ベルギーのエデン・アザールは長いことファントム(幽霊)だった。

 チェルシー時代はヨーロッパリーグやプレミアリーグ最優秀選手にも選ばれ、2018年のロシア・ワールドカップではベルギーの3位に貢献し、自身もシルバーボールに輝いた。

 しかし2019年夏にレアル・マドリーに移籍した頃から怪我が相次ぎ、コンディションも定まらない。やっと復活の兆しを見せた時には同じポジションのヴィニシウス・ジュニオールやロドリゴが台頭してきたこともあり、彼の出番はどんどん減っていった。

 マドリーに移籍してからの彼の出場回数は約3シーズン半で72試合。今シーズに至ってはリーグ戦3試合、チャンピオンズリーグ戦3試合の計6試合のみ。それもフル出場は一度もなく、あとは常にベンチを温めていた。

 しかし、そんな調子にもかかわらず、アザールはカタール行きのメンバーに選ばれた。彼にとっては3回目のW杯、今回もベルギーの10番を背負いキャプテンマークをつける。
 
 この選出に首をかしげるメディアも多く、記者会見では「自分が選ばれるにふさわしいと思うか」という辛辣な質問が飛ぶ。それにアザールはこう答えた。

「ここ2年にやったことから判断すると、ノーだ」

 誰よりも彼自身がプレーしていないことは実感している。

「しかし、過去15シーズンの成績からすれば、値すると思う」

 試合のリズムがつかめないのではないかという質問に関しては、「僕自身は問題ないと思っているが、皆がそう思っていることは理解している」と返した。

 そして、やはりクラブでの出場回数が少なかったまま戦った昨夏のEUROの例を出した。

「グループステージで出場時間を稼ぎ、ラウンド16のポルトガル戦では決勝ゴールも決めた」

 彼を選んだロベルト・マルティネス監督は、チームに欠かせない存在であることを強調した。

「彼がチームにもたらすクオリティ、経験は無視できないものだ。そしてなによりも彼の持つ人間的資質。彼がロッカールームに入ってくると、部屋が明るくなるんだ」

 そうして迎えた本大会で、アザールは決して悪いプレーをしているわけでないが、まだインパクトを残せていない。

 チームもカナダとの初戦は1−0でモノにしたものの、続くモロッコ戦でまさかの0−2敗戦。グループステージ敗退の危機に陥っている。

 アザールはキャリアの花道を飾るために、この大会に懸けている。またベルギー代表にとっても、ティボー・クルトワ、ケビン・デ・ブライネ、ロメル・ルカクら黄金世代でタイトルを狙う最後のチャンスだろう。

 グループステージ最終戦のクロアチア戦で、アザールはチームを勝利に導く活躍ができるか。ここ敗退すれば、もう彼のキャリアが輝きを取り戻すことはないかもしれない。

文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。

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