キリッ!

 イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。

(末尾に写真特集があります)

庭にやってきた片目をけがした子猫

 私が幼い頃、庭に面した大きな窓際が私の特等席だった。

 植物や動物が大好きな両親は、細長い家に沿って庭を作り、1階の庭に面した部屋の壁一面を窓にしていた。私は暇さえあれば庭に出て植物をなでたり、猫と遊んだりして、家の中に入ってからも窓の横に座って庭を眺めていた。

猫たちと私の特等席

 だから、その子猫がヒョコヒョコとやってきたときは驚いてしまった。

 もう夜の闇が迫ってきているというのに、片方の目が見えていない小さな体で、たったひとり庭にたどり着いたからだ。

 今まで暮らしてきた猫や犬たちは、病気をしたりけがをしたり、いろいろあったけれど……と、その子猫を見たとき幼い私の心はつぶれそうになった。

急いで! はやくはやく!

 とっさに庭に出てよろめくその子猫を保護し、母親に見せると「あらら、風邪を引いていて目やにがすごいね。自分でお目々を引っかいてしまったみたい」と言う。

 目やにをきれいに拭いて体を洗って温めたけれど、右目は白濁したままだった。落ち着いてから獣医に見せたけれど、これ以上悪くならないように、という処方だった。 

 こんなに小さくて片方のお目々が見えなかったら、階段、登れるかな。椅子の足にぶつかったりしないかな。長生きしてくれるかな。

 初めての経験に、これまでの知識を総動員して考えたけれど、私の心配は大きくなるばかりだった。子供のくせに難しい顔をして、ビッキーと名付けたその子猫の体が良くなるのをじっと待ち続けた。

動物ってすごい!

 しかし私の心配をよそに、元気になったビッキーはヒョイと椅子に飛び乗り、階段をテッテケテーッと駆け上り、他の猫たちとじゃれたりかけっこをしたり、みんなとおんなじだった。

 たまにゴツンとどこかにぶつかったりしていたけれど、それはどの人間にも猫にもあることで、ビッキーだけが特別ではなかった。

階段だってへっちゃらさ

 そっかー。動物ってすごいんだ。

 私は自分のちっぽけな頭で、あれやこれや考えたり予想したりしたことを反省した。動物たちは今あるその状態がすべてで、そのことについてああだこうだ考えたり悩んだりしてないんだ。すごいな。ビッキー、めちゃくちゃかっこいい!

 だから、そのあとにどんな猫たちが竹脇家にたどり着いても、びっくりしたり困ったりすることはなかった。だって、大丈夫だもん。この子たち、自分で解決する。保護した人間がすることは、まず獣医に診せてできることをする。そのあとはもう、きっと大丈夫。そんな風に思えるようになった。

 もちろん不治の病にかかってしまった猫もいて複雑なこともあるけれど、ビッキーが見せてくれたように、猫たちは自分の猫生をめいっぱい生きている。ビッキーはいつだって優しくて甘えん坊で、たまに舌をしまい忘れる、かわいくてすてきな猫だった。

ビッキーからたくさんのことを学んだ

 先日、母にビッキーの思い出を聞いてみると、母は「ビッキーはね、まあるい猫だったの。みんながビッキーの周りで穏やかな気持ちになるの。まあるいの」と言った。

みんながビッキーの周りに集まる

 そして晩年になって左目の視力も落ちたとき、ビッキーは隠れる場所を探して物陰のほうへ行こうとしていたという。母はそれがとても悲しくて目の手術をしようかと真剣に悩んだらしい。でも、年老いた体には手術はとても危険だから、ビッキーを一生懸命見守ることにしたと話してくれた。

 ビッキーは動物と暮らし始めた竹脇家に、色々なことを教えてくれたレジェンドだ。彼から、人間の言葉にはできないたくさんのことを学んだ。でもそんなことをビッキーに言ったら、あの優しいお顔で、きっとキョトンとするだろうな、と思ってまた心がほっこりする。

 やっぱりビッキー、かっこいい。

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こっち来んなョ… 家庭内野良猫に時間をかけて向き合ったら、猛烈甘々に豹変