高齢者の方々の事故やトラブルが増えて「老いている」ことに関してネガティブな論調も目立つようになった今日この頃だが、韓国では70代で人生をバラ色に変えたひとりの女性がいることをご存知だろうか。

女性の名はパク・マクレさん。1947年生まれの72歳だが、現在は約90万人のチャンネル登録者を抱える人気ユーチューバー(YouTuber)だ。

70代から花開いた人生

約2年前に医者から「認知症発症のリスク有り」と診断されたこともあったというマクレさん。

それを知った孫娘のキム・ユラさんが会社を辞めて祖母と2人で海外旅行に出かけるのだが、そこで撮りためた動画をYouTubeにアップしたのがマクレさんのチャンネル「Korea Grandma」の始まりだという。

最近の韓国のユーチューバーの中には海外旅行モノや、日本在住の韓国人が日本各地を旅してさまざまな日本商品を紹介するチャンネルなども人気だが、「Korea Grandma」は70代の祖母と孫娘という設定からして面白い。

しかも、マクレさんは2年連続でアメリカのグーグル本社に招待されている。グーグルのCEOサンダー・ピチャイはわざわざ時間を作って彼女と面会し、2人で撮ったツーショットを自身のインスタグラムにアップしていた。

4月にはYouTubeの最高経営責任者(CEO)を務めるスーザン・ウォシッキーが彼女に会うためだけにわざわざ訪韓し、一緒にトークショーまで行っているのだ。

韓国にはマクレさんよりチャンネル登録者が多く、影響力を持つユーチューバーは数えきれない。以前インタビューしたPONYをはじめ、J.Fla、デトソグァン(大図書館)なども芸能人顔負けの人気だ。

にもかかわらず、世界を動かすITリーダーたちがマクレさんに熱視線を送る理由は何か。孫娘キム・ユラさんは韓国の映画雑誌『CINE21』とのインタビューでこう語っていた。

「スーザン・ウォシッキー曰く、シニア・ユーチューバーは海外にも多いらしいです。ただ、彼らの動画を見ているのは同じシニア世代だそう。祖母の動画は若いファンが多いので、それが注目されたのでしょう」

ユーチューバーといえば「若者が行っているもの」というイメージが強く、実際にも韓国で年収2億円以上と推測されるユーチューバーTOP10のほとんどが20〜30代の若者たちだ。最近は“デジタル・ネイティブ”といわれる10代のYouTuberも次々と現れている。

それに動画は編集に手間をかける必要があり、技術とセンスも問われる。ネットやITに接する機会が遅かった高齢者の場合、ユーチューバーになるどころかYouTubeを利用することすらハードルが高いかもしれない。

ただ、そうした難題の数々を、孫娘の助力があるとはいえ、72歳の女性がいとも簡単にぶち壊してしまっていることが何よりも人気の秘密なのだろう。

それにマクレさんは若者たちの心に残り響く数々の名言も生み出している。例えば、「みんなに対して良い人になりたいのですが…」という悩み相談に対しては、「そんな人はこの世に存在しません。人にリズムを合わせないで。自分がやりたいように太鼓を叩いていれば、そのリズムに乗りたい人々が集まってきて踊るものです」と回答している。

ニュース番組に出演して緊張のあまり「希望は絶対“捨てて”」と言い誤ってしまったときは、わざわざ謝罪動画をアップして、「希望というものは他人のものではなく、自分のものです。一度は捨ててしまっても、また拾い上げてくださいね」と切り返していた。

このユニークかつユーモアあふれる話術に、YouTubeを楽しむ若者たちも引き寄せられているわけだ。

20歳に結婚し、働こうとしない夫の代わりに家庭を支えなければならなかったというマクレさん。日本でもヒットしている韓国小説『82年生まれ、キム・ジヨン』に出てくる女性とは比べものにならないほど、辛く厳しい現実を耐え忍びながら生きてきたはずだ。

ただ、そのような人生経験があるからこそ、心に響く数々の名言も生み出せるのだろう。年を取り老いることは決してネガティブなことばかりではない。高齢者であることはマイナスではないということを、パク・マクレさんは示してくれているような気がする。

ちなみにマクレさんの将来の夢は、10年間英語を勉強して「82歳でグーグルに入社する」ことらしい。「でも、その前に若い君たちが先にグーグルに入って活躍していてね」というマクレさん。韓国のハルモニ(おばあちゃん)は元気でたくましくて、やさしい。

(文=慎 武宏)