「最高じゃないですか」9月9日のドイツ戦をそう捉える森保監督の真意は?【日本代表】
早くも始まるワールドカップ2次予選(11月16日から)に向けて、9月9日の国際親善試合・ドイツ戦(FIFAランキング15位)と、同12日のトルコ戦(同41位)は日本代表にとって「現在地」を知るアウェー2連戦になる。2期目のスタート4試合を2勝1分け1敗(12得点・4失点)で終えた森保一監督(55歳)は、「個の力、チームの立ち位置、今後やるべき課題、全てをW杯優勝国にチャレンジして学べる。最高の強化試合」と、ドイツ戦から2026年W杯北中米年大会、さらにその先へと続く地図を描く(7月中旬にインタビュー)。
日本代表
2023年の日程
3月24日 ウルグアイ 1-1/国立競技場
3月28日 コロンビア 1-2/ヨドコウ桜スタジアム
6月15日 エルサルバドル 6-0/豊田スタジアム
6月20日 ペルー 4-1/パナソニックスタジアム吹田
9月9日 ドイツ/フォルクスワーゲン・アレーナ
9月12日 トルコ/セゲカ・アレーナ
10月13日 カナダ/デンカビッグスワンスタジアム
10月17日 チュニジア/ノエビアスタジアム神戸
11月16日 ミャンマー/パナソニックスタジアム吹田
11月21日 シリア/未定(アウェー)
森保監督はこれまで口にしなかった意外な言葉を使って、日本代表が26年W杯へ進む道を表現する。
「(ここまでの4試合を振り返って)ある意味、壊れて良かったなと。もちろん積み上げてきたものを全部壊すのではないが、色々な選択肢を試すなかでノッキング(壁に当たる)するのもいいと思っていました。
成功体験の上積みだけでチームができれば理想的ですが、そんな平坦な道には絶対にならないし、もっと厳しい状況に臨むアジア予選、W杯本大会を見据えた時に、壊れたり、ノッキングして、できるだけお互いに修正点を広く、多く、深く共有できれば、厳しい戦いに必ず役に立つ。壊れたから修正し、進むべき、表現すべきサッカーの方向性が見えてきた」
3月はウルグアイ、コロンビアと南米の強豪に勝てず、そこから修正点や課題を共有した6月にはエルサルバドル、ペルーに勝利。新たな代表は成熟より、もう一度壁を這い上がる道を選んで今年前半4戦を終えた。
9日のドイツ戦を「最高じゃないですか」と言う。昨年のW杯で勝利した時とは異なり、吉田麻也や長友佑都といったベテランは不選出で、もちろん親善試合にW杯前と同じ十分な準備期間はない。
一方、来年EURO2024の開催国となるドイツは苦しんでいる。今年はAマッチ1勝1分3敗と、直近の4試合は未勝利で6月はポーランドに0-1、続くコロンビアにも0-2と完封負け。日本戦には、ハンジ・フリック監督の去就がかかるとまで言われており、日本戦と、その後のフランスとの親善試合で浮上のきっかけを掴もうとしている。
カタールとは違ったプレッシャー、メンバーで臨む今試合は、W杯(2-1)の再戦ではなく、まったく新しいチームがW杯優勝国からもう一度学ぶビッグチャレンジと監督は捉える。「最高じゃないですか」と答えたのは、より厳しい試合、さらに困難な状況が高いレベルへの成長をもたらすと想定しての言葉だ。
欧州の新シーズンが始まり、移籍した日本選手も過去例を見ない数となった。
5大リーグ(イングランド、ドイツ、イタリア、スペイン、フランス)では、プレミアリーグにリバプールに移籍した遠藤航、三笘薫(ブライトン)、冨安健洋(アーセナル)の3人が在籍。
セリエAはラッツオに加入した鎌田大地、ラ・リーガには久保建英(レアル・ソシエダ)、ブンデスリーガは板倉滉(ボルシアMG)、新10番の堂安律(フライブルグ)ら7人、リーグ・アンに伊東純也、中村敬斗(ともにスタッド・ドゥ・ランス)、南野拓実(モナコ)らが在籍する。
また守田英正(スポルティング)らがプレーするポルトガル、上田綺世が新天地を求めたフェイエノールなどオランダリーグ、さらに、日本人選手にとって登竜門ともいえるベルギー、シント=トロイデンにGKダニエル・シュミット、古橋享吾が所属するスコットランド・セルティックと昨季以上に選手は増え、それぞれの2部、他国リーグを入れれば100人を優に超える「海外組」という大集団が形成され続ける。選考する過程は、これまでとは比較できない難しさを抱える。
現状は、日本代表で長く使われて来た「国内組」と「海外組」の枠ではもはや収まらない。Jリーグを含めた世界中のリーグから選出するといった新たな枠組、指標作りが2期目の重要課題だ。
その発想を示すのか、8月31日の代表発表会見で監督は「(Jリーグで選出されていない選手の理由を聞かれ)前提として、ヨーロッパでプレーする選手の全員がJリーグから羽ばたいたという点は(メディアの)皆さんとも共有しておきたいと思います」と答えた。
具体的な話ではないが「ポイント制」など明確な評価の指標+総合的判断が求められるとする。
「これだけの人数、プレーの質を前提に、本当に『ポイント制』とか、そういうものを考えないといけない。結局は総合的に選ぶわけですが、これまでの4年で見てきた中で、各国リーグの違いはある。5大リーグの1部、さらに1部の中でも上位か、チャンピオンズリーグに出るクラブ、ヨーロッパリーグに出られるところ、などリーグに評価の序列はあります。反対に代表と所属チームの機能(役割)はイコールではない部分もある。
今、本当にいい選手がとても多く選択肢は広がり、レベルが高い中、何か指標は作らないといけない、持たないといけない。簡単ではないが、2部より1部、5大リーグでも上位でプレーし、より厳しい国際レベルにいる選手は高く評価しなくてはと考えています」
開催国枠を得て、予選がなかった東京五輪では、代表と「2チーム1カテゴリー」と大きなグループを構成できた。しかし26年へは、新しい枠組み、発想で厳しいアウェーを強いられるアジア予選に備え、カタールW杯で得た世界における日本代表の評価も高めなくてはならない。
W杯で初のベスト8を目指して掲げた「まだ見ぬ景色」は、こうした日常の些細な部分にすでに見えているのかもしれない。
<主な海外組>
イングランド
プレミアリーグ(3人)
三笘薫(ブライトン)、冨安健洋(アーセナル)、遠藤航(リバプール)
2部リーグ(3人)
中山雄太(ハダースフィールド)、三好康児(バーミンガム)、坂元達裕(コベントリー)
スペイン
ラ・リーガ(1名)
久保建英(レアル・ソシエダ)
2部リーグ(2名)
橋本拳人(ウエスカ)、勝島新之助(ジローナ)
イタリア
セリエA(1名) 鎌田大地(ラツィオ)
ドイツ
ブンデスリーガ1部(7人)
堂安律(フライブルク)、伊藤洋輝(シュツットガルト)、浅野拓磨(ボーフム)、板倉滉(ボルシアMG)、長谷部誠(フランクフルト)、原口元気(ウニオン・ベルリン)、奥川雅也(アウクスブルク)
※上記の7人以外では、チェイス・アンリはシュツットガルトU-21、福田師王はボルシアMGU-23、水多海斗はマインツU-23、福井太智はバイエルンⅡ、佐藤恵允はブレーメンU-23に在籍。
2部リーグ(10名)
田中碧(デュッセルドルフ)、室屋成(ハノーファー)、松田隼風(ハノーファー)、アペルカンプ真大(デュッセルドルフ)、伊藤達哉(マクデブルク)、遠藤渓太(ブラウンシュヴァイク)、上月壮一郎(シャルケ)、林大地(ニュルンベルク)、奥抜侃志(ニュルンベルク)、町野修斗(ホルシュタイン・キール)
※上記の10名以外では、内野貴史がフォルトゥナ・デュッセルドルフⅡに在籍。
フランス
リーグ・アン(4名)
伊東純也(スタッド・ドゥ・ランス)、中村敬斗(スタッド・ドゥ・ランス)、南野拓実(モナコ)、川島永嗣(ストラスブール)
オランダ
エールディビジ(6名)
上田綺世(フェイエノールト)、菅原由勢(AZ)、斉藤光毅(スパルタ)、小川航基(NEC)、佐野航大(NEC)、長田澪(フォレンダム)
ポルトガル
リーガ・ポルトガル(6名)
守田英正 (スポルティング)、中村航輔 (ポルティモネンセ)、藤本寛也(ジウ・ヴィセンテ)、渡井理己(ボアビスタ)、相馬勇紀(カーザ・ピア)、小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)
平坦な道にはならない、過酷な道と、26年までの地図をいくつか見せた監督が最後に選んだ「道」がもうひとつある。
6月には、カタールW杯のアジア最終予選中にトライした「4-1-4-1」に再び挑み2試合で結果を出して選択肢を増やした。またW杯でドイツを破った際の後半、大逆転に結びつけた3バックで三笘、伊東のウイングバックを脅威とする形を「90分やったらどうなるかも試してみたい」(監督)と話す。さらに「個人の力量をはかる格好の舞台」と、マンマークで入るのか、ドイツ戦のカードはいくつか手元にある。
そうしたなかでも、「王道」を強調する。タレントを活かしてサイドからの崩しが持ち味となれば、相手はストロングポイントを止めにかかる。そこで、選択肢を失うのではなく中央を攻めるのも今遠征の選択肢とする。
「真ん中から攻め切る。背後を突く。真ん中で起点を作ってサイドを活かす。優先順位、王道を忘れてはいけないとスタッフとも話しています」
1年前の9月、日本代表はドイツのデュッセルドルフでアメリカ(2-0)、エクアドル(0-0)と対戦。これが代表選考前最後の親善試合となり、W杯モードへと突入した。
日本代表にとって、ドイツという相手も土地も、重要なリ・スタート地点だ。
取材・文●増島みどり(スポーツライター)
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