3月3日に開幕したJ3も10節を消化。長野と富山が勝点20を確保し、J2昇格圏内に位置している。逆にJ2経験のある北九州や相模原が下位に沈むなど、今季のJ3は波乱に満ちた展開となっている。

 昨季は凄まじいスタートダッシュを見せ、一時は首位争いをしながら11位に終わった福島ユナイテッドFCも、現在18位と想定外の戦いを強いられている。

 今季はJ1でプレー経験のある宮崎智彦、古林将太などを補強。昨季の主力である大武峻や田中康介、森晃太、延祐太らも残留し、もう一段階上のステージを目ざせる陣容が揃ったはずだったが、就任2年目の服部年宏監督にとっても誤算が生じているという。

 指揮官がここまでの流れを説明する。

「(年間運営費が4億弱の)福島は資金面が脆弱で、思ったような選手補強ができないクラブ。大卒新人を取ったり、特に他クラブから若手を借りたりして、成長を促しながら結果を出そうと考えて、取り組んでいます。

 今季は昨季より高い水準からスタートできるという見通しで、プレシーズンの準備を進めたんですが、開幕時点で思った水準に達していなかった。今治、相模原、宮崎に開幕3連敗を喫して、最初から苦戦を余儀なくされました。

 その後も若手に好不調の波が見られたり、決定力不足にあえいだりと苦境が続きましたが、4月以降は復調傾向にありますね」

 かつて磐田で黄金期を築き、1998年フランス大会、2002年日韓大会と、二度のワールドカップに参戦した元指揮官だけに、ボールを保持して主導権を握るスタイルへのこだわりは強い。「自分はどこまで行っても蹴れないですね」と本人も苦笑いしたほどだ。
 
 けれども、降格制度が導入された今季J3は結果重視のシンプルなスタイルにシフトしたチームが目立つ。その変化も福島の戦いを難しくしている要因になっているという。

「昨季はボール保持を志向するチームが多かったんです。でも今季は長野や富山を見ても分かるように、縦に早くというチームが増えた。神戸や名古屋が上位にいるJ1、町田がトップを走っているJ2を見ても、そういった傾向が強いと感じます。

 自分たちはポゼッション主体のスタイルを継続していますが、理想と現実のバランスを考えないといけないのは確か。そこは僕自身の大きなテーマでもあります」と、服部監督は神妙な面持ちで語る。

 指揮官同様に、かつてトップ選手だった北九州の田坂和昭監督、相模原の戸田和幸監督、沼津の中山雅史監督、いわての松原良香監督らも、ここまでの序盤戦で快進撃を見せられていない。

 J2から降格してきた琉球にしても、倉貫一毅監督が今月解任されている。元Jリーガー指揮官には今、逆風が吹いているのだ。

「みんな『理想と現実の落としどころ』で苦しんでいるのかなと思います。自身がプロで長くやってきた分、知識も経験も豊富ですし、やりたいサッカーはあるけど、その通りにいかない部分が少なくないですからね。

 プロである以上、やはり結果を求められますし、僕ら福島もJ2昇格という目標に向かって突き進まないといけない。となれば、より明確な判断や決断が必要。僕も常にチームを見ながらアジャストできなければダメ。その作業は本当に難易度が高いけど、やるしかないんですよ」と服部監督は力を込めた。

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 少しでも理想に近づけて、勝っていくためには、選手個々のレベルアップが不可欠だ。J3の場合、個人へのアプローチがより重要になると指揮官は認識している。

「僕自身、指導者のスタートがジュビロで、2021年には暫定監督もやらせてもらいましたけど、昨年頭に福島に来た時には『個々のベースが全然違うな』と正直、感じました。

 上位カテゴリーにいる選手たちは『これをやってくれ』と言わなくても、やるべきプレーを選択できるし、ピッチで表現できる。でもJ3はそれが当たり前じゃない。その実情がよく分かったので、僕はこの1年半、個のレベルアップに多くを費やしている。8割くらいは個にフォーカスしているといっても過言ではないですね。

 やはり、戦術うんぬんよりも、1人1人を引き上げることが勝利への近道。練習メニューから細かく工夫を凝らして、無意識のうちにいろんなプレーや判断ができるように仕向けています」と彼はしみじみ言う。

 服部監督とともに磐田の黄金期を築いた日本代表の名波浩コーチも、2021〜22年にかけて松本を率いた際、非凡な得点センスと打開力を備える横山歩夢(現鳥栖)に個人戦術を徹底的に叩き込み、リーグ11得点を奪うまでに飛躍させている。

「名波さんがやったような個人へのアプローチは本当に重要。ウチも昨年は橋本陸(現相模原)や諸岡裕人(現秋田)らが大きく伸びて、個人昇格しています」と服部監督は語る。
 
 もちろん光る選手は必ずと言っていいほど上位クラブに引き抜かれるが、それは日本サッカー界全体にとってはプラス。日の丸経験のある指揮官はそういう意識も持ちながら、日々、現場に立っているのである。

「ウチの大卒選手なんかを見ていても思いますけど、プロとアマチュアの差がなかなか理解しきれない部分がありますよね。プロであれば、カウンターを食らってファウル覚悟で止めに行かないといけないシーンは絶対にあるけど、それができなかったりする。

 今季もそれができなくて3失点くらいはしている。身体を張るか張らないかで、勝点や順位が大きく変化することを、若く経験の少ない選手には頭に叩き込んでもらわなきゃいけない。そういったところから伝えているんですよ」

 服部監督の現役時代は、まさにそういった「際(きわ)の部分」に強くこだわり、敵を徹底的に潰していた。そんな“服部イズム”が深く浸透し、福島が上位躍進のきっかけを掴むのは果たしていつなのか。その日はそう遠くないと指揮官はポジティブに捉えているようだ。(次回に続く)

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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