5月8日、相模原ギオンスタジアムで、WEリーグの初年度女王が誕生した。

 日本の女子サッカー界の頂点に返り咲いたのが、INAC神戸レオネッサだ。2011、2012年のシーズンを無敗で制し、黄金期を作り上げた星川敬監督率いるチームは、2013年(この年は石原孝尚監督)以来、9年ぶりのリーグ制覇を果たした。

 昨年、9年ぶりに古巣へ戻ってきた指揮官は、まず、彼我の戦力を分析した。そして、前年度のなでしこリーグチャンピオン・三菱重工浦和レッズレディースと、皇后杯女王の日テレ・東京ヴェルディベレーザを追う立場と位置づけ、慎重な姿勢を崩さなかった。

 計算が立てやすい守備に注力して、開幕前のプレシーズンマッチを無失点での4戦全勝で終えると、タイトルから遠ざかっていたチームに自信が植え付けられた。

 10年前の黄金時代を知る髙瀬愛実は「星川監督が戻ってきた今、INAC神戸を知らない方に『どんなサッカーをするんですか?』と訊かれた時、シンプルに『強いサッカーです』と言える感覚がある」と全幅の信頼を表現した。
 
 その髙瀬のWEリーグ・ファーストゴールからI神戸の快進撃が始まった。守備陣は好セーブを連発する山下杏也加と、最終ラインを統率する三宅史織らを中心に指揮官の期待に応え、開幕から8試合連続の完封勝利につなげた。

 安定感抜群の戦いを続けるうちに、ライバルチームが徐々に星を落とし、ジリジリとリードが広がっていく。指揮官は「選手と私には『1強』で進んでいるという感じはなかった」と言うが、筆者が見る限り、大崩れにつながる危険性を感じたのは、皇后杯の敗戦と杉田妃和のアメリカ移籍を挟んで迎えた、ウインターブレイク明け初戦くらいだった。

「そういうターニングポイントや敗戦の後にしっかりと話し合い、立ち直る力が、このチームにはあった」と星川監督。キャプテンの中島依美も「目の前の一戦一戦に、良い準備をして戦った。それがこの結果につながっているのかなと思います」と振り返る。また、重苦しい空気が生まれると、そこに明るい雰囲気をもたらすチームスタッフの気配り、きっかけ作りもあったという。
 
 その後、上位対決で白星を並べ、優勝への道筋を確かなものにすると、田中美南の復調に合わせて、アウェーのベレーザ戦(16節)からは重心を前にかけていく。

 リスクを背負っての攻め合いにチャレンジした結果、優勝がかかる延期分の11節・サンフレッチェ広島レジーナ戦で今季初黒星(星川監督にとってはI神戸での3シーズンで初めて)を喫したが、4日後の20節・ノジマステラ神奈川相模原戦では広島R戦の敗戦を良薬にして復元力を発揮。相手の決定機を阻止し、その直後にゴールを奪うスリリングな展開で3−0の完勝を収め、優勝を決めてみせた。

 5月14日に行なわれる次節は、皇后杯女王の浦和Lとの「日本女子サッカーの頂上決戦」と言えるゲームだ。この試合は、国立競技場で行なわれ、キックインセレモニーには、I神戸OGの澤穂希氏、澤氏と同じく元日本女子代表の宮間あや氏が登場する。

 澤氏が在籍した10年前にI神戸で指揮を執っていたのも星川監督。当時は、圧倒的に強いI神戸への敗北を最初から受け入れ、失点数を減らすことに特化するチームさえあった。星川監督は、奇妙な試合運びを強いられる状況を嘆いた。

「ウチが勝っているのに、リードされている相手が自陣を固めて出てこない。勝つだけなら、そこで試合を締めれば終わり。でも、試合を見に来てくれているお客さんを満足させたいから、カウンターのリスクを背負って出て行くしかない」

 リードした強者が、戦意喪失した弱者をただ見下ろすだけなら、タイムアップまでの時間は、観客にとって苦痛でしかない。興行試合での1−0は、対戦相手に自分たちを追ってくる力とプライドがあるからこそ、成立する。
 
 I神戸は今季ここまで18試合を戦い、15勝2分1敗。その15勝のうち、半数以上の8勝が、10年前は許されなかった1−0。I神戸が狙い通りにシャットダウンしたゲームと、土俵際まで追い詰められたゲームが混じっているが、観戦していて退屈なゲームはひとつもなかった。

 さらに言えば、今季、先制したI神戸の逃げ切りを唯一阻止したのは、その時点で最下位のちふれASエルフェン埼玉である。上から下まで力が接近した、WEリーグの面白さが垣間見える。

 10年前のやり取りを思い出しながら、星川監督に話を振ると「今は、1−0でもつまらないという感じの試合はないと思います」と笑顔を見せた。「8つのウノ・ゼロと1つの失敗」には、日本の女子サッカーリーグが10年で歩んだ着実なレベルアップと、そこで独走Vを飾った初代女王の真価がハッキリと示されている。

取材・文●西森彰(フリーライター)

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