現在、動物の遺棄は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科せられる。しかし、遺棄した人を逮捕するためには、発見者の行動が重要になるという。

 今回は、万が一捨てられた動物を発見した際、「どのような状態であれば遺棄として認められるのか」「犯人を遺棄罪として追及するためにはどのような行動をとるべきか」について、動物問題に詳しい弁護士の細川敦史先生に伺った。 

動物遺棄は犯罪

 段ボールに入れた子犬を木陰に起き、「親切な人に、見つけてもらってね」と涙を流す親子。そこに、「優しそうに聞こえても、これは犯罪者のセリフです」というナレーションが入る。こんなテレビCMをみかけるようになった。CMはその後「動物を捨てること、虐待することは犯罪です」と締めくくり、啓蒙(けいもう)する。

 ひと昔前まで「捨て猫」「捨て犬」は後ろめたいものではあるにせよ、「犯罪」という認識を持っている人は少なかった。あくまでも筆者の体感としてではあるが、このセンセーショナルなCMが流れ始めた2020年ごろからは、動物愛護団体とは無関係の一般の人にも「動物の遺棄は犯罪である」という意識が広がってきた気がする。

遺棄の線引きとは?

 一方で、筆者が登録しているSNSには月に数回という高頻度で遺棄された動物を拾ったと言う人の情報が流れてくる。中には、段ボールやビニール袋に入れて捨てられる猫、無人の場所につないで置き去りにされた犬など、明らかな遺棄の例も見られる。そしてこれらの動物を保護した人によると、多くの場合は警察に届けても「遺失物」として処理されるのみで、犯人を捜査・検挙する動きは見られないと言う。

「動物を捨てること、虐待することは犯罪」だったはず……。遺棄になるのかならないのかは、一体何を基準に決まるのか。疑問に思った筆者は、sippoの連載「おしえて、ペットの弁護士さん」を執筆する、ペット関連の法律に詳しい弁護士の細川敦史先生にお話を伺った。

細川敦史 (ほそかわ・あつし)
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。連載「
おしえて、ペットの弁護士さん

――先生、捨て猫や捨て犬が動物遺棄にあたるかあたらないかは、何を基準に決まるのでしょうか?

 じつは、遺棄かどうかにはきちんとした基準があります。

『動物の愛護及び管理に関する法律第44条第3項に基づく愛護動物の遺棄の考え方について』(平成26年12月12日・環自総発表)では、動物遺棄の具体的な判断要素として「離隔された場所の状況」「動物の状態」「目的」として3つの項目で遺棄かどうかを判断する基準を示しているんです。

――3つの項目について詳しく教えてください。

 1つ目の「離隔された場所の状況」は、保護された動物とその時の状況の掛け合わせで遺棄かどうかを判断する基準です。たとえば「毛づやが良い」「首輪をしている」など、あきらかにペットとして飼われていた様子がある動物は、「捨てられていた場所がどんな場所かに関わらず遺棄と判断する」ということが書いてあります。

 また、ここではもうひとつ、ペットか野良犬・野良猫かを問わず、「餌や水がない場所」「車の往来する道路 の真ん中」など「生命の危険がある場所に置き去りにすることも遺棄」と定義しています。

 2つ目の「動物の状態」では、「身体が不自由な動物」や「老齢や幼齢の動物」など、「危険を回避できない状態の動物を置き去りにした場合を遺棄」と定義しています。ここでもペットか野良犬・野良猫かは関係なく、遺棄の定義にあてはまります。

 3つ目の「目的」は、野生動物の保護に関することで、今回の捨て犬や捨て猫の事例にはあまり当てはまらないので、ここでは割愛します。

生まれたばかりの犬や猫を外に放置する行為は遺棄にあたる(getty images)

証拠保全が前提

――つまり建前上は、動物が「もともとその状況にいたか」「人の手でその状況に至ったか」で、遺棄かどうか判断されるのですね?

 そうです。でも、実際のところは「人の手でその状況に至った」ということを証明するのが難しいわけです。動物は話せないので、「自分は遺棄された」と主張できませんよね。かといって、捨てる瞬間を見ている人がいるわけでもない。
 
 そうなったときに確実に人の手が介入したと言えるのが、ビニールに入れられている、人が来ない場所につながれているなど、「動物が自分ではできない状況で放置されていた」場合でしょう。

――先日「キャリーケースのまま捨てられていた猫を保護したけれど捜査してもらえなかった」という話を耳にしました。これは明らかな遺棄に当たると思うのですが、どうして警察は動かなかったのでしょう。

 おそらく、証拠保全の問題でしょうね。どういうことかというと、外にいる動物を保護して交番や警察署へ持ち込んでしまうと「動物が自分ではできない状況で放置されていた」という「証拠」が失われ、現場の状況を調べることができなくなるのです。そのため、「遺棄罪としての捜査」がしにくくなってしまいます。

 また、これは極端な考えですが、警察が現場の状況を見ていなければ持ち込んだ人の自作自演が成立してしまうといった理由もあると思います。

――警察に遺棄の証拠を提示するにはどのように動けばいいのでしょうか?

 一番大切なのは、動物を見つけた状況を動かさず、現場にも触れず、その場から通報して警察を呼ぶことです。そうすることで警察自体に証拠保全をしてもらうことができます。動物を見つけてから警察を呼ぶまでの時間差は少ない方がよりいいでしょうね。

先に動物を保護する場合

すぐに保護が必要な場合は、現場の状況を動画や写真で記録すると良い(getty images)

――動物を交番に連れて行ってはいけないのですね。見つけた時点で動物がけがをしていたり衰弱していたりと、保護に緊急を要することもあると思うのですが……。

 確実なのは警察に現場に来てもらうことですが、どうしてもその場で待てない場合は、写真や動画で状況を記録してから動物を保護してください。

 また、後から警察に届ける際、見つけたときの状況を改めて説明するとともに、質問されたことに明確に答えられるようにしてください。できるだけ感情的にならず、「いつ、どこで、誰が、何を、どうした」という説明を心がけるのがポイントです。

――すぐに保護が必要な場合の撮影で、気をつけることを教えてください。

 同じ構図の写真を何枚も撮影するのではなく、場所がわかる引きの写真と状況がわかる寄りの写真、動物の状態がわかるアップの写真など、さまざまな角度や構図で撮影しておくことが大切です。

 特に、電信柱の住所表示など、「ここがどこか」がわかるものを映像や写真で残しておくことは忘れないでください。

犯人逮捕の事例はある

――証拠保全によって警察が動いた事例はあるのでしょうか?

 2021年に長崎県 で、生後間もない子猫4匹をビニール袋に入れて遺棄した男性が逮捕されました。通報したのは市内で活動している愛護団体の方で、遺棄動物の証拠保全や現場保全の知識を持っていたことから適切な対応がとれ、警察が捜査に動いて犯人逮捕に至ったそうです。

――私が知る例では遺棄動物の通報自体、地域や警察署によって対応に差があるように感じます。

 残念ながら今のところは、警察署のルールや担当者のその瞬間の忙しさによって対応に差が出るというのが実情ですよね。でも、長崎のケースのように適切な証拠保全を行い、警察に対応することで、遺棄として捜査される可能性は高まると思いますよ。

 それともうひとつ大切なのは、警察とかみ合わなくてもケンカせず、冷静に対応することです。警察の中には、動物愛護管理法に詳しくない人もいるかもしれませんので、根気強く丁寧に説明してくださいね。

逮捕につなげる

 人間の手で遺棄される不幸な動物を増やさないためにも、動物遺棄をきちんと取り締まることが大切だ。万が一遺棄された動物を見つけたら、今回の話を思い出し、逮捕につながる行動を心がけたい。

遺棄される動物を増やさないために、犯人逮捕につながる行動を心がけたい(gettyimages)

出典:

愛護動物の遺棄の考え方に係る通知について