昨今、即戦力として注目を集める大卒ルーキー。近年の顕著な成功例として挙げられるのが三笘薫だが、日本代表でも先のオマーン戦では抜群の存在感を見せている。

 2022年シーズンに向けても法政大からは川崎フロンターレに内定したMF松井蓮之ら8人、流通経済大からは浦和レッズに内定しているMF宮本優太ら7人など、来季も多くの大卒ルーキーたちがJリーガーの仲間入りを果たす。

 そんな大卒ルーキーたちはなぜ即戦力として活躍できるのか?自身もヴェルティユースから明治大を経てプロの道に進み、現在は東京大学運動会ア式蹴球部の監督を務める林陵平氏に話を聞いた。

 大学とプロを知り尽くした林氏の見解は……。

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 高校を卒業してからの大学4年間は長いようで短い。僕の体験でも人間的に大きく成長できた期間でした。

 プロに行ったらどうしてもサッカーだけの生活になります。その前に文武両道というか、勉強もしながら、大学サッカーを通して、人間的な成長ができる。礼儀やコミュニケーション能力、先輩との関わり方、そういうことを通して、人間的な成長ができて、それがサッカーにも繋がった。

 僕がヴェルディから明治大に行った時も1年から試合に出られるだろうと、甘い考えも持っていましたが、今の大学サッカーはレベルも上がってきて、特に関東1部だとほぼ推薦ばかり。同じ学年でも全員がライバルで、さらに1年と4年では体格差もあって、入ったばかりの頃は4年生がとても大人に見える。

 少数精鋭のユースとは違い、レギュラー争いに勝って試合に出るということも競争が激しいので、そういう部分も通して、葛藤し、自分の頭で考えながら、『何をしなければいけないのか』と考えながらトレーニングに臨むことによって、すごく成長できました。
 
 フィジカルの成長も間違いなくありますね。僕は12年間プロ生活をしていましたが、実体験でいえば、ヴェルディユースからそのままプロに上がっていたら、間違いなくそこまでできなかった。そのままプロに行っていたら3年くらいでクビになっていたと思います。

 誰でも成長できるわけではありませんが、大学に入ってからは基本自由なので、『自分が本当にプロになりたい』という根底の部分がしっかりとあれば、自分で1年生の頃からしっかりと考えてやっていける時間も取れます。

 もちろん、いろんな誘惑もあると思う。人によっては、ほかの事に目がいってしまってサッカーに集中できていないとか、能力はあるのにちょっと試合に出れないからと腐っちゃって消えていく選手もいる。ただ、それはどのカテゴリーに属していても同じで、結局は自分次第。自分がどういうメンタリティでやれるかが大事なのは変わりません。
 
 昨今大卒ルーキーがJリーグで即戦力として活躍しているのも、そういう覚悟とか、メンタルの部分が大きいように感じます。

 大学を卒業したら、22歳くらい。サッカーではそんなに若くもないし、即戦力でいかないとプロでやっていけないというのは個人個人が自覚している部分。そういうモチベーションもすごく関係していると考えます。さらに、プロ入り後の計画、目標がはっきりと見えているのも大きいのではないでしょうか。

 1年目から結果を出さないと取り残される、チームに残れないという現状も理解しているでしょう。また、ある程度身体も出来上がっているのでフィジカルのギャップも少ない。プロでも活躍できるフィジカルやベースはついているのかなと思います。

 ただ、大学を経由することのデメリットももちろんあります。世界を見たら、10代から試合に出ている選手はいっぱいいます。海外では大学を卒業してからというのはあまりなく、日本の独特な部分です。そのため、22歳では欧州のビッグクラブに行く選手にとっては少し遅いと感じる部分もあります。10代でプロになって活躍したほうが、世界で戦う上で有利なのは間違いない。もちろん遅くはないけど、能力があるなら高卒の18歳からでもプロに行った方が良いとも感じます。
 
 そのため、わざわざ大学を選んで進むという人はそんなに多くないのではないでしょうか。自分が本当に活躍できると思っていたら、オファーがたくさん来ていたら、そのまま高校からプロに上がると思います。

 ただ、そのタイミングで自分に何か足りないと感じている、周りからそう見られているのであれば、大学に4年間行ってプロを目指すのは良いことだと思います。

 また、プロはすぐクビになることもある世界。大学に行っていると高卒よりも見られ方は良いですし、勉強もする。いろんな礼儀やコミュニケーションスキルも身に付く。そういう部分はすごく大事で、選手を引退した今は実感することも多いです。

 大学時代を振り返ると、サッカーの部分のフィジカルベースや技術でも間違いなく伸びた部分はあります。ただ、僕の場合は、それよりも人として4年間で成長しているのを感じられた。

 その経験があったからこそ、プロに入ってからも、良い時、悪い時もありましたが、ブレずに自分がやるべきことをしっかりと継続して、プロ生活を12年間やり続けられたと思います。

 プロの世界は華やかに見えるけど、チームが30人前後いたら、全員が上手い選手たち。そこから試合に出られるのは、メンバーに入れる18人、ピッチには11人しか出られない。

 まずは週末の試合までの1週間の争いが激しくて、毎週のようにテストを受けているような感じになる。そこで、毎回一喜一憂してしまうことが多いと思いますが、ブレずに自分のやるべきことにフォーカスしてやれる選手が成長すると思います。そうやって考えられるようになったこと、メンタル面が鍛えられたことは大学4年間での成果でした。

 やるべきことを探せる「サバイバル力」のようなものが付いたと思います。足りないものを自分で考え、そこにフォーカスして毎日取り組む。そんな継続する力が付いたと思います。さらに、僕の時代はまだ土のグラウンドで、寮生活も8人部屋、多い時は16人部屋なんかもあって、そんな生活を通して成長した部分もあったかもしれませんね。プロに入ったらどこも素晴らしい環境。どこでも大丈夫でした。
 
 東京大学のア式蹴球部の監督も務める林氏が、大学サッカーの現場で対戦した選手たちから注目のプレーヤーを3人挙げてもらった。

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●平河 悠(山梨学院大/FW)※町田ゼルビア2023シーズン加入内定

 Jリーグに行っても活躍できそうなドリブラーで、常にゴールに飢えているようなイメージ。ゴールを逆算して仕掛けられる。両足のパンチもあるし、キレのあるドリブルができるアタッカーでシュートもすごくうまかった。今年東大で対戦した選手のなかではすごく面白いと思いました。

●松井蓮之(法政大/MF)川崎フロンターレ2022シーズン加入内定

 あのボランチ良いなとパッと見で感じるものがあった。特に、ボールを持った時の姿勢や、パスのセンス、ボールのさばき方、身体の向きの作り方など高次元で兼ね備えている。さらに、ボールを引き出した後に前を向ける点が上手い。すごく面白い選手だと感じました。

●佐藤恵允(明治大/FW)

 ゴリゴリ系でパワーがあって、自分で運べる選手。魅力は得点につながるプレー。今後決定力を高めていくとさらに大化けしそうな選手です。

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 今回挙げた選手たちは、プロのフィジカルや、外国籍選手たち相手にも良さが出せるか楽しみです。厳しい世界なので、最初から上手くいくか分かりませんが、しっかりと自分のやるべきことをやれば結果が出せる世界でもあると思う。現在も活躍している大卒選手たちのように今後も羽ばたいてほしい、頑張って欲しいですね。

 その一方で、大学サッカーの指導者としては、選手たちに上手くなって欲しいと思うのと同時に、勝つことだけでなく、楽しむことや個人の成長も見つけてもらいたい。

 東大だと、プロに行くようなレベルの選手はいないですが、サッカーを通して人間的な成長と、少しでもチームとしても個人としても1年のなかで成長していくことで、サッカーの楽しさを理解していってほしいと思っています。

【著者プロフィール】
林陵平(Ryohei HAYASHI)/1986年9月8日生まれ。
186cm・80㎏の大型ストライカーとして鳴らした元Jリーガー。ヴェルディアカデミー、明治大を経て2009年に東京ヴェルディとプロ契約。柏、山形、水戸、町田、群馬などでプレーし、Jリーグ通算300試合出場・67得点。自他ともに認める「サッカーマニア」でツイッター(@Ryohei_h11)では海外ネタを日々つぶやいている。2021年には、自著『Jリーガーが海外サッカーのヤバイ話を教えます』(飛鳥新社)を出版し、東京大学運動会ア式蹴球部の監督にも就任した。

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