欧州カンファレンスリーグ準決勝・ウェストハム戦の試合前、オランダ1部AZアルクマールに所属する日本代表DF菅原由勢は、英メディアの注目を集めていた。

 欧州カンファレンスリーグは、欧州全体のレベルアップを図る狙いで2021年に創設された新しい大会。位置づけはチャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグに次ぐ、第3のコンペティションとなる。その注目度はイングランドでも決して高くはないが、ウェストハムが準決勝まで勝ち進んだことで、英サッカーサイトの『ジ・アスレティック』がAZの特集を組んだ。

 鋭い分析に定評のある『ジ・アスレティック』は、「サイドバックの攻撃参加と、パスを丁寧に繋ぐビルドアップがAZの特長」と指摘。攻撃の一躍を担う右SBの菅原にスポットライトを当て、次のように記した。

「菅原のストロングポイントは、精度の高いクロスボールにある。ハーフスペースに滑り込み、鋭いクロスを供給する重要な役割を担っている。その結果、日本代表は1試合平均で4本のクロスを入れており、今シーズンの公式戦で11アシストを記録しているのだ」

 最近ではドイツのドルトムントが菅原の獲得に動いているとの報道もあるが、果たして英国人記者の目にはどのように映ったのか。ウェストハムとの第1戦で現地取材を行なった英紙『デーリー・テレグラフ』のサム・ディーン記者に菅原の印象を聞いた。
 
 同記者はアーセナルを中心に取材を行なっているが、三笘薫の所属するブライトンやロンドンを拠点とするクラブも精力的に追いかけている。「冨安健洋も三笘薫も素晴らしい選手」と日本人選手を高く評価するディーン記者は、オランダ国内リーグで11位タイの8アシスト(AZではチーム最多)を記録している菅原について次のように評した。

「非常に技術力の高い選手で、日本代表でプレーしている理由がよく分かった。22歳とまだ若く、成長の伸びしろも秘めている。日本国内で期待されていることにも納得だ」

 ディーン記者は「ただし」と注文をつける。「守備で物足りなさを感じた」とし、その理由を述べた。

「注目したのは、アルジェリア代表FWサイード・ベンラーマとのマッチアップだ。前半はまずまず抑えていたが、後半はベンラーマの対応に苦戦しているように見えた。プレミアリーグのサイドバックは、まず堅実な守備でサイドアタッカーを封じるのが最も重要な仕事になる。攻撃参加よりも先に、守備をきっちりこなす必要があるんだ。

 菅原はベンラーマをまずまず抑えていたし、決定的な仕事をさせたわけでもない。悲観的になるパフォーマンスでは決してなかったが、完璧に封じたとは言えなかった。ベンラーマと菅原のどちらのプレーが良かったかと聞かれたら、ベンラーマに軍配が上がるだろう」

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 オランダ屈指の攻撃的SBとして台頭してきた菅原について、もう少し突っ込んだ質問をしてみた。「菅原はプレミアリーグでプレーできると思いますか?」と。ディーン記者はこう答えた。

「攻撃参加が持ち味と聞いていたが、ウェストハムとの第1戦では高い位置でボールを触る場面が多くなかった。この試合だけで、彼の攻撃力を評価することはできない。

 ただ先に述べたように、守備については改善の余地がある。ウェストハムは、後半途中から強さと高さ、スピードを総動員して攻勢に転じた。その際、ベンラーマが攻撃の軸となっていたが、菅原は彼の存在感を消せなかった。守備面で不安が見えたというのが私の見解だ。そのため現時点で言えば、プレミアリーグへの挑戦はまだ早いと指摘せざるをえない」

 ディーン記者は「それでも……」と言葉を続ける。監督の考え次第では、菅原の獲得に動くクラブが現われる可能性もあると話した。

「興味深いのは、菅原が偽サイドバックのタスクをスムーズにこなしていること。チームのポゼッション時に、菅原は中盤までポジションを上げ、さらに中盤の内側に絞ってプレーした。偽サイドバックを導入するクラブはプレミアリーグでも最近増えているが、あのタスクをこなせるサイドバックはプレミアリーグでまだ少ない。つまり、監督の考え方次第で、菅原が補強候補に挙がっても不思議ではないということだ」
 
 最後に、ディーン記者はアーセナルの冨安を引き合いに出した。

「アーセナルには冨安健洋がいる。冨安の素晴らしさは、まず守備がしっかりしていること。1対1の競り合いに滅法強く、空中戦も負けない。ここが冨安のベースになっている。そのうえで、偽サイドバックのタスクをこなせるという付加価値がついている。

 同じサイドバックでも、冨安と菅原ではプレースタイルが大きく異なるのは承知しているが、菅原には守備の安定がまず求められる。ここをクリアすれば、プレミアリーグへの道が見えてくるかもしれない」

 現地18日に行なわれるウェストハムとの欧州カンファレンスリーグ準決勝・第2戦で、菅原は最高のパフォーマンスを披露できるか。ディーン記者は「攻守両方でチームを決勝に導くパフォーマンスを示せば、プレミアクラブのスカウトの目に留まるチャンスは十分ある」と語気を強めた。

取材・文●田嶋コウスケ

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