「供血猫」という言葉を聞いて、反射的に「かわいそう」と思う人もいるだろう。初めて耳にする人もいるかもしれない。だが、保存が難しい猫の血液は備蓄システムもなく、人工血液も開発途上。交通事故や難病による貧血などで輸血を必要とする猫にとっては、健康な猫が分けてくれる血液は命綱だ。供血経験があるレモンくん、そして、獣医さんの飼い猫で供血ドナー猫でもある、のあ・小哲・虎次郎トリオを訪ねた。

(末尾に写真特集があります)

健康だからこそできる、仲間へのサポート

 中学生のそうごくんと小学生のゆうごくんの家に、待ちに待った猫がやってきたのは、去年の10月。お父さんの転勤で青森から越してきて千葉に居を構えた一家は、念願の犬を飼おうとしたのだったが、途中で兄弟が「猫も可愛いよ」と言い出したのだ。

 保護猫サイトをあれこれ見るうちに、ゆうごくんが「この猫がいい!」と一目ぼれした猫がいた。いかにも性格のよさそうなパステル茶白のオス猫である。年齢は1歳すぎ。家族一致でその子に決めたのは、紹介文にこう書いてあったからだ。

「とても人懐こい子です! 夜も一緒に寝てくれます」

男の子と猫

 レモンくんは、保護された臨月のノラ母さんから生まれた子猫たちの中で、ひときわ大きな子だった。

 母猫を保護した吉田さんは、動物病院に勤めている。輸血で助かった命を幾度も見てきた。
すぐに輸血を必要としている猫は、急患で病院に運ばれてくる。猫の血液はストックがきかないから、待合室に「供血ボランティア猫募集」の貼り紙をしたり、興味を持ってくれそうな人にはふだんから声をかけたりしている。もちろん、吉田家の猫たちはみな「供血猫」ドナーである。

 供血できるのは、きちんと健康管理された室内飼いで、さまざまな条件をクリアした、1歳から6〜7歳くらいまでの猫のみ。その条件をクリアしていたレモンくんは1回、保護猫仲間のニコくんは2回の供血をしている。

 供血の前には、供血猫の健康や、血液の適合性など念入りな検査をする。供血する猫とされる猫の双方に負担のないよう、ケアフリーに輸血は行われる。

茶白猫

「軽い麻酔をかけて、50㏄ほどの血を採ります。目が覚めた供血猫は、痛みも不快感もなく、昼寝から目覚めたくらいの感じだと思います。レモンも、供血した日はいつもと違うごちそうが出てきて、『がんばったね、ありがとう!』と言われて、ご機嫌でした」と、吉田さん。健康な猫はすぐに血を作るので、ダメージもまったくない。

「レモンが供血した猫は、極度の貧血状態でした。輸血後、容体は持ち直しましたが、しばらくたってまた貧血に。その時は他の猫が供血してくれました。2匹のおかげで、その猫は無事退院していきました。役に立てて本当によかった」

 トライアル開始のとき、一家は吉田さんからレモンの供血経験を聞いた。お母さんは、供血猫という言葉自体が初耳だったが、「この子は、この若さで他の子の役に立ったんだ」と知り、よりいとおしくなった。そして、近場で必要とされる場があれば、進んで協力したいとも思った。そうごくんは「レモンはやさしいなあ」と感心したそうだ。

 レモンくんは、紹介文の通り、家族みんなのベッドをはしごして、一緒に寝てくれている。最後まで犬がいいと言っていたお父さんもメロメロに。ゆうごくんは、授業で作る粘土細工も、俳句も、創作物語も、みんな「猫」になってしまった。

“開院祝い”でやってきた保護猫兄妹

 千葉県香取市の「はな動物病院」の開業医である黒滝先生の愛猫たちは、「供血猫」スタッフである。

3匹の猫

 6年前に開業したとき、前の職場のスタッフたちが「開業祝い」を抱えてやってきた。保護されたばかりの子猫兄妹だった。動物病院には、いざという時の供血猫がいたほうがいいから、と。それが、ブラックスモークの小哲くんと、黒猫ののあちゃんだ。

 さらに、その半年後、生後2日の保護猫のミルクボランティアを引き受けた。育てるうちに手放せなくなり、小哲たちの弟として迎えたのが、キジ白の虎次郎くん。続けて、きょうだいが次々車にはねられた生き残りのノラの子犬コロまで引き受ける。

 犬猫全員、はな動物病院の供血スタッフではあるが、役立つ場にはまだ臨んでいないという。猫の場合、血液型不適合はさほどなく、輸血を必要とする猫の飼い主が多頭飼いのときは、その家の猫から供血してもらうことを優先してもらっている。

「それでも、かかりつけの動物病院に供血猫がいるということは、安心していただけていると思います」

 一回供血をした猫は、続けて供血はしない。数か月、間を置く。だから、3匹待機というのは、とても大きな安心材料なのだ。

抱っこされる猫

 子供のころからずっと動物たちと暮らしてきた黒滝先生は、獣医の道を志し、米国で動物医療に関わった。ペットが不治の病になると、安楽死を飼い主が即決することに驚き、帰国後は動物の終末期医療までをしっかりとサポートする病院を持ちたいと願った。

「動物たちは家族。どんなに病んでも、年をとっても、一緒にいるだけでしあわせ。動物たちはみな本来、自分で回復していく力を持っていて、私も供血猫たちも、そのお手伝いをしているだけなんです。医学の進歩で供血の必要がなくなるまでは、『供血猫』が不足しないことがとても大切だと思います。もっと理解とドナー登録が進むといいですね」

受付にいる猫

 愛猫を「供血猫」ドナーとして、かかりつけの病院に登録しておくのは、愛猫の健康管理にいっそう気を配ることにつながる。そして、「猫同士の助け合い」を支援することにもなる。猫との間に、ふだんの愛情と信頼がしっかりと確立していることが前提なのは、もちろんのことだ。