歯の表面の歯垢(しこう)にすみついた歯周病菌が、歯周組織を徐々に破壊して炎症を起こすのが歯周病です。歯周病は悪化すると歯が抜けたり頬(ほお)に穴が開いたり、また痛みにより食欲減退やQOLの低下を招く恐ろしい病気です。歯周病や予防方法について正しく知り、愛犬を歯周病の脅威から守りましょう。

歯周病の原因は歯垢(プラーク)にある

 飼い主の目にもよく見える犬の歯の汚れは「歯石」ですが、実際にはその前段階の「歯垢」(プラーク)が歯周病の原因になっています。歯の表面や歯と歯ぐきの間、歯と歯の間についた白くねばねばとした歯垢にすみついた歯周病菌が、歯周組織を徐々に破壊して炎症を起こします。

歯みがき後に歯ブラシを水でゆすぐと、とれた歯垢で水が白く濁る(撮影:岡崎健志)

 歯垢にすみついた細菌は、唾液(だえき)中のカルシウムによって石灰化され、24〜72時間ほどで歯石になります。歯石になってしまうと普通の歯みがきでは除去できず、また歯石のついた歯の表面はデコボコしていて歯垢がつきやすくなります。歯みがきをせず歯垢を歯石にしてしまうことは、細菌の温床を作り出すことでもあるのです。

歯石がぎっしりとついた犬の歯。歯石は菌の温床となる(提供:花小金井動物病院)

 飼い主は歯石ができたり口臭がきつくなったりすることで歯周病を疑うことがありますが、そうなると実際には、歯周病が進行した状態とも言えます。「プラーク・コントロール」という言葉もあるとおり、毎日の歯みがきで歯垢を落とすことが重要です。

歯周病の症状と歯周病が及ぼす影響

 犬の歯周病は、さまざまな症状を引き起こします。

1. 歯ぐきの炎症とQOLの低下

 歯周病菌が、歯周組織を破壊することで歯ぐきに炎症が起こり、歯ぐきから出血したり、うみが出たりするようになります。犬は痛みを抱えるようになり、食欲が減退することもあります。おいしく食べられない、食べにくいということは、犬の精神状態にも影響し、生活のクオリティ低下を招きます。

歯周病が進行し、歯ぐきがひどく炎症している。こうなると相当の痛みがあり、食べることが苦痛に(提供:花小金井動物病院)

 また、炎症が進行すると、外歯瘻(がいじろう)と言われる症状が現れることも。歯周病が進行したことで歯の根元が溶け、さらに炎症が広がることで、頬(ほお)など周囲の皮膚に穴が開きます。

2. 口腔鼻腔瘻

 口腔(こうくう)と鼻腔(びくう)を隔てる骨が歯周病によって溶かされ、鼻と口が貫通して口内細菌が鼻腔に侵入してしまう病気です。頻発するくしゃみや鼻水、鼻血などの症状が見られます。飼い主が鼻炎を疑って愛犬を動物病院に連れていったところ、実は歯周病が原因だったということは、実はよくあることなのです。

3.他の病気を誘発

 人間では、歯周病になると血管の中に歯周病菌が入って全身をめぐる「菌血症」になり、関節炎や肝炎、心内膜炎などの病気を引き起こすことがわかっています。犬では立証されていませんが、同様のことが起きていると考えられます。歯周病は心臓や肝臓、腎臓などで起こる病気を誘発する可能性を持っているのです。

歯周病になりやすい犬となりにくい犬

 歯を溶かす原因となる歯垢が作り出した酸を中和したり、口の中を洗い流したりする役割も持っているのが「唾液」です。もともとの唾液量は個々によって異なり、唾液の量が少ない犬は歯周病になりやすい傾向があります。また小型犬や免疫の下がったシニア犬は歯周病が重症化しやすいとされています。

12歳でも歯がピカピカ!(撮影:岡崎健志)

 とはいえ、花小金井動物病院の林一彦先生の愛犬、ミニチュア・ダックスフンドのナナちゃん(12歳)は、歯がピカピカ。毎日の歯みがきで歯周病は防ぐことができるのです。

歯が汚れてしまったら歯科治療から開始する

 歯石は歯みがきでは取り除くことができません。放置すると歯周病を悪化させることになるため、早めに動物病院を受診することが大切です。

 病院での歯の治療は、表面の歯石を取るスケーリングだけではありません。歯石を除去した後、処置を行います。適切な治療をすれば、歯と歯ぐきの間に歯周ポケットができていても、だんだん歯ぐきが引き締まってきます。

左が治療前で、右が治療後(提供:花小金井動物病院)

 犬の歯周病は早期治療が鉄則です。また症状が悪化してしまうと、抜歯を勧める動物病院が多いのが現状です。しかし昨今は、抜歯はあくまで最終手段であり、「できるだけ抜かない」という考え方が広まりつつあります。抜歯をするとあごが歪み、嚙み合わせが悪くなることも。また人間の歯科治療と同じで、歯を残すことはQOLを保つことでもあるからです。

歯周病予防は歯ブラシを使った歯みがきで

 犬に虫歯はまれであり、歯みがきは主に歯周病を防ぐために行うものです。そして大切なことは、歯そのものより、歯と歯ぐきの間の「歯肉縁下(しにくえんか)」をきれいに保つことが歯周病予防に効果を発揮するという点。歯みがきガムやおもちゃ、歯みがきシートでは歯と歯の間の掃除は難しいため、人間同様、犬の歯みがきにも歯ブラシを使うことが大切です。

 歯垢は水を飲むだけでは取り除くことがでず、また歯垢は24〜72時間くらいで歯石となります。歯石は歯みがきでも除去できないため、いかに歯垢を落とし、きれいな状況を保てるかがカギとなります。

 人間が毎日歯みがきをしていることからもわかるとおり、歯周病予防のための唯一にして最大の方法が、歯ブラシを使った毎日の歯みがきなのです。

歯ブラシを使った毎日の歯みがきで、歯周病を予防する(撮影:岡崎健志)

 ただし、愛犬に歯みがきをしていても、うまくみがけていない部分に歯垢や歯石がついてしまうことがあります。毎日の歯みがきに加え、2〜3カ月に1回、動物病院で歯のメンテナンスをするのが理想です。

 毎日の歯みがきと動物病院での歯のメンテナンスで、愛犬の歯の健康を守っていきましょう。

[監修]獣医師 林一彦
はやしかずひこ 歯学博士。『
動物歯科クリニック 花小金井動物病院
』歯科診療責任者。日本大学獣医学研究科修士課程修了後、同大学松戸歯学部病理学教室専任講師、英国ブリストル大学歯学部での客員講師、日本大学松戸歯学部社会歯科学講座教授を経て、2013年、動物歯科クリニック花小金井動物病院を開院し、無麻酔での歯石取りや極力抜歯しない治療を行う。著書に『歯をめぐる生物学〜動物とヒトの歯〜』(アドスリー刊)などがある。