コーチになっても、俊輔はやっぱり俊輔だった。

 昨季限りで26年間のプロ生活に幕を下ろし、今季から横浜FCのトップチームのコーチに就任した元日本代表MF中村俊輔。5月に入り初めて報道陣に公開された8日の練習では、すっかりコーチ業が板についた元気な姿を見せてくれた。

 とはいえ、全体練習ではまだどことなく、控えめな印象を受けるのは、気のせいか。周囲に気を配り、人を立てる俊輔の性格からすれば、それも当然なのかもしれない。今はいちコーチとして、監督、他のコーチ陣、チームのサポート役に徹しているのだろう。

 ただし、全体練習が終了すれば、話しは別。そこからが、まさに俊輔の本領発揮だ。この日は、ユースから2選手がトップチームの練習に参加。全体練習後にFK練習を始めると、俊輔はスッと寄っていき、気軽に声をかけ、そして自ら実演して指導を行なった。

「もうちょっとこする感じかな」、「そうそう、そんな感じ!」。子どもに語りかけるような俊輔の優しい声が、清々しい青空に包まれるように聞こえてくる。

 世界を震撼させたFKの名手に直接指導されたラッキーな選手は、U-16日本代表にも名を連ねるDF佃颯太(そうた)君、16歳。何とも贅沢な個人レッスンだが、そこでふと思い出したのが、俊輔が引退会見で語ったある言葉だった。

「小学校から教わった先生や、指導者の方々が自分にしてくれたこと、支えてくれたことを、自分が指導者としてやることで、少しでも恩返しになるかな」
【動画】J30年の歴史で最も輝いた俊輔のFK弾
 聞くところによれば、俊輔は時間が許せば、午後に行なわれるジュニアユースの練習にも顔を出し、アドバイスを送ることも少なくないという。最近では、クラブハウスで晩ご飯を済ませて帰宅することも多いようだ。

 数年後、俊輔に指導された教え子たちが、Jリーグのピッチで躍動する――。早くも期待に胸がふくらむ。

 もちろん、トップチームの選手たちへのケアも怠らない。チーム練習中ではこまめに声をかけ、全体練習が終われば、GK市川暉記のシュートストップの練習に付き合い、今もさび付くことのない左足を幾度となく振り抜くのが恒例となっている。

 実は、このGKとの特訓、シュートの感覚を研ぎ澄ますために、俊輔が現役時代にもよく行なっていたトレーニングだ。GKたちにとっても、俊輔のシュートを受けられるのは、この上ない鍛錬となる。実際、榎本哲也(現・横浜GKコーチ)、飯倉大樹(横浜)ら多くのGKが、俊輔とのマンツー特訓で成長を遂げてきた。

 コーチとなった今は、軸が自身よりGKにかなり寄ったことは間違いないだろう。ただ、俊輔も現役時代と変わらず、そうやってボールを蹴り続けることで、技術を落とさず、コーチとして、監督として、常に実践できる存在、良いお手本であり続けたいと考えているのではないだろうか。

 永遠のサッカー小僧は現在、A級コーチライセンスを受講中。順調に行けば、来年にもJリーグ、WEリーグおよび日本代表(男子、女子)の監督を務めるために必要なS級コーチライセンスも取得できる見通しだ。スタートしたばかりの俊輔の第二のサッカー人生。現役時代同様に様々なドラマが起こりそうで、今からワクワクする。

取材・文●垣内一之(スポーツニッポン新聞社)

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