「当時2部リーグでこのクラブとサインをした時に、『将来こんなことが起こるよ』なんてのを誰かが言ったら、クレイジーだと思っただろうね。明日は自分達の感情を解き放って、エモーショナルにプレーをして、ファンの力で戦いたい」
 
 ウニオン・ベルリンのMFグリシャ・プレメルは2021―22シーズン最終節のホッフェンハイムとの試合前にそう語っていたが、その言葉通りチームは躍動感のあるプレーの連続で相手を一蹴した。プレメルも4分、右サイドを疾走してきた原口元気の見事なセンタリングをヘディングで合わせて先制点をマーク。最終的には5-1で大勝し、同節レバークーゼンに敗れたフライブルクをかわし、5位でフィニッシュすることができたのだ。

 キャプテンのクリストファー・トリンメルは「幸せなんてもんじゃないよ。今日でお別れになる選手もたくさんいたから、とても心が揺さぶられる。僕らが5位。言葉なんてないよ」と言葉を詰まらせた。

 オリバー・ルーネルトSDは「起きたことを信じるために、何度か頬をつねる必要もある。予想した専門家はいないだろう。正直に言えば私自身だってそうだ。こんな信じられないことに立ち会えるなんて」と試合後しばらくたってもまだ夢心地だった。
 
 チャンピオンズ・リーグ出場を狙っていたボルシアMG、ヴォルフスブルク、フランクフルトといったクラブが苦しむ中、ウニオンは力強く戦い続けた。それでも苦難があった。シーズン序盤に守備の要だったマルビン・フリードリヒがボルシアMGへ、冬の移籍市場ではそれまでエースとして活躍していたマックス・クルゼがヴォルフスブルクにそれぞれ移籍していったのだ。

 動揺がなかったわけではない。試合に勝てない時期もあった。でもそこで踏みとどまり、また勝点を積み重ねられるようになったのには、監督ウルス・フィッシャーの存在が間違いなく大きかった。

 56歳の指揮官は飛躍のシーズンをこう振り返っている。

「レシピがあるわけではないし、持ってもいなかった。助けとなるのは前を向くということだ。起こってしまったことに影響を及ぼすことはできないのだから。大事なのはそこから何をするかだ。どの選手も重要だというのを常に考えていた。そしてチームはそれを受け止めてくれた。チームは練習からそれまで以上に取り組んでくれるようになった。チームとして道を見つけたのだ。7試合で勝点4しか取れない時期もあった。重要だったのは、我々はマルビンやマックスの移籍を受け入れ、そこに一度も縛られることなくやってきたことだ」
 そんなフィッシャーの下で選手はさらなる成長を遂げていく。チーム5番目に多いリーグ30試合に出場した原口もそうだ。

 ウニオンには規律立った守備とカウンターの鋭さがある。ジェラルド・ベッカーとタイウォ・アボニというスピードとフィジカルで持ち運べる選手がいる怖さがある。そして2列目からプレメル、原口という選手が足を止めずにペナルティエリアまで押し寄せてくる迫力がある。

 ボールを失うや否やすばやく相手にプレスをかけるか帰陣をすることが求められるが、ウニオンでポジションをつかむというのはそうしたプレーのクオリティが相当に高くないとダメなのだ。

「原口は試合を通じて何度もスペースに走りこんでくれた。足を止めることなく走り続けてくれた。相手がボールを持った時にすぐプレッシャーをかけてくれるなど非常にいいプレーを見せてくれた。素晴らしい仕事だ。彼のような走力がある選手はチームにとって貴重だ」
 
 フィッシャーはこのように原口を評価していたことがあった。もちろん走れていればそれでいいというわけではない。ボールを持った時に確かな判断力でボールをコントロールし、次の展開につなげていくし、得点につながるプレーの精度も高い。原口は自身の取り組みについてそのように明かしてくれたことがある。

「個人的に意識しているのはボールが来る前に周りを見ておくこと。どれだけ認知できるかだと思うので、中盤の選手は。そこらへんは続けていきたいですね。いい選手でも取られるときは取られるから。そこで恐れずに受け続けるというのは大事」

 チームとして求められることがある中で、選手として取り組み続けていることがある。その継続性があるからこそ今の成長につながる。そこにはそうした取り組みを認めてくれる監督の存在も重要だ。

「監督には『Zum Ball(ボールに行け!))ってすげぇ言われるから」

 昨年11月のマインツ戦後に原口はそういいながらも笑っていたのが印象的だった。いい信頼関係が築けている証だ。

 昇格3年目のクラブが2度目のヨーロッパカップ戦出場。今季はコンファレンスリーグで新シーズンは一つ上のヨーロッパリーグ(EL)に参入だ。素晴らしい快挙だ。それでも、フィッシャーがみてるのはいつも「これからの自分たち」だ。

「どんなことでもそこからさらに先への道がある。今シーズンは素晴らしかったが、私たちはカップ決勝に進出することも、コンファレンスリーグだって勝ち残ることもできた。今が最も最高の時と誰が言えるだろうか。サッカーは情熱だ。監督であるということは情熱だよ」

 謙虚さは見失わない。来季の目標も「一部残留」と言い切る。ブレない。その頑固さがいい。熱くサポートしてくれるファンとともに、ウニオンは走り続ける。

文●中野吉之伴

【関連動画】クルクル回転するドリブルで翻弄!先輩の原口元気に「ベルナルド・シウバ理論」をレクチャーする久保建英