つけられるかがポイントです。配偶者や子どもなどの親族、近所の人、友人、動物団体などの中から、「この人なら犬を世話してくれる」「責任をもって新しい飼い主を探してくれる」と思える相手を見つけて下さい。

 その上で、その信用できる相手に、あらかじめ事情を説明し、相談しましょう。そして、その人が幸いにもペットを引き受けてくれることを了承してくれた場合、お金の面をどうするかが問題となります。

 親戚など近しい関係であれば、無償でお願いすることもあるでしょう。しかし、どれくらいの期間世話をすることになるのかわからず、また、老犬・老猫期の介護は費用・労力の面で負担が大きくなることが多いので、無償でしてもらうのは相手に申し訳ないですし、お金を渡さなかったためにいい加減な世話をされたのでは、本来の目的は達せられません。

 また、第三者が無償で引き取ってくれることは通常ありません。とはいえ、生前に、儀礼の範囲を超えて多額のお金を渡すというのも不安が残るでしょう。

金額はいくら必要なの? 

 となると、「実際に飼い主が先に亡くなり、ペットが残される状態が確定したときに、飼い主の財産からペットの世話をするために必要な費用を渡す」というのがお互いにとって望ましい方法といえます。 

 ここでよく聞かれるのは、「具体的にいくらを渡すようにすればよいのか」という問題です。当然ながら、相場や決まった正解はなく、そのペットの健康状態、飼い主の家族構成、資産状況・収入状況や意向、引き受ける側の条件などを考慮して個別の事案ごとに考えていくことになりますが、私が関わった事案で提案しているのは、「1カ月の食費・治療費など要することが想定される費用に、相続開始時点のペットの想定余命(例えば、「20年−相続開始時のペットの年齢」)をかけた金額」という方法です。

 ただ、厳密に算定することは難しいので、金額は高め、期間は長めに設定しておき、お礼の気持ちを含めて、ある程度多い金額を想定することが望ましく、受け入れる側も了解しやすいと思います。

ペットに財産を残す2つの方法

 ペットに財産を残すには、①あなたが死んだときに相手に財産を贈与する旨の遺言書を作成しておく(=遺贈)方法と、②そのような内容の契約を相手と結んでおく(=死因贈与契約)方法があります。

 通常は、贈与を受ける側は何も義務を負わないのですが、「残されたペットの世話をする」あるいは「責任をもって新しい飼い主を探す」という義務を定めることができます。このような「負担付贈与」または「負担付死因贈与」も可能です。引き受け側にできるだけ負担をかけないよう、飼い主だけで作成できる遺言の方法がよいのではないかと考えます。

 遺言の形式には、大きく分けて、1人で作成できる自筆証書遺言と、公証役場において公証人等の立ち会いのもとで作成される公正証書遺言があります。どちらの方式を取るかは自由ですが、後で無効とならないようにしたいのであれば、費用はかかりますが、公正証書遺言によることをお勧めします。

 また、いずれの方式で作成するとしても、信頼できる人や弁護士などの専門職を「遺言執行者」として定めておくべきです。遺言執行者は、遺言書に記載されたとおりに財産を移転する業務を行うとともに、相手がペットの世話をしているか、受贈者の義務を果たしているかをチェックし、飼い主の遺志が実現するかを見届けるという重要な役割を果たす人です。

エンディングノートの活用も

 高齢化社会が進む中、「終活」の一環として、しばしば「エンディングノート」が紹介され、書店に行けばさまざまな本が売られています。

 遺言書は、遺言者が死亡した時点で、記載したとおりの法的な効力が発生します。そうであるがために、記載事項など民法で厳格に定められており、必要な形式を備えていない場合は無効となりますし、記載内容があいまいな場合は紛争の元になります(例えば、「私の全財産の処理はAさんにまかせます」という文言の解釈が問題となります)。

 エンディングノートは、基本的に法的効力はなく、相続人がノートに記載された故人の遺志を尊重するかどうかは自由です。その反面、決まりはありません。お金もかかりませんし、気軽に始めることができるのではないでしょうか。

 一方、遺言もエンディングノートも、これらを作成する過程で、ご自身の気持ちを整理できるという点では共通していると思います。

エンディングノートに何を書くか

 ペットのためのエンディングノートは、まだ多くはないと思いますが、インターネットで検索するといくつかのひな型が配布され、また販売されています。基本的にはどんな内容を書くかも自由ですが、典型的な記載項目としては、以下のとおりです。

  • 名前、生年月日、性別、種類
  • 毛色、特徴
  • 登録番号、マイクロチップの有無・番号
  • 血統書がある場合は保管場所
  • かかりつけの獣医、持病、アレルギー、服用している薬、予防接種歴
  • 好きor嫌いな食べ物
  • 飼育上の注意点、性格、好きなことなど
  • 自分の死後の取り扱い。飼い主を探してほしい。家族に任せる。第三者に任せるなど
  • ペットを引き取ってくれる人が決まっていれば、その人の氏名、住所、連絡先、関係、承諾印など
  • ペットが病気になったときどこまで治療するか、安楽死を望むか
  • ペットが死んだときはどこで火葬し、どこに埋葬するか。自分の墓に入れるか

 ペットにとって最もよいことは、大好きな飼い主と終生一緒に暮らし、最期を見送られることでしょうから、遺言やエンディングノートにより、もしもの場合の備えをした上で、飼い主が健康で長生きをし、用意したものが使われない結果となることが一番だと思います。

(次回は3月15日に公開予定です)

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