[選手権1回戦]大津5-0中部大一/12月29日(水)/NACK5スタジアム大宮

 守りを固めてくる相手にこそ、この男の存在感が際立つ。大津の10番・森田大智(3年)がボールを持つと、時が止まり、まるでピッチを上から見ているかのように正確無比なパスを繰り出す。
 
 優勝候補の大津の初戦の相手、中部大一は前線に3枚のFWを残し、中盤以降は3バックと両ウイングバック、ダブルボランチが連動した強固なブロックを作ってきた。この試合の前に行なわれた第1試合では、ポゼッションとドリブルを駆使して多彩な攻めを見せる西武台が、三重高の堅いブロックの守備を圧倒しながらも切り崩せず、0-1で破れていた。一発勝負のトーナメント、しかも初戦ということもあって、崩しきれずに終わるチームはたくさん見てきた。

 大津にとってはその流れにハマらないことが重要だったが、立ち上がりから森田がボランチの位置から変幻自在の動きを見せたことが大津に勝利への道筋をもたらした。

 三重のプレッシャーを物ともせず、常に相手が捕まえづらい場所とタイミングでボールを受けては、キープしてタメを作ったり、サイドへの展開のパスやポゼッションのパス、そしてチャンスと見るや裏へのパスを送り込んで、徐々に相手の体力を消耗させていった。

「今日の試合も立ち上がりからみんなが硬いと思ったので、そこは僕が落ち着かせたいと思った」

 森田が作り出すリズムによって、大津自慢のアタッカー陣もゴールという音色を奏でた。前半4分、右CKからMF薬師田澪がヘッドで突き刺すと、同23分には森田が送り込んだスルーパスからMF一村聖連のチャンスを演出。同27分には森田のクロスから薬師田がヘッドで落としたボールをMF川口敦史が繋ぎ、最後は一村が押し込んで追加点を奪うと、同35分には2年生FW小林俊瑛の豪快ヘッドで3点目。後半も19分に交代出場の1年生・碇明日麻が決めて試合を決定づけた。

 4点のリードを奪っても、森田のキレは一切落ちなかった。後半29分に右ペナルティエリア内深くでボールを受けると、鋭い切り返しからMF農祥英に決定的なマイナスのパス。74分には同じ位置から中央に飛び込んだ小林へクロス。小林のジャンプのタイミングが合わず、ファーに流れると見るや、そのまま中央のスペースにダッシュで顔を出し、左からの折り返しを受けて、右へ展開をして二次攻撃を引き出した。

 試合は直後の後半35分に途中交代の1年生MF稲田翼がダメ押しの5点目を決めて、5-0の圧勝。

 ゴールを決めたわけではないが、常に大津の中心には森田がいた。いざとなれば森田にボールを預ければテンポを変えてくれる、ボールを持って顔を上げたら森田がパスコースにいてくれる。この絶大な信頼感があるからこそ、チームはブロックを固められても臆することなく、自分たちのリズムで攻撃を仕掛けられる。
 
 筆者が彼の凄さを痛感したのが、昨年の選手権予選準決勝だった。この試合、ルーテル学院は大津に対して分厚い守備のブロックを形成してきた。この壁にチームメイトが苦しむ中、森田は密集地帯を苦ともせずにドリブルを仕掛けたり、ためを作ったりして、唯一と言っていいほどチャンスが必ず生まれるようなプレーをしていた。結果は最後までゴールをこじ開けることができないまま0-0でPK戦の末に敗退。この時は結果が出なかったが、明らかに森田のプレーは出色のものだった。
 
 あれから1年。森田はプレミアリーグWESTで押し込む展開でも、逆に押し込まれることが多い試合でもチームのリズムメーカーとして、状況に応じた判断の引き出しを開けて、卓越した技術を持って君臨し続けた。それは難しいとされる選手権初戦でも変わらなかった。
「常にボールに多く関わることを意識しています。運動量には自信があって、攻守のどこにも関われることが自分の長所」(森田)

 次なる相手は同じ九州で、プレミアWESTで2度対戦している東福岡。プレミアの戦績は1勝1分けで、手の内は知り尽くしているが、負けたら終わりの一発勝負はやはりプレミアと訳が違う。

「相手が東福岡なので、今日のように硬さが出てしまうと思うし、いつも通りにはいかないと思うからこそ、僕がチームの中で1年から試合に出させてもらって一番経験を積んでいるので、ボールを落ち着かせて、ゲームを落ち着かせたいと思っています」

 次なる戦いで森田の本領が発揮される。大津に君臨する俊英リズムメーカーは、大きな大志を抱いて2回戦で訪れた難関に挑む。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)