筑波大のMF山内翔のヴィッセル神戸内定が発表されたのは、今年の3月31日。その翌日、彼は大学3年生になった。

 近年、大学生の内定決定のスピードは早まってきているが、その中でもかなり早い部類に入るだろう。屈強なフィジカルを駆使した守備と、素早い攻守の切り替えからの展開力を持つ大学屈指のボランチは、なぜ早く決断を下したのか。

 4月30日に行なわれた関東学生リーグ1部・第5節の拓殖大戦で、筑波大は2−0で勝利し、今季リーグ初勝利を手にした。この試合で今季リーグ初ゴールも叩き出すなど、勝点3獲得に大きく貢献した山内に、その真意を聞いてみた。

「高校の時からヴィッセルのユースでやっていたのですが(中学時代はヴィッセル神戸伊丹U−15でプレー)、その時はトップに上がるために全力を尽くしていました。上がれなかった時はかなり悔しかったですが、僕がこの筑波大を選んでからもヴィッセルのスカウトの人たちは、タイミングが合う時は必ず見にきてくれたし、声をかけてくれた。

 1年生のデンソーカップチャレンジ(2021年3月開催)が終わってからは頻繁に練習参加もさせてもらって、ヴィッセルというクラブが僕のことを思ってくれていると、ひしひしと感じました。練習に行くたびにヴィッセルでプレーしたいという気持ちが日に日に増していったことで、早めに決めました」

 神戸U−18時代には、U−16日本代表、U−17日本代表にも選ばれ、U−16アジア選手権(マレーシア)や2019年のブラジルU−17ワールドカップにも出場するなど、この世代では注目の存在だった。一方で、トップチームでは18年にアンドレス・イニエスタ、翌年には山口蛍が加入。名手が次々と加わり、山内が務めるボランチやトップ下は激戦区のポジションに。こうした影響もあり、トップ昇格は見送られた。
 
「昇格できないと伝えられた時は本当に悔しかったですけど、あの豪華なメンバーの中で自分が中心選手になってやっていく自信ははっきり言ってありませんでした」

 それでも、山内の心の中には神戸に戻りたいという気持ちが強かった。

 いつか自信をつけた状態で、あの豪華絢爛なメンバーの中でポジションを掴みたい。その目標と同時に、早くから練習参加を続けたことで、徐々に「世界的な選手や日本トップレベルの選手たちとトレーニングやコミュニケーションを重ねられるこの環境こそ、自分が伸びるベストな環境なのではないか」と考えるようになったという。
 
「人によって、そのチームの中心選手になることで成長する選手もいれば、中心ではないけどレベルの高い選手と日常を共にすることで成長する選手もいると思います。僕はどちらかというと後者だと思うので、ヴィッセルに行きたいとより強く思うようになりました」

 元来、自分を客観的に見ることができる選手だ。成長する意欲や向上心は人一倍ある。それだけにとらわれず、自分に何が足りないのか、どうすれば目標に近づけるのかを理解できる冷静さも持ち合わせている。

 大学に進学してからはよりフィジカルの強化と球際の激しさ、そして戦略的な守備の習得など、自らのスケールアップに意欲的に取り組んできた。結果として、首回りは驚くほど太くなり、多少の当たりでは負けないフィジカルと、より広範囲に広がった展開力、プレーの連続性などを手に入れた。

 ずっと気にかけてくれる神戸に甘えることなく、自己研鑽を続けてきたからこそ、古巣への帰還の思いは早くに相思相愛で結実した。
 
「他にも素晴らしい選手がいるチームはありますが、僕の中ではヴィッセルだからこそ、他にはない環境があると思っています。今年から特別指定もさせてもらって、Jリーグに出られる権利を持っているからこそ、今は呼ばれていない状態だと認識しています。

 これが現実ですが、この先、もしヴィッセルに必要とされ、呼ばれた時にはいつでもチームに貢献できる状態にできるように、常に準備は怠らずに日常を過ごしていきたい。もちろんその前に僕は筑波大の選手でもあるので、育ててもらった筑波大のために全力を尽くしたいと思います」

 相思相愛をより色濃くするために、そして一度挫折した自分をより強く育ててくれた筑波大のために。山内の決意は精悍な面構えと共により深まりを見せている。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)

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