大型犬

 インテリアデザイナーとして活動する傍ら、保護犬の預かりボランティアをする小林マナさん。預かり犬1匹目は、福島県の被災地から来た大型犬で、当時15歳だったタケ。まわりの犬や猫と仲良くできたけれど、しつけは必要? 老犬でもトレーニングはできるのでしょうか。

(末尾に写真特集があります)

堂々とした老犬

 温厚でゆっくり歩く老犬のタケ。

 散歩中は誰もが振り向くほど堂々として、誰からも好かれるその容姿は、すぐに公園の犬の飼い主の間に知れ渡りました。

 どんな犬が近寄ってきてもけんかにはならず、匂いを嗅がれてもじーっとして微動だにせず。タケはまったく心配いらずな犬でした。

 ただ何かあってはいけないと思い、いつもリードはしっかり持ち、突発的なことに備えて用心はしていました。花火でびっくりして逃げたとか、サイレンに驚いて逃げたとか、トラウマのある人やものに対して突然襲いかかるというのはよく聞く話です。

 タケは、愛敬を振りまくというほどではないにしても、誰が触っても、大勢の人の中にいても、バイクが急発進しても、それこそ近所で花火が打ち上がっても、いつもマイペースでゆったりしていました。

「こんな犬もいるんだなあ」と実家で飼っていたヘンリーを思い出しました。和犬だったのに、イギリスのヘンリー王子が生まれた時にあやかって名付けたので、容姿に似合わないとよく笑われたものです。

 ヘンリーはものすごく臆病で、なんでも吠えるちょっと情けない中型犬だったので、タケの堂々とした性格は、犬として理想的な育てられ方をしたんじゃないかと思っていました。

大型犬と猫

公園でお友だちのおもちゃをパクッと!

 それはある日、突然やってきました。

 いつもの公園を散歩中に犬仲間にあいさつをしていると、突然タケが、豆柴のシンシアの横に落ちていたぬいぐるみをパクッとくわえてしまいました。

 「タケ! ダメだよ! 返さないと〜!」と、タケの口から出ているぬいぐるみの頭を持った瞬間「う〜〜〜〜」っとうなり声をあげたのです。

 「え!? 今のタケ?」

 このサイズの犬にうなられたことがなかったので、急に怖くなってしまいました。

 ぬいぐるみを食べてしまってもいけないし、怖いし、どうしようとまごまごしていたら、シンシアの飼い主さんがサッととおやつと交換してくれたのですが。

 ぬいぐるみは首がちょっともげてしまいました。謝りながら「こういうことがあるんだ……」と心の中でつぶやきました。

 それ以来、こういう時のためにもトレーニングは必要なんだなと思い始めたのです。

大型犬と豆柴

犬のトレーニングは 人間のトレーニングだった

 早速、タケを預かった動物愛護団体ミグノンの代表の友森さんに、トレーナーの矢崎 潤先生を紹介してもらいました。矢崎先生に連絡すると「大型犬だし、他の子と一緒にできないので、パーソナルトレーニングにしましょう」ということになりました。

 矢崎先生はタケとの再会を喜んでくれました。というのも、タケはもともと東日本大震災の被災犬で、友森さんと矢崎先生が被災地へ行き、放浪している動物たちを捕まえて保護していたときに見つかった犬なんです。人懐っこく近寄ってきて、自分から車に乗り込もうとしたそうです。

 当時、やむなく動物と同行避難ができなかった飼い主たちは、世話ができなくなるので外に放ったり、犬がリードを食いちぎったりして、街には犬やその他の動物たちが放浪していたそうです。ちなみに、ダチョウ園から出てきたダチョウも保護したと聞きました。

大型犬

 まず、先生にはタケの飼育方法やおもちゃを取ったときの詳細、毎日の様子、家庭の飼育環境を話しました。

 先生に教わった対処方法は、タケが好きなおもちゃとおやつを10個ずつ用意してから、「好きな順に並べて、それほど好きではないおもちゃから“ちょうだい”の練習をしましょう」というもの。

 理由は、好きなおもちゃをタケに渡すと返さないので、執着していないおもちゃから徐々に“離す”練習をするためです。そして、いざというとき、ぬいぐるみとすぐに交換できるように、好きなおやつを用意して最後手段で使うように言われました。

 

第2回
にも書きましたが、矢崎先生のトレーニングは褒めて教える「ポジティブトレーニング」という方法です。犬ができた時に、思いっきりほめておやつを与えます。

 初日は先生とのカウンセリングだけで、拍子抜けしたのですが、家で犬と接するのは飼い主。先生が犬をトレーニングするのではないので、結局、飼い主が教わることが大事なんだなと妙に腑に落ちました。

 飼い主が飼育環境を整えて、好きなものをたくさん用意し、根気よくトレーニングを続ける。「犬のトレーニングって人間のトレーニングなんじゃないの?」とちょっと可笑しくなりました。 

「タケちゃんは老犬だけど耳も聞こえるし、目もまだ見えているので十分覚えてくれますよ! 僕も老犬の保護犬をたくさん預かって、とても勉強になったんです」

 矢崎先生に勇気づけられ、タケのトレーニングをスタートさせることになったのです。

犬