スペインに何かにつけて主流派とは反対の意見を述べる有名なジャーナリストがいる。ラジオのコメンテーターである彼がよく口にする常套句が、「私が乗っている船には常に空席がある。意見が変わった人が乗り換えるだけの時間は十分にある」というものだ。もっともこのままでは、開幕から1か月が経過する前に、タケ・クボ(久保建英)の船は定員オーバーで沈んでしまうかもしれない。

 私も含めて、レアル・ソシエダのプレシーズンの戦いぶりをチェックしてきた方々は、タケの開幕戦のカディス戦でのスタメン入りを信じて疑っていなかったはずだ。むしろ焦点は、どのポジションでプレーするかだった。

 タケは、サイドで張りっぱなしになるのではなく、中央にも顔を出し、プレーに頻繁に関与したほうが持ち味を発揮する。中盤をダイヤモンド型にする4−4−2はウイング不在のシステムのため、余計に選択肢は限定される。

 そんな中、直前にカルロス・フェルナンデスが怪我を負っていることが発覚。タケは最前線のアレクサンデル・イサクの周辺で動くセカンドトップの役割を任された。

 タケの資質を当初から疑っていなかったひとりが、他でもない監督のイマノル・アルグアシルだ。試合終了後、指揮官が送った「デビュー戦でゴール。とりわけ私が好んでいるのがハードワークだ。今日の試合の入りもそうだが、積極性が素晴らしい。加入した初日からそうだった」という称賛の言葉はその証だ。

 一方のタケも、同じく試合後に「ミステルは僕を後押ししてくれる。それがいい方向に進んでいる。初日から僕を信頼してくれたことに感謝している」と口にした。
 


 タケはドノスティア(サン・セバスティアンのバスク語の地名)での新生活を順調にスタートさせた。新天地デビューとなったボルシアMG戦では、後半から登場し、好パフォーマンスを披露。早速、獲得懐疑派を黙らせると、今回は決勝ゴールで公式戦デビューに花を添えた。

 立ち上がりからタケは好調ぶりを伺わせた。カディスは最終ラインと中盤の2ラインで分厚い守備ブロック形成したが、機動力と相手の視野を盗む知性ある動きが際立ち、相手DFに揺さぶりをかけ続けた。

 そして24分、起点となったのは、ブライス・メンデスの素早いアプローチだった。前を向いてボールを受けたミケル・メリーノが柔らかい浮き球のパスを送ると、タケが反応。ゴール前に飛び出したレフティは、左足で巧みにボールをコントロールし、右足のボレーでゴールネットを揺らした。ゴラッソだった。

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 ゴールシーンに代表されるように、タケのボールが吸い付くようなファーストタッチには本当に目を見張るものがある。この日は、珍しくいくつか正確に足下に収められない場面もあったが、積極的にボールに絡み、攻撃を牽引し続けた。

 そんな中、一つ課題を挙げるとすれば、イサクとのコンビネーションだ。ただ、これはタケの責任というより、淡白なプレーが目立ったイサクの不調によるところが大きい。対照的にタケは78分にピッチを退くまで、精力的なパフォーマンスを見せ続けた。

 タケがこれから手本とすべきロールモデルは、2019−20シーズンにソシエダでプレーしたマルティン・ウーデゴーだろう。19年夏に同じくマドリーからレンタルで加入した現アーセナルのMFは、1年間、攻撃の中心選手として君臨した。
 
 心強いのは、この夏、フィニッシュワークの精度の向上に重点的に取り組んだことを明かしたようにタケ自身が課題解決の優先順位を適切に見極めることができている点だ。試合を重ねるにつれ、少数派になっている懐疑派が突破口を開くとしたら同じくその部分だが、いずれにせよ彼らは、タケの活躍の前に疑心暗鬼に駆られているはずだ。

 第1節を終えて1得点。しかも勝点3獲得に繋がる値千金の決勝弾だ。初戦から大きく羽ばたいたタケは、早くもチュリ・ウルディン(ソシエダの愛称)のファンを虜にしている。

取材・文●ミケル・レカルデ(ノティシアス・デ・ギプスコア)
翻訳●下村正幸

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